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さなぎの中身は爆発する前からグチャグチャなんだ

ありがとうございます。

「君が彼を殺すつもりなら、オレは君を殺さなくてはならない」


 エミルはすでに引き金に指をかけようとしていた。

 俺の指はまだトリガーに触れてはいない。それまでの決意を抱いていなかった。

 その点、流石にエミルの……古城に属する魔術師の判断は実に速いものであった。


「彼は、あの対象はうちの大事なサンプル、いや……実験材料……──」


 二回ほど言い間違えて、エミルは三回目でようやく正しいと思わしき言葉を思いついている。


「──……そうじゃなくて、そう……大事な患者さんだからさ」


 しれっと人権の問題、垣根をブルドーザーで薙ぎ払うかごとき言い回しを使っていた気がするのだが……。

 まあ、今は聞かなかったことにしよう。

 なんてったって、俺は今銃口に狙われているのだ。下手な反論で無駄なヘッドショットは喰らいたくない。


「さきに主張しておくが、たぶん、君の場合だったらオレの武器で殺すことが出来る、かもしれない」


「マジか」


 しまった……供述を少し変更しなくては。

 とりあえず、魔術師の弾は少なくとも俺にとっては無駄にはならないらしい。


「怪獣と怪物と、それと一部の人種、と言うかハッキリ言えばオレたちN型の人間なら、即死とは言わず三十分で死に至れる攻撃を付与できる」


 千八百秒でこの世界とおさらば出来るなら、それはもう即死と変わらない意味を持っているのではなかろうか?

 疑問に思うが、しかしやはり今は思うだけに留めておくことにする。

 それよりも優先すべきなのは理由、ただ一つだった。


「怪獣と言えども、存在自体はこの世界原産、つまりはニンゲンと変わらない権利と意味を持っている」


 俺たちと同じ。

 そうなのか……。納得できない部分は多々あるが、しかしこの世界、社会において納得できるものの方こそ異形で異常で非日常なのかもしれない。


「そういう訳だから、殺したらフツウに殺人罪でお縄しなくちゃならなくなる」


 結論をサクッと片付けたところで、その頃には俺は武器の構えを解放しているし、エミルの方でも引き金から指を離しているのであった。


「んるる……しかしながら、これは困りましたよ」


 喉を鳴らしているのはハリの姿で、彼は刀を構えたままで思案を巡らせているようだった。


「生かさず殺さず、それでいて確実に活動を停止させる一撃が欲しいのですが……」


 なかなかに注文が多い、俺は黒猫のような耳を持つ魔法使いの姿を見る。


「せめて弱点をあらわにできる爆発が欲しいのですが、しかしボクの武器では肉をズタズタにするので精いっぱい」


 怪獣を切り刻める時点で、肉の持ち主にとっては満足が過ぎるほどに危険すぎる気がするが。


「切りすぎるのも、それはそれでまたヘッドショットの対象だな」


 魔法使いで、俺にとっては尊敬すべき先生……。

 そしておそらくエミルにとっても先生と呼ぶに値するのだろう。

 ともあれ、エミルは先生に向けて三度(みたび)の脅迫文を、それはもう麗らかににこやかに送りつけているのであった。


「失血のショックで心臓が止まったら、やっぱりそれは古城でお縄に締め上げなくちゃならなくなる」


 予想を聴いた、ハリの短い黒髪が恐怖心にてブワワ……! と膨らんでいた。


「んぐるるる……! お縄になるのは二度とゴメンですよ……」


 俺としても漫画家先生が、あんなにも素晴らしい絵を描く人がクソせまい留置所に押し込まれる状況は何としてでも避けたいところだった。


 では、どうしようか。

 考えたところで、俺の手元にある武器が重さを増やしたような気がした。


「…………」


 気がするだけで、現実には何の影響もなかったのかもしれない。

 しかしアイディアは獲得できた、そこは充分に変化と言えるのだろう。


「弱点だけを、引きずり出せればいいんだよな」


 跪いたままの格好で、俺はなるべく他の誰にもバレないように、秘密裏に肉体へ魔力を巡らせていた。


 とは言うものの、しかしながら俺自身は保有している武器に備え付けられた手段を実行するだけであった。


 だとすると、もしかすると魔術師の彼には俺の作戦はすでにネタバレしていたのかもしれない。


 それでもいいかと、思ったところで俺の魔力が規定値まで満たされていた。


 俺は飛ぶ。


「んるえ?」


 ハリの声が後方で聞こえてきたのは耳の勘違いか、真か。

 どちらでも構わないし、俺の義足は組み込まれた魔術式したがって、俺の肉体を怪獣のいる方向へと発射させていた。その事実だけさえあれば、少なくとも俺にとっては良い正解だった。


 見た目としてはかなり奇妙、一種のポルターガイストじみた作りになっていただろう。


 しゅる、しゅるるるる、るるるん。


 空気の音があとから聞こえてきた。

 魔術式に正しく従う義足が奏でる空気の音色は、俺の攻撃が実行されている事への証明の証であった。


 べちゃり。と俺の体肉に沈む。

 怪獣の体表、それは水に湿るゴムのように滑らかな感触だった。


 雨に濡れているのか、あるいは体液に濡れているのか、どちらかは分かりそうにない。

 分からないままでもよかった。

 考えるよりも先に、俺は自分の両足を怪獣の表面に固定させていた。

お疲れ様です。

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