灰笛続き 11月24日 3つ 1318 だったらせめてもう少しリスペクトしてほしいです
なにはともあれ、キンシは車を運転しているのであった。
「いやいやいや……っ??!」
ハンドルを固く握りしめたままで、キンシは現実の状況に強く、深く疑問を抱いていた。
「な、んななな……? なんでなんですか……っ??!」
キンシは車線の上にて、ただ前進しか出来ないでいた。
「なんで、どうして僕がエリーゼさんのお車を操縦しているのです?」
「そりゃあモチのロン」
魔法少女の疑問点にエリーゼが快い様子で受け答えをしていた。
「アタシがもう車の運転をしたくないからだよ~」
エリーゼは車の後部座席、ほんの数分前までキンシが腰を落ちつかせていた場所でのびのびと足を伸ばしていた。
「なんてったてぇ、キンシクンとこのイケメン魔法使いクンに危険な魔力をドクドクと注がれちゃったんだもの~。こんな状態で車の運転なんて、危ない危ないで、しちゃダメなんだよ~?」
エリーゼの主張にキンシは講義を続行させている。
「だからって、どうして僕が運転をしなくてはならないのです……?!」
エリーゼは引き続きキンシのことを説得しようとしていた。
「だってぇ~、このメンバーで一番の責任者は「ナナキ・キンシ」クン、アナタってことになるんでしょ~?」
エリーゼはキンシに確認、と言う名の確定事項を伝えている。
「だったら責任者として、この場面の問題を責任を以て、責任感たっぷりに責任を取ってもらわないと~」
「せ、責任……」
「責任」と言う言葉がどういう意味だったのか、キンシは段々と理解力を欠落させつつあった。
「落ちついて、キンシちゃん」
後部座席にて、メイがキンシに冷静さを取り戻すことを推奨している。
「安心なさい、となりにはトゥもいるじゃない」
メイに言われた通り、キンシは視線を左側に移している。
「…………」
助手席にはトゥーイがしっかりと腰を落ちつかせている。
柔らかさを適度に残した小麦パンの裏側のように白い髪の毛が、窓の向こうの暗黒にくっきりと主張の強いコントラストを描いている。
「んるるる……」
キンシが不安げに見つめている。
緑柱石のように鮮やかな緑色を放つ、トゥーイは少女の右目を見つめ返す。
「…………!」
そして分かりやすく見やすいところで、右手にサムズアップを作っていた。
「なにも大丈夫ではないですよ?!!」
トゥーイからどのような意向を受け取ったのか。
なんにせよ青年の激励では魔法少女の不安感を払拭することは出来なかったようだった。
「だってしょうがないよ~」
ならばせめて手向けの花として、エリーゼはそれらしい理由をキンシに説明している。
「このなかで一番魔力の量が多くて、だからそのまま古城までノンストップで運転できそうな体力、魔力、気力、精神力が有りそうなのって、キンシクンぐらいしかいないもん~」
もしかすると褒められているのかもしれない。
キンシはハンドルを握ったままでちょっとだけ期待する。
「質より量! 高級フレンチのコースよりもファストフードのビッグなハンバーガーで押し潰しちゃえ! ってカンジー」
残念ながら魔法少女の期待は外れている。
エリーゼは魔術師として、決して魔法使いとして嬉しくないであろう評価を客観的に下しているのみであった。
「んるる……そんなこと言われましても……」
ぜひとも魔法少女には、魔法使いとしての挟持を守ってもらいたい。
メイはひそかに期待した。
「ほめられたって、なにも出来ませんよお……」
しかし残念ながら白色の魔女の期待も外れることになった。
喜んでいる場合じゃないだろうと、メイはキンシに対して失望のような感情を抱く。
「そうそう、その調子ぃ~♪」
白色の魔女の杞憂も虚しく、エリーゼはしっかりと魔法少女のことを己のコントロールの下に設置し終えているようだった。
「だったらせっかくなら、運転でアタシたちにキンシクンの魔力の素晴らしさを証明して見ちゃいなよ~♪」
そんなこんなで、結局のところはキンシが古城への道中、車の運転を行うことになったのであった。
「不安だわ」
メイは自分の心理的感覚に、どこか異常ともとれるほどに強固な確信を抱擁していた。
「トゥ……? なんだか嫌な予感がするわ」
メイは助手席に座るトゥーイに語りかけている。
白色のふわふわとした羽毛に包まれたちいさな体を後部座席から前方、運転席に近しい場所へと移している。
「だいじょうぶかし……っ──」
メイの不安はそれなりの速度を以て現実に発現してしまっていた。
ギュウウゥゥゥウウン! と引力がメイの全身に襲いかかってきていた。
「……!」
メイはとっさに助手席の背を掴んでいる。
体の視点を支えつつ、メイは頭のなかですみやかに状況を把握し終えていた。
「キンシちゃん!」
メイは急ぎ体をキンシのいる方、運転席の背後に滑り込ませている。
ツナヲの横側へちいさな体を挟みこみ、誰よりも近く、魔法少女へ自分の言葉を届けさせようとしていた。
「だめよ、アクセルはイッキに踏んじゃいけないの!」
「んるる? そうなんですか?」
白色の魔女の危機感とは裏腹に、キンシはただ目の前の新鮮な技術に注目だけをしているようだった。
 




