今日はなんだか不安が多い日だった、静かに君たちのことを想像していたいのに
こんにちは。
消火器から炎の気配が排出されている。それは桜の花びらのように連続した形を持っている。
炎の花びらの内側、金属質な筒の内層にて爆発が連続する。
木製のストックが発射に合わせて震動し、エミルの「右腕だったもの」が衝撃を一身に受け止めている。
機関銃……にとてもよく似た形状の魔法の武器、そこから発射された弾が怪獣の肉を連続的に穿っていた。
狙うべき場所は……すでに魔法使いからある程度指示されていたらしい。
エミルはほとんど迷いの無い動作、所作、操作にて怪獣の肉を魔的な弾丸にてえぐり取っていった。
「 おぎゃあああ おぎゃあああああああ、あああああああ、あ おぎゃああ おぎゃあああ おぎゃ」
怪獣。
恐ろしき人喰い怪物とは似て非なるモノ。
その存在は異世界由来では無く、あくまでもこの世界に産まれ落ちた人間を基本としている。
しかしながらその姿形は恐ろしき人喰い怪物と比べても遜色のない出来栄え、不気味さ奇妙さを有している。
そんな肉の塊が、エミルと言う名前の魔術師の弾丸によってその内側をあらわにさせられていた。
小さな口。……とはいえ大きさはこの世界のニンゲンと比べて規格外に大きい、全長三十センチを超えるサイズの穴がある。
そんな捕食器官から肉の表面を辿って、三十三センチほど下側にたどったところ。
サーモンピンクから桜の花びらの薄さに至り、色彩がほぼ白色に変わりつつある部分。
そこが魔術師の手によって、見るも無残にグチャグチャに撃ち抜かれていた。
皮膚は跡形もなくズタズタに引き裂かれる。
真皮のピンク色はニンゲン、まあ……つまりは俺たちと同じような色彩を持っている。
怪獣と言う医業に成り果てたところで、結局のところは中身の肉や血管、血液は所詮この世界原産のつまらない色彩しか持っていないらしい。
少しつまらないと思いながら、しかして俺の視界はまた別の要素にくぎ付けとなっている。
「……なんだ?」
えぐり取られた肉の下、口から繋がる喉、気管支や食堂としての役割を持っている肉の管。
ニンゲンがもつそれとは大きく異なる、電信柱ほどの直径がある管もまた、エミルによる凶弾によってビリビリに破かれている。
たとえ魔法や魔術のように、少なからずこの世界のニンゲンを殺すことはほぼ不可能である方法であったとしても、攻撃力自体は本物の武器と大体同じような意味合いを持っている。
機関銃に喉元を貫かれれば、当然食道の中身も丸出しにすることが可能である。
問題はその「中身」であった。
「何だあれ?」
誰に問う訳でも無く、俺は独り言のように疑問点をただ言葉の上に発するばかり。
ただそれだけの事しか出来ないでいる。
「ものすごいデカいポリープ……まさか、あの怪獣は食道ガンなのか??」
「成人病にお詳しいですね?!」
俺の表現力について、魔法使いが思わずツッコミのようなモノを入れてきていた。
「なにを言うか先生よ」
俺はハリのことを意味する呼び名を使う。
「ガン細胞と言うものはありとあらゆる人間、才能や才覚関係なしに命を蝕む現代人最大の敵なんだぜ?」
それこそ人喰い怪物や異形の怪獣がなんだというのだ。と言うのは俺の個人的見解なので、そこまであえて語ることはあるまい。
「それはそれとして……あの塊は一体?」
俺の質問に先生が答えてくれる。
「それは、彼の残りの一発であらわに出来るでしょう」
ハリの言う通り、あとは弾丸を一発撃ちこむだけ、ただそれだけで事は大体解明されるらしかった。
「すう、はあ」
呼吸の気配が聞こえる。
それはエミルの唇から発せられる気配、音色だった。
彼は、おそらく気を付けているのだろう。
集中して、丁寧に弾を一発、怪獣の喉の中に埋まっていた肉の塊、しこりに向けて発射していた。
弾が肉のかけらを破る。
破壊された中身から、ドロドロと血液の塊が漏出してきていた。
大量に血が出てきている。血液の質量はしかしながら魔的な機関銃の破壊によって、すでに著しい質量を有している。
いるのだが、しかし新鮮な血液の量を凌駕するほどに、その赤々とした塊は俺の心理を強く、強く圧迫してきていた。
匂いが違う、感覚が違っている、異なるそれは俺の内層にあるエクスクラメーションマークをビンビンに刺激してきていた。
「出てきました!」
ハリがエミルに向けて叫んでいた。
再三の合図を受け取った、エミルはすぐに先生の指示を己の内に許諾している。
「囮は、限界六分までだ」
普通の音量にて、エミルはハリに時間の猶予についての概算を伝えていた。
「十二分です!」
魔術師よりもかなりうるさめの声量にて、ハリは与えらえた時間の多さについていたく満足感をすでに得ていた。
「よいしょっと」
かと思ったら、次の瞬間には俺の体がハリの腕の中に軽々しく持ち上げられていた。
「うわッ?!」
自分の体が世界の重力に逆らって動いている。
まるで引っ越し作業の小さなダンボール、タオルの数枚ほどしか入っていない箱を運ぶような気軽さにて、俺は怪獣の喉元から吐き出された赤色のもとへと運び終えられていた。
ありがとうございます。




