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灰笛続き 11月18日 3つ 1308 ログアウトしてもデータは続く

「おぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 叫び声を間近にてきいてしまった、実に耳障りな音だった。


「んぎゃっ?!」


 キンシがびっくりと肩を震わせている。黒色の柔らかな毛髪がぶわわ! と膨らみを増している。


「まあ、うるさい」


 メイは不快感を隠そうともせずに、覚醒してしまった人間の気配を見下している。

 どうやら蘇生魔法はそれなりに成功を果たしたようだった。


「うわ~、すごいすごい~」


 問題が解消されたことをエリーゼが視界のなかで認めている。

 彼女たちが視認しているとおり、人間はどうやら意識を取り戻しているようであった。


 呼吸行為に肺が膨らんでは萎むを繰り返す。

 胃が空気を孕んでゴロゴロと低くなっている。

 硬直しかけていた筋肉が生命活動共に緩む。


 排出すべき老廃物のあれやこれやが残留していなかったことが救いか、もしかすると魔法使いの一人は失禁ショーを期待していたのかもしれない。


「おはよう」


 「うるわし」を隣に意識しつつ、ツナヲは上品ぶった様子で人間に挨拶をしていた。


 …………。


「さようならは、いらないかな」


 ツナヲはひとりでフムフムと納得をしている。


「会う予定なんて無いし、野郎と再会とかマジ在り得ねえっての」


 担架に乗せられた人間が、浮遊機能を搭載した車両の内部へと収容されていく。

 この世界における救急車としての役割を持っている、車は古城の魔術師たちが操縦するモノだった。


「??」


 訳が分からないままに、人間は魔術師たちの手によって古城と言う医療機関のような機構を担っている場所へと搬送されていった。


「すっかり忘れているようね」


 メイは特に残念がる風でも無く、人間の様子から察せられた情報を自己の中に確認している。


「忘れている、とは?」


 結果はどうやら人間だけではなく魔法少女にも共通しているらしかった。 

 メイはため息交じりに情報を伝えている。


「ほら、あの他人(ひと)、私たちのことを怒りながら追いかけてきたじゃない」


「ああ! そういえばそうでしたね」


 起きた事件を思い出した。

 しかしながらキンシにしてみれば、その事実はすでに過去の無意識に仕舞い込む程度の情報でしか無いようだった。


「でもまあ、元気に生きているのでもう大丈夫でしょう」


 マイペースに他人の心配をしている。

 魔法少女の意見を許せないのは別の魔法使いの存在であった。


「いやいや、罪に対するしかるべき代償はまだ清算しきれていないんだよね」


 そういうツナヲのスマートフォンには通話ボタンがすでにセッティングされていた。


「あれれ? ツナヲさん?」


 そういえば人間の搬送作業中に何やらもごもごと通話をしていたような気がする。

 キンシは今さらながらに通話内容をツナヲに確認しようとしていた。


「なにやらウキウキとしていらっしゃいますが、なにか良いことでもあったのですか?」


「そりゃあもちろん、とても良いことが起きたんだよ」


 そのことについて、ツナヲがキンシに嬉しそうに話している。


「さっきのクソ人間、君のことを馬鹿にした(ゴミ)人間のバイト先の本社の重役とちょっとした知り合いで、だから連絡入れて直でクビにしてもらうよう頼み込んだんだ」


 ここまで語った所でツナヲの話は、少なくとも彼にとっては一区切りついているようだった。


「これで安心、少なくとも君の視界からはあいつは消えたよ」


「はあ」


 状況を飲み込めないでいるのはキンシだけであるらしかった。


「はああ?!」


 とんでもない事件が起きている。

 いや、起きてしまったのだ、目のまえで。


「ステキ!」


 権力による暴力を喜ぶのはメイの歓声。


「これで安心してあのお店を使えるわ。良かったわねえ、キンシちゃん」


 どうやら白色の魔女はとても嬉しがっているようだった。

 表情は歓喜に満たされている。


「いや」


 状況が是として進もうとしている。空気感にキンシは危機感を奮い立たせようとしている。


「いやいやいや……?!」


 想像する、他人の身にこれから待ち受けるであろう不幸を想像している。


「なにを為さっているのです?? ヒト一人の労働環境を破壊してしまっているんですよ??」


「破壊っていうか、追放ってカンジだよねー」


 エリーゼがこの場面について、愉快でたまらないと言った様子でケタケタと笑っていた。


「マジサイコー! 別にあの他人(ひと)のこととか何も知らないし、これからも興味を持つことなんて無いんだけどさー」


 若い女性の魔術師の歓喜、純粋な喜びにキンシがびくびくと身を震わせていた。


「どうしてなのです……? いくらなんでもこれは、可哀想ではありませんか……」


 がっくりとうなだれている。

 そんなキンシをツナヲが励ますようにしていた。


「だいじょうぶだよキンシ君。「普通」に元気で健康な人ってのは、だいたいのことが起きても平和に生きていける、そういう特別な人種なんだよ」


「とんでもなくポジティブシンキングに偏った見解……!」


 魔法少女は自分以外のニンゲンたちに怯えに怯えまくっているのであった。

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