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はち切れんばかりの胸元にダイビングツアー

いらっしゃいませ。

「マジヤバいマジヤバい、マジヤバ!! マジまんじってカンジでさいこーなんですけどー!」


 (かしま)しいと言う表現方法を、女性三人ではなく(いち)個体にてこれほどに見事に体現することが可能であるのか。

 そんな感動さえおぼえさせる活力、生命力にて、エリーゼと言う名の魔術師は状況に独断を重ね続けていた。


「野生の人喰い怪物が、一日だけで百件二百件も出てくるとか。いよいよこの世界も終わりに近づいているのかな~♪」


 かなり悲観的な視点を持っている。

 声音のあかるさとは裏腹。と言うよりかは、むしろ明るさこそが主張の狂気の具合を程良いスパイスのように演出しているとさえ思えてくる。


「まあ、とっくにこの世界は終わっているってカンジなんだけれどねー」


 寂しさなど微塵も感じさせない。

 エリーゼはただ現実的なことだけを考えている。

 つまりはこの世界にとって現実的で当たり前のことを考えている、魔術師と言うのはやはり「普通」に近しい存在ということなのだろう。


「ふしゃー!」


 そんな存在に反抗心を滾らせている。

 キンシが威嚇の鳴き声を唇から鋭く発していた。


「おっと」


 さすがに攻撃の意識を察したらしい。

 エリーゼは抱きしめていた二人の体を離し、一歩二歩、ある程度の安全性を確保するために距離を取っている。


「ふう」


 体を開放された、メイが視点を失って体感のバランスを崩そうとしている。


 倒れそうな体を、サッと支えているのはキンシの右腕であった。

 メイは差し出された右腕を支えに、視線を左斜め上辺りに向ける。


「ありがとう、キンシちゃん」


 メイはまず、自身の体を世界の重力から守ってくれた少女に、伝えるべき礼を伝えている。

 しかしすぐに、メイは自分以上に魔法少女の具合についてを心配していた。


「ふしゅう、ふしゅう……!」


 まだまだ威嚇の気配を色濃く残している。


「落ちついて、キンシちゃん」


 魔法少女をなだめようとしている。

 メイはまるで怒り狂うライオンを目の前にしたかのような、そんなこころ持ちで少女の右腕をちいさく握りしめていた。


「わあ、怖い怖い♪」


 しかしながら魔法少女約一名分の怒りなど大した問題では無いというかのごとく、エリーゼは依然いけしゃあしゃあとした態度を崩そうとしなかった。


「怒りたくなる気持ち、よく分かるよー」


 もしかして、先ほどの無礼を謝ろうとしているのだろうか?


 無礼と言うのはすなわち、恐ろしき人喰い怪物の処理を依頼した際の出来事。

 色々、それはもう色々とあった。

 七転八倒の戦いの末、ついには魔法使いたちは怪物を殺すことに成功していた。


 トドメの一撃は実に見事なものであった。

 キンシの放った銀色の槍の一閃は、夏の夕暮れを彩る夕立の稲光のように美しかった。


「そうなのです!」


 キンシは事実を再確認していた。

 今更気づいたかのように、長いこと忘却にしてしまった内容について、抗うように声を荒げている。


「僕の武器を回収しなくてはなりません!」


「ああ、それなら大丈夫だよー」


 魔法少女の気付きにたいして、エリーゼはたいした問題では無いように淡々と対応をするだけだった。


「武器を回収したいのなら、サクッとパパッとフワッと、取りにいけばいいじゃん」


 口では簡単に話している。

 しかしながら、まずもってその時点において、状況としてはそこそこの困難さを含んでいるのである。


「取る、ねえ……」


 魔術師の提案に対して、メイは思わず苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべている。


 魔法少女の武器。 

 銀色のペン先を持つ万年筆を模した、丁寧な造りの槍、のような形状を持った魔法の武器。


 それは今、ただ今怪物の肛門に突き刺さっているのであった。

 何故ならば今回の怪物、機械じかけドードー鳥のような姿かたちを持った怪物の弱点、心臓は大腸から繋がる卵管に存在していたからだった。


「それにしても驚きだよね」


 感動を覚えているのはツナヲの姿だった。


「まさか卵を産む場所に心臓を、急所を、「命の石ころ」を作っちゃうなんてさ」


 ツナヲは怪物の生命線である心臓のことを意味する、別の呼び名を自然な動作にて使用している。


「マジですごいよなあ。すごすぎて意味が分からない」


 ツナヲはふむふむとうなずく。

 頭を動かすと、そうしていると彼のやわらかな蜜柑(みかん)色の体毛に包まれた聴覚器官が揺れ動いている。

 ユラユラ。野兎のもつそれのように長い、耳はしっかりとこの世界の音を拾い集めている。


「すごいよ、これはハプニングだよ」


 なんとも、奇妙不可思議なほどに貧相な語彙力にて、ツナヲは自らの感情を表現しようとしている。


 一体全体なにがハプニングだというのだろうか?

 トゥーイは気になって、白色の聴覚器官をピクリ、と老人の魔法使いの方にかたむけている。


「どれくらいハプニングかって言うと、街中でハプニングに遭遇したくらいのハプニングだよ」


「…………」


 …………。

 ……どうやら、あまり深いことは考えてい無いようだった。


「なんにせよ、本当、マジに真面目に、気持ち悪いよね」


 ツナヲは、魔法使いは言葉を続けていく。

ありがとうございます。

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