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灰笛続き 12月14日 2つ 1353 戦いはじめ、幕間終わり 二問目は越えさせない、越えられない

「でも彼女についての話ならまた別の、もっとアッついコーヒーを飲みながらでも」


「いいい?! なんでだよ」


 俺はモアに詰め寄りたかったが、しかしここは雲の上であって気軽に少女のもとに近づけられる地面はほぼ存在していなかった。

 ……いや、仮にここが晴天に加熱されたアスファルトの上だったとしても、俺が彼女に気軽に近付ける可能性こそ無に等しいのだが。


「もっと話したいのは山々だけど、実をいうとあたし、いま「仕事」の真っ最中だったんだよね」


 今更そんなことを言われても、という感じである。

 俺としては話が中途半端なところで終わってしまった気持ち悪さがある。 

 しかし不快感を解消できるほどに大胆な我が儘を貫き通す勇気も持ち合わせていなかった。


「実はもうすぐここに御身渡りが現れるんだ」


「お、オミ……ワタリ……?」


 なにやら物々しい気配がある単語の登場に俺は身を緊張させる。


「なんだよそれ?」


「なに、特別なことは無いよ」


 モアはそう言いながらスカートの右ポケットから左の手を使って一台のスマートフォンを取り出していた。


「ちょっと滅んだ世界の異物が流れてくるだけの話、ただそれだけの事だよ」


「異物?」


「そう、ほうっておくと都市の区画が一個ぐらい破壊されるぐらいの影響力かな?

 うん、大したことない」


「とてもそういう風には聞こえないが?!」


 もしかして俺は知らず知らずのうちにかなりヤバい現場に居合わせてしまっているのかも知れなかった。


 スマートフォンに表示されている電子時計の数を確認している。


「うん、まだ時間はあるね」


 そう言いながらモアは俺にスマートフォンの画面を見せてきていた。


 ■■■■■■■■■■■■■■■■■

(魔力は最適な量です)


「えっと……?」俺はスマホの画面にそれとなく見えた内容について考える。


「この謎の棒グラフは何だ?」


「残念、ちょっと惜しい。これは棒グラフじゃなくてただのメーターだよ」


 計測という目的の方向性が一緒ならば大して違いはないのではなかろうか?

 などという重箱の隅をつつくようなみみっちい感性の違いについて語っている場合では無いようだった。


「それじゃあ、さっそくいっちょ生贄になってもらおうか!」


 ひらめくように距離感を詰めてきている。

 抱きしめるような所作にて、モアは俺の体を巨大な「眼」のような現象の下側に移動させようとしていた。


「ちょ、おい……?! いきなり何するんだよ?!」


 展開についていけない俺は首筋にかかるモアの呼吸の気配にどぎまぎと。

 しかして思考の中枢にはしっかりと単語の不穏さについての不安を掻き立てられている。


「何をするにも、決まりきっているよ」


 モアはにこにこと笑いながら俺の体を運送し終えている。


「どうせここまで来たんだから、一回くらいは「眼」の奥にいる彼らに魔力をたっぷり捧げてみたらどうかな?」


 生贄とはそういうことか。

 しかしどうしたら生贄になれるというのだろうか?


()となることに拒否感は無いのかのう……」


 ミッタの呆れた声が遠くから聞こえてきた。

 どうやら彼女はこの状況からすでに脱していたらしい。


 ひどい話ではなかろうか? 生贄に捧げらえる展開が予想できたというのならば、ちょっとぐらい俺の事を助けてくれたっていいものを。


「何を言うか、生贄になれるのは生きている人間に近しいものだけじゃよ。

 そしてそれは、わしには無理なことじゃ。……ここで証明することは出来ないがの」


 どういうことなのだろうか?

 もしかすると……彼女は「普通の人間」では無い……?


 想像力を動かそうとした。

 心の中はイメージでたっぷりになっている。のは、肉体が減少から止めどなくあふれている「水」のような重さにまたたく間に包まれてしまったから。


 異常事態であるがゆえに、意識は素晴らしいまでの解像度で思い出を再生していた。


 ブクブクブク……。

 (あぶく)がいくつもの丸を浮かばせる。

 本物の水ではないのに、息苦しさは本物以上の苦痛を伴った。


 祖父の声が聞こえる。


「君の名前はとても素晴らしい探求差の名を貰い受けたんだよ」


 ああ、いまなら分かる。

 この名前は天使と同じ名前。

 この世界を救ってくれた誰かの名前だった。


 だが、しかしながらそれがどうだというのだろう?

 自分の名前は好きだが、そこに生き方についての指針を見出すことは出来なかった。


 であれば、自分は何をすべきなのだろうか?


 探求のこころが芽生えたところで、俺の体は大量の「水」のようななにかに落ちていた。


 ん? 落ちる?

 落ちるって……どこに?


 よく分からないが、しかし確かに俺は「水」と思わしきたくさんの何かに落ちていた。


 ブクブクと(あぶく)が自分の体のあちこちから膨れ上がる。

 柔らかい空気、触ればあっというまにはじけて透明になってしまう。


「違う」


 違和感はすぐに言葉になっていた。

 口を開けば咥内が冷たさに満たされる。

 頬の中身に侵入した魔力が粘膜と触れ合いぬるくなる。その頃には俺の体が泡になって消えかかっている事に気付きはじめていた。


 消滅については、不気味なほどに痛みは感じなかった。

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