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だったらこの世界に戻ってこればいい

 さながらキッスでもするかのように、エリーゼは無遠慮にトゥーイの方に顔を寄せ付けてきていた。


「マジヤバ♥ 激ヤバ♥♥♥ ってカンジー!!!!」


 声に愛情表現をこれでもかと含ませている。

 キャバレークラブの嬢のような専門家であっても、ここまでの愛嬌を含ませられるものか。きっと難しい議題になることだろう。


 それはさておき、トゥーイは否応なしに、なかば無理矢理にエリーゼの瞳を凝視する羽目になっていた。


「いま笑ったよね、そうだよね? マジヤバなんですけどー♥♥♥♥」


 それこそ胸部のデリケートゾーンを愛撫? された時以上に、エリーゼはキラキラと瞳の中にきらめかせている。

 見ようによっては、あるいは体調がものすごく悪くて、悪化の果てに幻覚症状を来たしたとしたら、女性の瞳孔の奥に薄暗く♥(ハートマーク)が見えるのかも知れなかった。


「…………」


 いずれにしても、若い女魔術師に安易に近寄られているトゥーイ本人は実に、とても、とてつもなく分かりやすく不快感を露わにしていた。


 どのようにしているのかと言うと。


「うわあ~♥ そうやって冷たい目線で凝視されるだけで、もう下半身のお口がジュンジュンしちゃいそう……♥」


 エリーゼがトゥーイの感情表現を、自分自身の生殖本能の具合と共に簡単に実況してくれていた。


 まさしくその通り。

 トゥーイはその紫水晶(アメジスト)のように鮮やかな色彩の瞳に、現状、現段階にて最大限しぼり出せる分の敵意を(みなぎ)らせていた。


「いやああぁぁぁああ~~ん♥ そうやって見つめられるともう、これはもはやセっ……──」


 すこし離れたところ。


「聞いちゃいけないわ」


 メイがキンシの右手を、すこしつよく握りしめていた。

 とっさに魔法を使っている。治癒魔法の延長線上のできごと。


「んるえ……?」


 三半規管を刺激させられている、途端にキンシの聴覚器官が異常をきたしていた。


「め、メイお嬢さん……?! 僕に催眠の魔法を、かけないでくださ……」


 しかしすでに魔法は肉体に意味を付与していた。

 キンシはへなへなとその場に崩れ落ちている。


「ああ、嗚呼……人体の認識に直接的に訴えかける催眠の魔力……」


 目の焦点が合わなくなってきている。

 そんな魔法少女の様子と、魔女の計らいを見ていた。


「おいおい、まだミッドナイトには早いよ」


 ツナヲはスマートフォンを片手に、にこやかに眺めているのであった。


「ついでだから、さっきのキモチワルイ文章についても、無意識に追いやる呪文を……」


「あーっと、その呪文はまだここで使わない方がいい」


 ツナヲが白色の魔女の動きを抑制している。


「それよりも、ちょっと困ったことがあるんだが」


「あら、どうしたのかしら?」


 フラフラのふわふわにしてしまったキンシを放置して、メイは老人の魔法使いのほうに視線を向けている。


「ええ……せめて魔法を解除してくださいよ……」


 しかしメイはキンシのことを放置した。

 しばらく大人しくしていれば、とりあえずこれ以上不安が増えることは無いだろう。メイはそう目論んでいる。


 それで。


「どうしたの? その、ステキな魔術式でキンシちゃんの武器を検索するんじゃなかったかしら?」


「それはそうなんだが、しかしだね」


 ツナヲはとりあえず、スマートフォンの明滅する電子画面をメイの方に見せている。


 画面に写る、そこには。


「Unknown」


 解明されていないこと、分からないということ。

 ただそれだけが明記されていた。


「どうやらコンピューターに登録がされていないようだね」


 ツナヲの供述に反論、と言うよりかはむしろ反応に近しい震えを起こしていた。


「ええー?? それってありえなくないー??」


 どれほど異常なのか、エリーゼはすぐに例え話を作り上げている。


「スマホの全部がきちんと商品登録されているように、魔術は全部がちゃんとコンピューター、「カイネシステム」に登録されているはずなんだけれどー??」


 ツナヲは予想を考える。


「でも、魔法の場合はもう少しアバウトであっても可笑しくはないけどな」


「そうなの?」


 メイが小首をコクリとかしげている。

 白色の魔女の疑問点にツナヲはこころよく、リズムよく答えを返していく。


「個人の手によって作られるからね、さすがに全世界を支配し尽くすレベルのコンピューターでも、個人的に限定された思考までは把握できてないよ」


 「今のところはね」と、ツナヲは最後に付け加えている。

 

 さて、であればどういうことなのか。


「じゃあ、そのツールだとキンシちゃんの武器は回収できないのね」


 理由はともかく、まずは結果だけを確認している。


「ううーん? もしかしてアプリケーションの不具合かもしれないなあ?」


 ツナヲは特に困る風でも無かった。

 目玉焼きの黄身が破れてしまった程度の悲惨さにて、ツナヲはスマホをコチコチと指先で操作しようとしている。


「不具合かもしれないわ」


 メイは現状すぐに実行できるであろう、確認行為を選んでいた。


「ツナヲさん、ちょっとこっちを向いて」


 白色の魔女が、老人の魔法使いに要求をしている。

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