僕のスマホは壊れていないようだ
魔法少女の方を見ながら、メイは状況の不可解さについての追及を行っている。
「でも、そんな神様じみたコンピューターにも見つからないキンシちゃんの魔法って、きっとものすごく古くさ……──」
言いかけた言葉を無理矢理、蒟蒻ゼリーのように飲みくだしている。
「じゃなくて、アンティークでヴィンテージで古美術的価値観を持った魔法なのね」
「……無理矢理にポジティブシンキングな言葉を使わなくても、僕はすでに傷心ですよ……」
キンシはいくらか意識、こころの形を取り戻しているらしい。
普段通りの、どうしようもなく頼りない、正体の無い様子を己の肉体に再生しつつ、悲しみを静かに主張している。
「要するに古いってことだね」
傷ついた魔法少女のことを心配しつつも、しかしてツナヲは今は状況の確認だけを優先することにしていた。
「情報が古すぎて、コンピューターの管理から外れているんだ」
ツナヲは小さく諦めて、とりたてて残念がる風でも無く、むしろどこか「何かしら」の確信を抱いている気配を口もとの端ににじませていた。
「これじゃあ、現状この世界に流通しているネット環境じゃ、検索できそうにないな」
ツナヲはいま一度スマートフォンの画面をメイの方にかざしている。
白色の魔女の視線の範囲内て、スマホの明滅する電子画面が情報を明記していた。
「あら、私の魔法が検索されているわ」
一見すればそれは烏合の衆と変わらない情報、文字列でしかなかった。
もっと言えば車の製造番号のように、何も知らない、情報や知識にうとい人物が見れば意味不明の記号でしかない。
そうとしか認識できない。
事実。
「なんですか、これ?」
キンシにしてみれば、その情報はまったくもって意味不明な模様、文様や刻印にしか見えないようだった。
「んぐるるる……」
頭をウンウンとうならせて、キンシはスマホの画面に写る情報を、どうにかして自力で解析しようとしている。
試みている。
「クイックレスポンスコードにも見えますし、かと思えば家紋のようなシンプルさ、それと同時に難解な一億の価値があるであろう数学問題のようにも……──」
一言でまとめれば意味が分からない。
ただそれだけのことを言えばいいものを、魔法少女は実に無駄な努力をしているのであった。
「あきらめなさい、キンシちゃん」
メイが、子猫のように無垢でやわやわな魔法少女の努力のこころを一時停止させようとしていた。
「あきらめたくないとしても、そのこころはこんなところで使うべき内容じゃないこと、あなただって分かるでしょう?」
ある意味では叱責に近しい。
ともあれ、メイは自分の魔法が正しく作動したことを、ただ情報として受け取ることにしていた。
「とても、気持ち悪いけれど」
ヒミツもへったくれもない、一番大事な部分さえも情報としてただ累積するばかり。
幼子の手の平によって積み上げられる積み木よりも無価値、……いや、それこそ比較にも値しない意味になろうか。
「うん、とても気持ち悪いわ」
幼女の声で、メイはそこそこにワガママなこころで愚痴をこぼしている。
「魔法使いにとって、ヒミツはなによりも、自分の命と同然にタイセツなものであるはずなのに」
「あーうん、その辺については、オレもけっこう賛成できるね」
スマートフォンを使いこなしつつ、ツナヲは気軽な様子で白色の魔女の意見に賛同していた。
「昨今のインターネット至上主義には、もう、オレみたいな枯れ枯れの時代遅れには辛くて、辛くて切なくて仕方がないよ」
「んるる……? それはなにかしらの、たちの悪い冗談かなにか、ですか? ツナヲさん」
才能に満ちあふれているニンゲンに向けて、キンシが嫉妬の問いをひとこと投げかけている。
賽銭箱になけなしの願いとコインを一枚投げ入れるように、行為自体に科学的な根拠などは一ミクロンも確証されていない。
そう、頭では理解している。
であるが、しかしそれでもキンシは疑問符を抱かずにはいられない。
トゥーイがキンシに向けて、若干いやらしいにやつきをニチャニチャと浮かべるように、もはや生理現象の様なものである。
どうしようもない、仕方のないことであった。ただそれだけのことであった。
「なんにせよ、魔女コさんの魔法はキッチリ反応、データとして収集されたってことは、アプリケーションやらスマホの不具合じゃないってことだ」
ツナヲは諦めをつけて、スマートフォンと言う現代文明と共に時間を駆け抜ける、板チョコレートのような形状をしたデバイスを懐へと片付けている。
「そうだなあ、ねえキンシ君、君の持っている何かしらの機材で解決することは出来ないかな?」
いずれにしてもキンシの武器は怪物の肛門……もとい卵管モドキに埋もれたままなのである。
ツナヲに提案をされた。
ごくごく単純な内容。
「んるる……」
しかしどうにも、こうにも、キンシは困り果てた様子で喉の奥を低く鳴らすばかりであった。
「そういわれましても、ちょいとばかし、困ってしまうものなのでございます……」
 




