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灰笛知らない人が今日も生きていて死んでいる

 スマートフォンと共に、画面に映し出されているもの。それは。


「●●●● ────さんがあなたを追加しました

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 いつでもどこでも任務によってお金を儲けます。

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 全部を読み終わった。

 メイは一息ついている。


「ふう」


 いっぱい喋ったがゆえ、口の中がすこしかわいていた。


「んるる」


 言葉を受け入れようとした。

 キンシは油汚れに挑む新品のスポンジのような心持ちにて、文章をその身に受け付けようとする。


 少し考えた、そのあとに。


「んぐる、んぐるるる……」


 キンシの体がふるふると震えて、ゆらゆらと揺らめいている。

 もとより血色の少ない白い肌が、そこそこに分かりやすく青ざめてしまっている。


「あら……」


 これはいけないと、魔法少女の呼吸音を聞いたメイがすみやかに状況を判別していた。


 音読するべきでは無かったかもしれない。

 それもよりにもよってメイの、美しい幼女の鈴を転がすかのような声音で読み上げられてしまった。

 そんなことをしてしまうのならば、いかなる駄文、あるいは惨憺(さんたん)たる劇物

 


 空気を吸いこむ。

 雨に濡れる空気、タップリと含まれる細やかに柔らかく冷たい灰の粒が肺胞を駆け巡る。


 醜い文章を読んだ痛みが、すこしだけ癒された。


 これは後でケアをしなくてはならない。

 出来事を、メイは決める。


 ……安易に音読するのはまずかったかもしれない。

 メイは後悔する。

 すると同時に、行うべき注意分を自分の意識の中に実行しようとしていた。


「あ、ゴメンゴメン」


 ツナヲ特に慌てる様子もないままに、スマートフォンの画面に表示されている内容を取り消している。


「これはオレのアカウントに最近届いたばかりの、愉快で素敵な勧誘文だった」


 この世界のどこかに、こんなつまらない、(おぞ)ましい文章を考えるニンゲンがいる。

 そう思うと、メイはますますこの世界に絶望感を抱かずにはいられないでいた。


 ……まあ、勝手に絶望するだけであって、それで日々の生活に支障を来たすわけでもないのだが。


 ともあれ、ツナヲは今度こそ正しいと思われる情報を明記している。


 と言っても、やることは簡単。

 ただ画面の中を、指先の湿り気で指示を伝達、アプリケーションを電子の上に展開させるだけ。


 そうして現れたのは。


「地図ね」


 メイはやはり、見たままの情報を言葉にしている。


 それは地図としか言いようがない、まさしく地図である。


「なつかしの我が家、我が愛しき母国の島国が見えるわ」


「おや、あんがい愛国心に満ちあふれている感じかな?」


 ツナヲはすこし怯えたような気配を声音ににじませた、ような気がした。……気がしただけで、気のせいだったかもしれない。そうとも片付けられる。


 ともあれ、ツナヲの持つスマートフォンの電子画面には地図が表示されている。


「どうしたのかしら?」


 状況を飲み込めない、飲みこめないなりに、メイは認識できる分の情報を自らの内層に受け入れようとしていた。


「どこかお出かけでもするつもりなのかしら? この状況を放置して、ほったらかしにして、どこかのステキなカフェに……──」


「行くわけがない」


 ツナヲは早々に白色の魔女の想像を否定していた。


「これは、魔法を検索するためのツールだよ」

 

 ツナヲがスマートフォンの画面に写る内容についての、ごくごく単純で簡単な説明文を魔女に伝えている。


「マップ機能みたいなものだね。店や学校や役所やケーサツ署のように、ある程度の魔法や魔術、あるいはそれ以外。魔力、魔的な要素はこのアプリケーションで検索することが出来るんだ」


「それって……」


 メイはすこし考える。


「タイヘンだわ! ヒミツが無くなっちゃうじゃない」


 これはゆゆしき事態であると、メイは途端に慌てふためくようにしていた。


「今すぐそのシステムを破壊しなくては、魔法のヒミツが失われてしまうわ」


「メイお嬢さん?!」


 極論について、驚いているのはキンシの姿であった。

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