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灰笛続き 12月15日 3つ 1357 これが初めてってわけでも無いからなあ

「離してくれ」


「やだ」


「じゃあ理由を話してくれよ、モア」


 理由をもとめている俺にモアが淡々と答えている。


「ルーフにはもっと別の対象を描いてもらわないといけないんだよ」


 結局はモアもまた自分自身の都合だけを考えているに過ぎないようだった。


「だめだねえ、じつにだめだねえ」


 モアは自分の頬を俺の唇の方に寄せながら悲しみに暮れる素振りを演出していた。


「上手い具合にテキトーに魔法陣の偉大さに感動させたところで、術式に対する復讐心を抑え込んで丸めこもうとしたんだけど。

 まさかそれ以上にルーフが魔法陣にこころを奪われるなんて」


「削除する意向が無いなら、何だっていいだろ」


 だから離してくれ。

 と願おうとしたが言葉が詰まってしまう。


 なんと言ってもすでにモアは抱擁と表現しても差し支えが無いほどに俺と体を密着させているのである。

 これ以上のスキンシップがあるだろうか?

 俺が美少女の、桜の花のように甘い香りを嗜んでいると。


「ちゅう」


 (ネズミ)の鳴き声のような音、その後に彼女の唇と俺の唇が触れ合っていた。


「……ッ?!」


 脈絡のない口づけに戸惑う暇も無く、呼吸を整える余裕など皆無で俺の呼吸が少女の口づけに阻まれてしまっていた。


 好きか嫌いかなら嫌いで、リアルタイムでようやく話くらいなら聞いてもいいかもしれない、もしかしたら仲良くなれるかもしれない程度の関係性。

 積み上げたはずのコミュニケーションを全て破壊し尽くす密接であった。


「ちゅうちゅう」


 モアは俺の唇の隙間から舌を割り入れてきている。

 歯並びが舐められ、息を吸おうとしている口の中の粘膜が彼女それと交ざりあう。


 クチュクチュと湿っぽい音が喉の奥から頭蓋骨の裏側に響き合い、反響する。

 濡れた音を聞きながら、そろそろ酸素不足で頭がくらくらとしてきそうになる。


 舌と舌が絡みあう。

 緊張に縮こまっている俺の肉をモアは解きほぐすように、自分のそれの先端で激しさの一歩手前の速度で掻き乱していた。


 むき出しの神経が互いに触れ合う。

 粘膜と粘膜がそれぞれの個別性を失おうとしていた。


 眩暈を覚えてきた。

 そんな頃合い。


「ぷは」


 モアは一方的に唇を俺のそれから離していた。

 

 息ができるようになった。


「ゼーッ! はあーッ!」


 酸素の供給と二酸化炭素の排出を激しく行う。


「いきなり何しやがる……ッ!??」


 開きっぱなしにたっていた唇から唾液がこぼれる。

 体液を拭うことも出来ないままに、俺はモアの体を押し退けようとした。


「なんだか元気になったでしょ」


「ぜえ……。なにが?」


 まさか下半身のことを言っているのだろうか。

 仕方ないとしか言いようがない、美少女にディープキスをされてしまったのだ。

 災害とまではいかず、災難と言えるだろう。肉体は悦んでいるが。


「勃起した下半身が気に入らねえなら、ちょうどそこに冷たい「水」があるから冷やすが?」


「やめといた方がいいよ。生殖器の冷却どころか今度はマジに存在が消滅して冷たい死体になりかねない」


 モアはしっかりと俺の下半身に目線を向けたままにしている。


「うーん、服の上からだといまいち具合が分からないね。

 ねえ、脱いでくれない?」


「断る」


 妹ならばまだしも、好きでも無い女、どちらかというと憎悪を向けたい女に大事な器官をさらけ出すなど、たとえ百万の金を積まれても断りた……──。


「……いや、百万貰えるならアリか……?」


「マジ? そのぐらいの金ならサクッと用意できちゃうよ? あたし」


 ラッキーである。

 宝くじよりも遥かな高確率で大金をせしめるかもしれない。


「ふざけとらんで! 早く健康を確保せんかい!」


 俺がアホのごとき誘惑に乗せられそうになっているのをミッタが冷静に、厳しく抑制してくれていた。


 話題が飛んでしまった。


■■■

(危険レベルです。疲労感が蓄積していませんか? 早急な専門機関の治療と安静を必要としています)


「それで? 結局このスマホの画面にある魔力量ってのは、俺の体に残されているエネルギーってことでいいんだよな?」


「正解! よくできました。花マルを付けてあげよう」


「いらねえよ」


 モアならばマジでなにも無いところに真っ赤な花マルを拵えそうな気配がある。


「ただのバイタルチェックアプリだよ」


 モアはとりあえず、まずはスマートフォンの内部に記載されている情報の子細についてを簡単に俺に説明しようとしていた。


「我らが古城の魔術師たちに作らせたアプリケーションでね、これさえあればその日の魔力のバランスをある程度計測して記録することが出来る」


「そうして集めた情報で、この灰笛(はいふえ)に暮らす魔術師を含んだ魔法使いどもはいよいよ本格的に古城……すなわち情報化社会の家畜で奴隷になると」


 そこまで言ったところで。


「あるじ様……っ!」


 ミッタが俺の脳天にチョップを炸裂させていた。


「痛って」


 脳が揺れ動く、背後からミッタの叱責が聞こえてくる。


「分かってても語るべではないことが在ろう。たとえそれが事実でなくともな」


「そうはいっても、なあ」


 嘘はつきたくないというのが俺の心情で、信条でもあった。

 どうしようもなく下らないが。


 幼女の溜め息がまた一つ聞こえる。

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