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灰笛続き 11月24日 2つ 1317 忘れられない人が水たまりに溜まっていく

「この魔力の気配……! やっぱりあのイケメンのお兄さんとそっくりだ~」


「いやいやいや……一体全体どこの部分を嗅いで判別しているんですか……?」


 キンシの疑問点も、今回ばかりは流石にもっともたるものと言えた。

 なんといってもエリーゼはすでにキンシの股の間に顔を埋めるかのような、そんな格好になってしまっているのであった。


「あの……そろそろ離れてくれませんか?」


 さすがのキンシも他人に股の間のにおいをかがれるのには抵抗があるらしい。


「それいじょうの問題もあると思うわ」


 メイは状況について呆れのような感情を抱いていた。


「宝石店さんとキンシ……「ナナキ・キンシ」さんについてのお話し、とても興味ぶかいわ」


 メイはとりあえず相手を気付かるための前置きをしつらえている。


「かくさないで、全部お話してみて」


 幼い子供に語りかけるように、メイは左の手をそっとキンシの股の間……もといエリーゼの頭部に触れ合せている。


 乙女の体が一所に集まっている。それぞれの気配、においは交ざりあい、しかし最終的には雨の気配に冷たく飲みこまれていった。


「うーん、そうだねぇ」


 エリーゼはキンシの太ももに頬を寄せたままで、同じような恰好のまま、事情を話している。


「おじい様のお気に入りの魔法使いが、もしかするとキンシクンのキンシ……っていうかパパかもしれないのよ」


 父親についての指摘をされると、どうしてもキンシは精神を大きく動揺させらてしまうらしい。


 それも仕方がない、とメイはあきらめていた。

 呪いによって父親を異形に変身させ、こころはいまだに秘密の一室の水槽の中、無意識の海に沈んだままになっている。


 メイは図書館の最奥部(と言ってもどこが上やら下やらも分からない空間だが)。

 そこに潜む、秘められている怪物のひとつ。

 メイは先代の「ナナキ・キンシ」のことを思い出し、そして現状における同じ名前の魔法使いのことを見る。


 メイが見ている先。


「最初に名前を聞いたときはもしかして? って思ったよ」


 エリーゼが少し昔のことを思い出そうとしていた。

 茶色が映える瞳がキンシの太ももの上に視線を滑らしている。

 黒色の長靴下と肌の白さの境い目、かすかな膨らみを眺めている。


「でもさあ~、実物を見たら、これは流石に無いな、うん! 無しよりのナシってカンジ!」


 つまりは熟練した宝石店の店主であった祖父のお眼鏡にかなうもの、魔法使いがよもやこのような「モドキ」であるはずがない。


「まず魔力の質が違い過ぎる。洗練されていない、量は申し分ないとしても、運用の仕方が見るからに頭悪そうで見てられないもん」


「んるる……」


 自分にくだされた評価について、キンシはただうなだれて聞き入れるしか出来ないでいる。

 反論をしようとしない。

 のは、魔術師の評価が魔法少女本人にとってもそれなりに理解できてしまえる内容であること。

 ただそれだけのことだった。


「でも、ちょっと武器を見せてよ」


 エリーゼがキンシに要求をしている。


「ええ……嫌ですよ」


 批評を受け取ったばかりで、まだこころの傷は鮮度をぴちぴちと保ったままでいる。

 故なのか、キンシは少しばかり嫌悪を込めた拒否の意をエリーゼに伝えている。


「べつにこっちに手渡してほしいだとか、そういうワケじゃないよ~」


 エリーゼはキンシに膝枕をさせたままで、いつものノンビリとした調子を取り戻そうとしている。


「手に持ったまま、アタシの視界に見えるようにしてちょ」


「ええ……」


 動作としては簡単。しかしながらキンシはどうにも相手を信頼できないでいる。


「魔法使いたるもの、作ったものの批評は「大人」の対応をもって受け止めなきゃ」


 エリーゼは花の頭をキンシの太ももの合間にうずめる。

 魔術師のくぐもった声が停止した社内の天井へ、シャボン玉のようにふわりふわりと不安定にのぼっていった。


「んぐるるる……分かってます、理解しておりますよ……」


 「……たぶん」と付け加えつつ、キンシは大人しく魔術師の言う通り自分の武器を見せている。


 特別な動作は必要としない。

 ただ上着の胸ポケットからペンを一本取り出すのに、魔力などの要素を必要とする理由はなかった。


 キンシの左指が握りしめるモノ、それは一本の万年筆だった。

 黒色の本体に金色の縁取りが輝く、およそこの世界に広く使用されているであろう形状の万年筆だった。


「ふむふむ」


 エリーゼは少女の絶妙な硬さの膝枕の上でペンを軽く観察する。

 窓の外の風景、夜の闇に染まる空間を背景に、ペンは実体の境界線を曖昧なものにしていた。


「なるほどね、これが無事なら、とりあえずアタシはおじいちゃんに良い報告が出来そう」


 武器が無事ならば、商品として管理した経歴があるシステムが安泰ならば、「コホリコ宝石店」の一員であるエリーゼにとっては万々歳らしい。


「暇があったら、アタシんとこのお店に武器を見せに来てよ」


 あくまでも武器そのもの、商品が彼女にとって優先すべき事項であるらしかった。


「分かりました……」


 しかしながらキンシはそのことについては特に不快感を抱いてい無いようだった。

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