灰笛ヘッドショットを決めとけば大体なんとかなるんだなあ
こんにちは。
自分自身を傷つけようとしている存在。とにもかくにも自分に痛みをもたらさんとしている対象を、怪獣は許そうとはしなかった。
口を大きく開く。捕食器官の内側にある歯がずらりと並ぶ。
エナメル質が狙うのは魔法使いの頭部、ハリの首から上を喰いちぎろうとしていた。
「……!」
相手からの反撃にハリが備えようとした。
しかしそれよりも先に、怪獣の眼球が爆発していた。
破裂した中身から黒色の体液が飛び散る。
炸裂の主たる原因はエミルの手元に存在している。彼が両手に構えている拳銃……? のような武器によってもたらされた結果であった。
「G34コンバットマスター」に類似した形状の拳銃型魔力機構武器。本物と異なる点は数多く存在している。
全部を羅列することは時間がかかる、……と言うよりかは、ただ単に俺の知識が不足しすぎているだけに過ぎない。
とりあえず外見から簡単にピックアップする。
分かりやすいのは……どれだ、……これか。
「グリップが木製なんだな」
「ん?」
何のことを言われたのかは理解できずとも、しかしエミルの耳はしっかりと俺の言葉を聞き入れているようだった。
俺と大体同じような形状の耳。
「普通」の人間、魔法なんてまるで関係ないと言った、科学とコンピュータしか信じることのできない、かなしいまでにつまらない。
そんな形状の耳に、俺は武器についての質問文を送信していた。
「プラスチックじゃダメなのか?」
「んー? 魔力鉱物を基本とした石油なら何とかなるかもしれないが、でもそれだと、怪獣や怪物に攻撃力は得られないな」
エミルは武器を構え、照準を整えると同時に解答を口もとに用意している。
「銃はその存在が人間を殺すのに特化しすぎている。それも当然だよな、狩猟を目的として作成された弓矢と違って、それとは別にもっと人間を殺そうとして、考えられた武器だから」
「そういうものなのか」
「そう言うものなんだよ。だから、銃を模した魔法武器と言うのは、怪物や怪獣よりも人間を殺すのに特化している。現代ではN型というんだったか?」
俺やエミルが属している人間の種類のことだ。
「獣人に撃った時とN型に撃った時では、高確率でN型人間のほうが先に死ぬ。と言う研究結果があるが、この辺のデータの出所についてはかなりヤバめの機密情報なので他言無用でヨロシク」
だったら戦闘の片手間に話すべきではないと思うが?
……まあ、どうでもいいか。
「今回、たったいま俺たちが直面している事例は、N型の人間を基本とした症例だから。ほら、このように」
エミルは照準を合わせて引き金を引いた。
爆発の音色、と同時に怪物のもう片方の眼球が破壊されていた。
「N型……と言うよりかは、俺たちみたいな「普通」な造形の人間なら簡単に破壊することが出来るんだ」
本当なのだろうか?
疑いを抱いた、とはっきり言葉にできるほど反抗のこころを保有している訳では無かった。
「せっかくだから試してみるか」
「……は?」
「はい、一発!」
自分の心情に整理をつけるまでに時間をかけ過ぎた。
後悔しているのは、エミルが銃でハリの頭部を狙撃していたからだった。
「ぎにゃ」
いきなり見方から攻撃を受けた。当然の事ながら、ハリは訳が分からないままにその場に倒れ込んでいた。
どさり、古城に生い茂る草原の上に魔法使いの体が落ちる。
土の柔らかさが重力の分だけ沈む。
血は……もしかしたら少しだけ流れているかもしれない。
量までは分からない。のは、俺が冷静さを大きく欠いているからだった。
「おいぃぃッ?! なにやってんだよっ??!」
「ほらご覧? 弾は頭を貫通すること無く、それどころか鼓膜石をちょっとだけ破壊した程度で済まされる」
俺の叫び声をエミルはこれでもかと言うほどに無視しまくっていた。
相手は受け流そうとしているが、しかしいくらなんでもこの状況はありえないだろうがよ。
「し、しし、死んで……っつうか、殺した?!」
考えるよりも先に体が動こうとしている。
車椅子が無いのでスピードは出せないが、しかし匍匐前進ぐらいなら出来る
魔法使いがこしらえた切り傷や、エミルの撃った両目のダメージに怪獣(元人間)がもだえ苦しんでいる。
そうしているあいだに、俺は土まみれになりながらハリのもとににじり寄っている。
「せ、せせ、先生! ハテナ先生!」
どうしてここでP.Nを使いたくなったのか、理由は特にない。
あるとすれば、俺はやはりハリ本人ではなく魔法使いとしての彼を重要視しているから、なのかもしれなかった。
「大丈夫か?!!」
「……」
返事が無い。やはりこれはかなりヤバいのでは……!?
「先生?! 先生! 先生!!!」
銃で撃たれた時の応急処置など知らないし、そもそもヘッドショットなんか喰らったら、だいたいの「人間」即死のはずである。
そのことも理解できないままで、俺は這いずったままの姿勢でただひたすらにハリの頭部を叩くことしか出来ないでいる。
そうしていると。
「痛いわっ!!!」
銃で撃たれた時よりも不快そうに、ハリが俺の連打を左の手で払いのけているのであった。
ありがとうございます。




