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思いっきり泣いて笑って食べて性行為をしよう

こんにちは。

 そして俺の期待は外れることになった。

 どうやら、どうしても、どうしようもなく怪獣の喉からはみ出てきた「それ」は敵では無いようだった。


「ガハッ! ガハッ!! ゲホォ!!! ゲホゲホゲホ!!!」


 血液の膜からはみ出してきた、おそらくだが? この世界のニンゲンらしい存在。

 それが苦しそうに呼吸をしていた。


「だ、だ……だいじょう……──?」


 少なくとも怪獣に類するモノではなく、ましてや恐ろしき人喰い怪物に属する存在ではない。

 ただそれだけを想像して、抱いた感覚をただ信じることしか出来ないでいる。


 とりあえずどうするべきか? 

 ニンゲンであるのならば、この世界に暮らす「ある程度は仲間」である存在であるのならば、とにかく命の無事具合を確認しなくては。


 なけなしの常識人っぽい思考、そしてそれなりの勇気をを振り絞る。


「あー」


 だが、しかして俺の勇気もまた無駄に終わろうとしていた。


「あああああああ! ああああああああああああ! ああああああああああああああああああああああ!」


 けたたましい叫び声、のように聞こえた。

 そう解釈したのは、やはり俺の耳が不必要にこの世界の音に敏感になってしまっているから。なのかもしれない。


 いずれにせよ、怪獣の喉から落ちてきたニンゲンは勢いよく上半身を起こしていた。


 血まみれでありながら、動作を重ねていく内に段々と対象の正体が俺にも把握できるようになってくる。


「ゼエゼエ、ヒュウヒュウ」


 まだ呼吸機能は完全に回復しきっていないのだろう。

 喉の奥にまとわりつく怪獣の血液や体液を咳と共に吐き出す。


 呼吸の気配、漏れ出るあえぎ声。そして外見から得られる情報から、俺はそのニンゲンの正体を頭の中に理解していた。


「マヤじゃねえか!?」


 「コホリコ宝石店」の雇われ店長を担う、妖精族の若い男の名前を叫ぶ。


  自分の名前を呼ばれた、マヤが血まみれの顔面を俺の方に向けてきている。


「ゼエゼエ……ゼエゼエ……。……アレ? その声は、カハヅ・ルーフクンじゃないか?」


 俺のことを知っているということは、俺の予想はおおむね正解であったということになる。


「なんで……どうして?」


 どうして? 怪獣の体内からマヤが出てきたというのだろうか?

 それもただの怪獣ではない、俺のようにその辺のテキトーな場所で怪獣に変容したモノではないのだ。

 古城と言う、この世界において医療と言う欠かすことのできない機能を担当する機関に置いて管理されている病人、患者の一個体。


 そこから、どうして? 俺の知人が登場してくるというのだ。

 意味が分からない、何もかもが分からなかった。


「考えている場合じゃないぞ」


 不明瞭と不可解と意味不明の大海、波の隙間から聞こえてきたのはエミルの声だった。

 叫び声や怒鳴り声とも違う、だが遠く離れた相手にしっかりと届いてくる声の量。


 指示を受け取った。

 俺はと言うと、情けないことに依然として意味不明たちにただただ戸惑うばかりで、何も出来なかった。


 ……まあ、仮にこの状況の全てを理解できたとして、たとえそれがどんな夢物語であったとしても、この体では自由などかなり限られてくる。


 事実や現実を証明するかのように、俺の体は再び魔法使いの片腕によって抱え上げられているのであった。


「一時退避ー! 一時撤退ー! ですよ、ルーフ君」


 俺の体を絨毯のように運ぶのは、ヘッドショットの衝撃から回復したばかりのハリの腕。

 右腕に俺の胴体を抱え込み、左手にはマヤの手を握りしめている。


「あれあれあれー?」


 魔法使いの手に引っぱられながら、俺達は三度(みたび)安全な場所へと非難させられていた。


 一旦逃げた先。

 とはいえそこは古城の内部であり、大した移動距離でも無かった。


「いやあ、マジまんじってカンジだよー」


 雨に濡れる草原に腰を落ちつかせながら、マヤが自分の状況についての概要を自動的に語っていた。


「どうしたもこうしたもないって! ウチの商品を古城さんに棚卸ししようとしたついでに「別件」もサクッと終わらせようとしたら、道の角を曲がったところでいきなりパックリ! だってのー」

 

 要するに古城に訪れたら怪獣に捕食されてしまったらしい。


「怪獣もニンゲンを……この世界のニンゲンを食べるのか?」


 俺の疑問に答えているのは、軽い柔軟体操をしているハリの喉もとであった。


「ルーフ君だって、怪獣になった時は見境なくありとあらゆる存在を食べようとしていましたよ?」


 そうだったか。あまり記憶が無い上に、可能ならば思い出したくない事実に俺は口の中へ苦みを錯覚する。


「そうだとしても……なんつうか、ちょっと異常じゃないか?」


 確たる証拠もない、言うなればいい加減な感覚、小学生の感想文よりも劣った想像力。

 しかし他に言い様もなく、俺は自分の内側に砂利のひと粒のように転がる違和感をどうにかして言葉の上に表そうとしていた。


「なにをおっしゃいますやら、この王子様は」


 ハリが俺のことを茶化す目的として、形式上は敬うような言葉遣いを並べ立てている。


「怪獣も怪物も、この世界にとっては同じように異常なんですよ」

よろしくお願いします。

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