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感度良好喉の奥にはキノコが生えている。

こんにちはお世話になっております。

「イヤアァァンっっ……♥♥♥♥♥」


 傍から見ればうどんか、あるいは蕎麦(そば)でも打つかのような勢いと威勢の良さがあった。

 しかし触られた本人、痴漢行為を働かれたエリーゼにしてみれば、青年の手業は妙なまでに心地よい感触を覚えさせるものであるらしかった。


「ああん……っ♥♥ なんてすごいテクニック……っ♥♥♥」


 あの一瞬でそれほどまでの感想を誘発させることが出来るとは……。

 一体全体、あの青年魔法使いはどのような触り方をしたというのだろう?


 気になる、とても気になるが、しかしキンシは己の好奇心を必死に殺害している。


「トゥーイさん!」


 キンシはトゥーイの方をキッと強く睨むようにしている。


「いきなり女性の胸元を触ってはいけないって、何度言ったら分かるんですか!」


 その言い方だとまるでトゥーイ本人が常日頃から女性の胸部に凶行を強行しているかのような、そんな素振りがある。


「トゥ……」


 メイは思わずトゥーイの方を見てしまっている。


「…………!!」


 犯罪者、あるいは異端者を発見してしまったかのような、そんな目線を向けられている。

 トゥーイは慌てて弁明をしようとして、とっさに舌を直接動かそうとしていた。


「あ……! ……あ……!」


 しかし声をだすことは出来なかった。

 呪いの代償として、トゥーイの場合はこの世界に存在する言語体系を使用することが出来ないのであった。


「怒らなくてもいいんだよ~」


 魔法使いたちが互いに疑心暗鬼になっている。

 仲間割れの気配をバッググラウンドミュージックに、エリーゼは引き続きトロン……とした表情のまま、快感に肉体とこころを浸しているばかりであった。


「むしろアタシは超気持ち良かった……。とくに乳首、安易に乳頭を攻めずに乳輪の辺りをソフトに撫でる感覚が……──」


「うわーいっ?! エ、エエ……エリーゼさんっ??! 子細な実況をしなくていいですからっ……!!」


 アダルトチックな話題にキンシはいかにもバージンじみた拒絶反応を示している。


「まだ夜には早いですよ!」


「あらキンシちゃん」


 キンシの動揺っぷりを、今度はメイが不思議がる番であった。


「もうそろそろ、大人の時間にちかづいてきていると思うのだけれど?」


 日はとっぷりと暮れていて、(よい)はいよいよ本格的に始まろうとしている。


「そろそろよい子は、おうちに帰って、ママのお手製甘口ばー……モンドなカレーをおなかいっぱい食べなくちゃ」


「妙に具体的ですね……」


 白色の魔女の持つ「よい子」の基準に戸惑いつつ、それでもキンシは自らの主張を曲げようとはしなかった。


「それはそれとして、「コホリコ宝石店」の関係者にセクハラ行為を働いたとなると、この先の魔法使い人生にとんでもない損失をこうむることになりますが?!」


 キンシは自分なりの、自身だけ抱く不安感に夢中になっている。


「また、そのお店のお名前ね」


 メイはすでに聞き飽きた様子で、それでも話題を続行するならと、せっかくなら魔法少女の不安感を利用する運びを選んでいた。


「そうねえ……お店の関係者、なのよね?」


 メイの視線がエリーゼの方に向けられる。

 

 魔女の紅色の瞳が向けられている、問いかけに対してエリーゼは素直な解答だけを返している。


「そうだよー。関係者って言うかー、実家ってカンジー?」


 嘘偽りはない。

 事実に対して、しかしてキンシはいよいよ恐怖心を昂ぶらせているようだった。


「ひいい?! まさかの身内の方?!」


 恐怖の度合いが膨らんでいる。

 詳細までは理解できずとも、情報はそれだけで充分であると、メイはコマをさらに前へと進ませている。


「ねえキンシちゃん? そのお店の人に失礼を……うん、もうすでにトゥが働いちゃったのだし、それなら挽回として、ここは向こうさんのお仕事をお手伝いするのもアリだと思うのだけれど?」


「んぐるる……お仕事、と言いますと?」


 内容を確認するよりも前に、キンシはすでに白色の魔女の術中にはまっている。

 そのことにさえ気づかないままで、魔法少女はただ感情のままに生きるだけ、ただそれだけのことであった。


 …………。


「いやー、これに関してはマジで感謝ってカンジー」


 というわけで、魔法使いたちは人喰い怪物の口元を覗きこもうとしているのであった。


 エリーゼが魔法使いたちに、とりあえずの感謝の気持ちを言葉の上に用意しつつ、音声として並べ立てている。


「誰も彼も、人喰い怪物の口の中に入りこもうだなんて、そんな馬鹿みたいな真似したくないってカンジー。だからさー」


 エリーゼの声を背後に、キンシは適当と思わしきうなずきだけを返している。


「何でなんでしょうね?」


 キンシはこころの底から不思議そうにしていた。


「怪物の喉の奥なんて、生きていたら、意識や魔力が続いているうちは、そうそう簡単に見られるものではないというのに」


「だからこそ、じゃないかしら?」


 キンシの疑問にメイは猜疑の目線を向けている。


「もしも生き返って、自分がうっかり食べられたら、いったい誰が助けてくれるかも、なにもかも分からないのに」

ありがとうございます。

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