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観葉植物を此処で装備していきますか?

こんにちは。

 まずもって俺は最初、それが自分の知っている武器であることをどうにもこうにも上手く認識することが出来ないでいた。

 そう思うほどには、武器はひどく現実離れをした発現の仕方をしている。いや、魔法や魔術に現実感などナンセンスもいいところなのだが……。


 エミルが振り上げた右足。世界の重力に従って振り落とされた靴底が地面を再び踏み締める。

 と同時に、体の内側にある(もも)の肉と骨の真っ直ぐさにそって、ぐらりと大きな塊が吐き出されている。


 一瞬だけ、俺はエミルの右足が外れて落ちてしまったかと、そう思いこみそうになった。

 ありえなくはない。右目と右手が偽物なら、まあ右足にも、もう一つ偽物が増えたところで何ら問題はないような気がする。少なくとも俺の主観的には。


 しかしながら予想は大きく外れることになった。

 落ちてきたそれ。それは成人を迎えた男。この(てつ)の国(少年や少女が現状暮らしている土地、国家、文化圏の名前のこと)において平均的な男の身長、よりかはそこそこに高めの背丈。


 それらと比べた場合に、降りてきたそれはいささか長さが足りなさすぎていた。

 

 せいぜいエミルのひざ下から(くるぶし)に届く程度の長さ、銃身。

 ……そう、それは銃にとてもよく似た偽物、新しいまがい物、エミルにとっての魔的な武器のひとつであった。


 地面に完全に落ちるよりも先に、エミルはそれを手の中に掴む。

 しっかりと握りしめる。

 銃は、簡単な動作で狂暴な弾丸を大量に吐き出すのにとても特化した形状を有していた。


 若木のように確固たる意志を以て伸びるバレルに消火器。

 弾は割かしアナログ、と言うか現実的な存在感を持っていた。

 ああいうのはなんといったか。


「弾帯と言うんじゃよ」


 ミッタが教えてくれる。


「見たところ、せいぜい六十六発程度の弾が撃ち出せると見える」


 分かるものなのか。……まあ、分かるんだろう、そういうことにする。


 さて、エミルがその武器を使おうとした。

 だが、使おうとした腕は腕としての形状を著しく失っていた。


 パキラ属、鑑賞用に育てられたカイエンナッツの幹のような螺旋を描いている。

 腕は元の長さを保ったままでいる。

 形状は大きな樹木のように、色はアクアマリンの青を基調に新鮮なオレンジを渦巻き状に混ぜ込んだ色彩を持っていた。


 渦巻きがエミルの右腕を包み込む……。

 ……いや、むしろ回転の形状そのものがエミルの腕に成り代わっていると言った方がいいのかもしれない。

 

 傘のような三角のシルエットは鎧のように硬そうだった。

 鋭い先端は機関銃の大部分を取りこみ、一体化していた。


 エミルは右の足を前に踏み出す。

 歩こうとしているのかと、最初はそう思いそうになった。

 しかしどうやらそれは勘違いであるらしかった。


 草木の上、土の柔らかさを踏みしめるはずの右足は、なにも無いはずの虚空を噛んでいるのであった。


「靴にあらかじめ仕込んでおいた魔術式のようじゃな」


 ミッタが頭のなかで直接俺に解説を加えてきている。


「重力を忘却させる……。その技法を応用して緩衝材代わりにするとは、なんとも……」


 どういうことだ?


「貧乏くさいのう、と、そう思っただけじゃ」


 そうだろうか?


「そうじゃよ。第一、あの靴の魔術式はもともとあった所から無理矢理あのビジネスシューズにコピーアンドペーストしたと見える。なんとも、魔術と言う立場に甘んじておると見える」


 そういう融通が利くのが魔術が魔法よりも世間、社会、世界に広く多く受け入れられている利点であるはずなのに。


「無いのう。ナンセンスじゃ、オリジナリティと言うものが不足しとる。この灰色につまらん、笛も吹けない味気ない世界に少しでも多くの面白味をじゃな……──」


 だめだ、語り出したら止まらなさそうだ。

 どうやらミッタは魔術のことがあまり好きではないらしい。俺としては、魔法なんかよりもよっぽど無駄が無くて合理的で便利で、素晴らしいと思うのだが……。


「王子たるものがそのようにケチ臭くてどうする?」


 いや、知らねえし……。……っていうか、その「王子様」設定はそれなりに苦痛をおぼえるので願わくばやめてもらいたいのだが。


 何にしても、これで銃を乱射しても体の筋やら骨やら皮膚がズタボロになる心配性は無くなったようだった。


「…………」


 ハテナ先生(ハリのP.N(ペンネーム)のことである)をいきなりヘッドショットしやがった事を考えてみれば、せいぜい腕や脚や骨の五十本ぐらいは粉々になっても仕方なしと、そう思っていた。

 

 思っていたのは俺だけの秘密、個人的な主観、自分勝手な願望でしかない。なので無視してもかまわないと、そうするべきであると、無意識の引き出しの奥に仕舞い込むことにする。


 そうこうしているあいだ、言葉を噛み潰す、その期間にエミルは狙いを定めている。


 呼吸は必要としなかった。

 少なくともエミルにとっては、その攻撃はさして特別な用事でも無いようだった。


 爆発音が連なる。

 銃口から連続して、金属の様な硬さを有した魔力の凶弾が激しく強く、勢いよく、しかして均等に正しく発射されていた。

ありがとうございます。

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