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嬉しくて怖い魔法の数々を思い出しては忘れていく

 とても驚いている、キンシはなにをしているのかと言うと。


「んぐるるるるるるる……!!」


 依然として物理的な手段を諦めていない。

 左の腕をずぷずぷと、人喰い怪物の肛門モドキに挿入したままで、その奥に隠れてしまった自らの所有物をやみくもに探し続けている。


「もう少し置くなのでしょうか……? そうなのでしょうか。そうだとしたら、もう僕の腕の長さでは探せられないのですよ……!」


 なんといっても卵管に潜んでいるのである。

 キンシは自身の持つ魔力の可能性に希望を抱き、そして同時に絶望と失望を来たしていた。


「ああせめて……せめて僕が悪魔と契約した能力者のように、腕を自在に伸ばすことが出来たのなら……」


「えー? 怪物の王国の王子(プリンス)様の方がかっこよくないー? ゴムは伸縮性の縛りがあるけれど、あっちなら念力で物理法則も完全に無視できるよー?」


 エリーゼの意見にキンシは夢想するようにしている。


「ああ、それは素晴らしいですねえ……。もしもそれになれたら、実写化したらきっとトップアイドル並みの色男にしてもらえますよ……」


「アタシはニノの方が好きだけどねー」


 なにやら娘らしい話題に花を咲かせているが、彼女らは怪物の偽物の肛門に腕を突っ込んでいるのである。

 ケツの穴に腕を沈ませながら語る話題にしてみれば、むしろどこか虚しさ、物悲しさを抱かずにはいられない。


 これは早く何とかしなくては。このままでは乙女な魔法使いと魔術師が人喰い怪物のケツについて、あれこれメルヘンを抱く変態になってしまう。


「…………」


 …………それはそれでいいのかもしれない。トゥーイはそう考えそうになってしまっている。


 邪念を振りはらうように、トゥーイはブルブルと(かぶり)を振っている。


 そうこうしているあいだ。


「ああ、なるほど、そういうかんじなのね」


 メイはすでに魔術式のひとつについて、歩いて井戸の理解力を到達させていた。


「ご理解いただけたかな?」


 ツナヲは白色の魔女の理解力にほんの少しだけ驚く。

 それはある種不安と似た気配を有していたが、しかしながらメイの方はそれに構うことをしようとしなかった。


「これで拡大したら、使われた魔法の姿を認識することが出来るのね」


「どちらかと言うと、登録された魔術の方がより検索に引っかかりやすいけどね」


 ツナヲは仕組みについてを説明する。


「「カイネ」システムって呼ばれている。いわゆるコンピューターみたいなものだよ」


 それはそれとして、メイは用事を思い出していた。


「じゃあさっそく、ためしてみましょうか。機会にちょうどが良いわ」


 そういいながら、メイはトコトコと別の魔法使いの方に歩み寄っている。


 違う魔法使いのことを見上げている。

 白色の魔女の、椿の花弁のような紅色の瞳が見つめている。

 そこでは。


「んぬうぅぅぅ……手が取れなくなってきました?」


 まるで牛などの家畜に受精行為を行う獣医のような格好にて、キンシが左腕のほとんどを怪物の偽りの肛門に沈み込ませている。その真っ最中であった。


「あらあら」


 メイは困ったように、とりあえず求められる分の助けを自分の行動として選ぼうとしていた。


「こまったわね。がんばるのはいいけれど、無理までするのはダメよ、ただの頭のわるいヒトになっちゃうわ」


 やんわりとした叱責をおくりながら、手頃に解決できる手段を思いついている。


「トゥ」


 メイが魔法使いの青年のことを意味する呼び名を口にしている。


「…………」


 紅玉(ルビー)のように紅い瞳、視線を受け取った。

 トゥーイがすぐさま行動を、両方の腕をキンシの腰回りに密着させている。


 背後から抱きしめる。


「イヤン、「あすなろだき」だね」


「…………」


 エリーゼが茶化しているのを、トゥーイは無言で聞き流している。

 仮に魔法使いの青年にこの世界における言語体系へのアクセスが可能であったとしても、そうだとしても、おそらくこの場面においては彼は無言を貫いたに違いない。


 ともあれ、トゥーイは少しの腕力にて、魔力に頼るまでもなく魔法少女の体を怪物の密着から解放していた。


「んふぅ……あ、ありがとうございます……トゥーイさん」


「…………」


 お礼など、もったいない御言葉、この上ない光栄である。

 ……とでも言わんばかりの主張にて、トゥーイは口元に穏やかで優しい微笑みを浮かべていた。

 それは意識的と言うよりも、ほとんど無意識に近しい領域にて行う、ある意味生理現象のように制御の効かない行為。

 性欲や食欲、そして何よりも睡眠欲のように当たり前の物。

 彼が彼としてこの世界に存在するうえで、少なくとも彼にとっては必要不可欠であると、そう信じている行為。

 ただそれだけのことでしかなった。


「あっれれえぇえ~???!」


 大げさすぎるほどの感情表現に手驚いているのは、エリーゼの口元であった。


「マジヤバ! マジまんじってカンジなんですけどー!!!!」


 感動を意味する最先端でnowナウな言葉を使いたがるほどには、エリーゼはこの展開に感動を覚えているらしかった。


 ウキウキとした様子で、エリーゼがトゥーイに詰め寄ってきている。

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