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大して美味しそうでも無くともいただきます

こんにちは。

 それはそうであるが……。

 どうにも反論しがたい内容、話題だけを残して、ハリはさっさと別の魔法を使おうとしていた。


「すぅ……はぁ……」


 息を吸って吐いている。

 この世界に存在する魔力、人工の雨に含まれる要素。怪物や怪獣の肉を燃やした際に発生する灰の粒のいくつか。

 それらを体内に受け入れる。

 

 唇の奥、舌が雨の甘さを知る。

 喉の奥、気管支が灰の苦さに苦しむ。


 血液に新鮮な魔力が作られ、魔力はニンゲンの意志を以て意味をなす。


 ハリの左の手の平、小さな葉っぱがキラキラときらめいた。ような気がした。

 のは、魔法使いの魔力がこの世界に少しの影響をもたらした、その証明のひとつであった。


 銀色のきらめき。

 ハリは左手の中に発現した銀色の刀を握りしめる。


 うっすらと規則的な模様が見える刀身は、さながら本物の「日本刀」のような芸術性と機能美を想起させる。


「…………ん?」


 あれ? ニホンって何だったか? そんな名前の国名がこの世界に存在してただろうか?

 まあいいか、いずれかの世界、どこかの世界にはそんな名前の国家があるのだろう。文化があるのだろう、そういうことにする。


 ともあれ、そういった(こしら)えの武器を握りしめ、ハリは怪獣に向かって再び戦闘の気構えを展開させていた。


「はあ~……やれやれ、ってカンジー」


 まだまだ戦闘行為は終わっていない。

 だというのに、マヤはすでに自らの用事の大部分が「無事に!」終了したかの如き安息の溜め息を呟いていた。


「こちとらマジメにマジメにお仕事に励んでいたって言うのに、まさか怪獣なんかに食べられるとは」


「ああ……うん、たしかにそれは災難だけれども」


 その辺の事情に関しては同情してもしきれない。


「せめて怪物に食べられるのなら、この世界のbeautiful(ビューテホー)な宝石の一部分に変われるのにィー」


「そう、……だな?」


 怪獣よりかは怪物に食べられる方が有意義であるらしい。

 ……その辺りはあまり理解できないし、おそらくこの先も完全に納得することは叶わない、気がする。


 それはさておき、しかしながら俺の疑問点はまだまだ完全なる解決へと至っていなかった。


「それにしたって、怪獣がいきなりその辺のテキトーなニンゲンをいきなり食べるものかね?」


 よっぽど魅力的で蠱惑的で、俺の人生年数を合計しても足りない時間まで逃げまくった殺人犯並みの色気をムンムンともっている。と言った感じの魔力でもあれば、まあ、怪獣の凶行も理解できなくはない。

 つい最近、つい先日怪獣に変身したことがある経験者、つまりは俺の意見なのでなるべく信用してもらいたいところだ。


「それもこれも、全部キミのせいなんだよ! カハヅ・ルーフくんー」


「は?」

 

 どうして名前が呼ばれたのか、何一つとして身構えていなかった俺はどうしても気の抜けた第一声しか発せられないでいた。


「はあ?!」


 言い分を頭の中、こころの内に受け入れたときには、自然と相手を威圧する攻撃的な声と視線を作ってしまっていた。


「いやいやっ……!」


 無自覚だがそれなりに恐怖感を演出することに成功してしまったらしい。

 眼光に睨まれたマヤが、さながら(カエル)に狙われたシジミチョウのように視線をユラユラと揺らめかせている。


「何もキミが全部、丸ごと悪いってわけじゃないよ」


 あたふたとした様子にて、マヤは背中に背負っていたザックらしき袋を俺の方に見せている。


「でもさあ~完全に無関係って言えば、それはそれでオレとしてもむしろ、その方がよっぽどマシだったなって。そう思いたくもなるってカンジー」


 なんのことを言っているのか。

 答えはどうやらザックの中身、鈍色のジッパーの中身に秘められているらしかった。


 金属の小さな結合、細やかな連続体が解放される音。

 バララバララと開かれた、ザックの中から宝石店の店員が目当ての物を取り出していた。


「それは……!」


 それは義足だった。

 あまり大きさの無い義足。大人用とは異なる、まだまともに成長期も終えていないであろうガキ、クソガキ……。


 ……つまりは俺の右足にとても丁度が良さそうな、実に芸術的な造りの義足であった。


 太ももの部分は残った肉にフィットするように工夫がなされている。

 皮膚と器具が接触する部分はゴムよりも柔らかい、ゼリーやスライム・モンスターと同じ柔らかさを帯びている。


 内側はプルプルで、外壁は電信柱のように滑らかな円筒を形成している。

 外側に謎の凸部分、縦に長い六角形のような薄めの膨らみがあるのが少し気になる。


「うひひィ~♪ ここはだねェ、ここをポチっと押すだけで……?」


 キャバレークラブでキャバ嬢に通報寸前のクソゴミなセクシャルハラスメントをはたらく無礼千万な客のように、マヤは実にいやらしい手つきで義足に指を這わせている。


 上から下へと撫でる。指の腹、指紋の微かな凹凸(でこぼこ)、均等に開けられた濁りの無い汗腺が触れていく。

 汗が義足の表面に密着する、湿り気が僅かに重さを加えていく。


「…………」


 何だろうか、何故だが分からないが、俺は言い知れぬ嫌悪感、寒気を体に覚えていた。


ありがとうございます。

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