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目ン玉丸々丸ごとジュースに絞っちゃえ、それはそれとして仕事でミスしてマジヤバ♪

こんにちは。

「この世界のヒトはもう、この世界をあきらめているんでしょ?」


 メイがエリーゼに問いかけていた。


「そうだねー、確かにぃ、みんなもう期待はしていないと思うよー?」


 白色のフワフワと柔らかい羽毛を持つ魔女の姿。

 小さな肉体に閉じ込められている、魔女の意識に向けて魔術師が提案をしてきている。


「戦争が終わってから世界はボロボロ。おんぼろの空間はそこら中がズタズタで、冬枯れの皿洗いを終えた主婦(もしくは主夫)の愛しくて強い手の平のようにあかぎれまみれ」


 エリーゼはご丁寧に()(かっこ)の部分までしっかりキッチリと発音しながら、この世界の事情についてを語っている。


「あ、そういえばあかぎれってさぁ、結局どの名前が一番正しいのかなぁ?

 ひび割れ? それとも皮膚の亀裂?」


 どうでもいい質問である。

 だがしかし、魔法使いの少女はいたって真面目そうに答えるだけである。


「亀裂性湿疹、と言うのが症状名ではありますね」


「うわあ、なんだか真面目くさい名前。ヨケーに意味が分からなくなりそう」


 若い女性が困っている。

 それを見たキンシは、折り目正しく情報の補足を行おうとしていた。


「トゥーイさん、ぜひともご解説をお願い致します!」


 意欲的に説明を求めている。


「…………」


 無言のトゥーイ。


「わあ! 見るからにイヤそーな顔!」


 エリーゼはトゥーイの顔を見て、自分自身に対する拒絶の意思を新鮮味を以て楽しんでいるようだった。


「トゥーイさん……!」


 キンシがあたふたと慌てた様子で、自分の手をトゥーイのあごの辺り、下唇へと伸ばしている。


「もう……! 他の人をそんな鋭い目で睨んじゃいけませんって、いつも言っているでしょう……!」


 子猫のような魔法少女はどうやら、魔法使いの青年の眼光を物理的に遮断しようとしているらしい。


 しかし子猫の魔法少女の気遣いも虚しく、トゥーイは引き続き魔術師のことを睨み続けているのであった。


「…………」


 左目。

 真円に限りなく近しい図形を描くのは人間を基準とした瞳。

 虹彩は紫水晶(アメジスト)のに鮮烈で強烈な紫色を放つ。


 滅びかけの世界ではあるものの、このような世紀末で終末な土地でも、瞳の色合いについてはそれなりに「普通」の観点を持っているらしい。


「キレーな紫色ですこと」


 エリーゼは信頼感を想起させる穏やかな茶色の瞳をパチパチ、パチクリとまたたかせている。


「まるで宝石みたい。くりぬいて加工したら、それなりの価値になるんじゃない~♪」


 セリフだけでも充分に(おぞ)ましいが、そこにさらに恐怖感を付与しているのは、飽く迄も魔術師本人は真面目ぶった様子で提案をしていること。

 それに尽きる。


「どうかなぁ? アタシの実家の宝石店、あ、「コホリコ宝石店」って言えば分かるかなぁ? 分かるよね」


 聞き覚えのある店の名前を口にしている。

 唇を絶え間なく動かしながら、エリーゼは清潔そうなビジネススーツの懐から一枚の紙片を取り出している。


「ほら、ここの住所、知ってる?」


 実に滑らかな動作にて、エリーゼは「コホリコ宝石店」の名刺を魔法使い達の方に差し出している。


「あ!」


 反応を示してしまったのはキンシが先であった。


「ここ、って……? あの有名な宝石のお店ではありませんか?!」


「そうなの?」


 キンシの驚き具合を意外そうに見上げているのメイの目線。


 魔女のクリクリと大きな瞳に見上げられている。

 珊瑚(コーラル)のような鮮やかな紅色の視線をうけつつ、キンシは鼻の穴を少し膨らませて天命についてを解説していた。


「この灰笛を起点に、各地で様々な形態の魔力鉱物の販売を手掛けている、魔法使いならその名を知らなければもぐりもいいところの有名店……!」


 鼻をフゴフゴと鳴らしつつ、キンシは一気にエリーゼに対する感覚を次々と更新していった。


「僕的にはマルゼン書店やサンヨウドウ書店、カドカワ社……いえ、シュウエイ社に並ぶ、び……びび……びっくなうぉーるに匹敵する存在価値を……──」


 なにやら大量の出版社名を並べ立てている。

 そしてかなり拙い発音にて、とてつもなく無理な発音で強引に横文字を使いたがっている。


 この興奮具合から、メイは急ぎ冷却作業的いましめを魔法少女に施術しなくてはならない。

 と、そう考えていた。


「落ちつきなさい、キンシちゃん」


 最初は優し目な雰囲気を意識させる。

 メイはそっとキンシの右手を握りしめていた。


「いまは、トゥーイの言葉を優先させなくては。ねえ? そうでしょう?」


 手を握り、そして少しだけ圧力を強める。


「そうしなくては。ちっともさきにすすまないじゃない」


 それはある種脅迫であり、同時に強迫観念のようなものでもあった。


「早くしないと、人間が死んでしまうわ?」


 メイはどうやら慌てているようだった。

 他の誰かが死にそうになっているのを、不安がっているのは、しかしてメイひとりだけに限定されている。

 

 どうにもこうにも、魔法使いと魔術師にはそれがとても、どうしようもなく奇妙なもののように思われて仕方がないようだった。


「大丈夫だよ」


 魔術師は、白色の魔女と目線を合わせようとしている。

ありがとうございます。

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