美味しく食べられたい
こんにちは。
くどくどくどくどくどくどくど。著作者人格権は逸脱することなく遵守すべきである。
くどくどくどくど。権利の有効期限と言うものは以前は五十年であったが、現在はネズミの国のありがた~い主張によって著作者の死後七十年、今後はさらに八十年まで伸びるであろうこと。
くどくどくど、くどくど、くどくどくど。そこまで伸びるともう、いずれは百年を超えるのではないか。それはそれで自分自身も色々と困る気がする。
「んぐるるる……。そうなるとあんな二次創作やこんな二次創作や色んな意味でアレな二次創作がしづらくなってしまいますね……」
ハリは著作権についてひとしきりご高説を語り明かしたところで、結局のところは自分自身の創作意欲元ネタについて不安を抱いている。
「嗚呼、ぜひともそんな二次創作が見てェもんだぜ、まったく」
俺は話が一区切りついた合間を見計らって魔法使いに提案をしようとした。
「なあ、先生」
「くどくど……。んるえ? どうしたんです、ルーフ君。何か質問でも?」
「そうじゃなくて、そんなことよりも見えねえんだけど?」
絨毯のように抱えられていると、ハリが敵を注目している位置関係的に、俺は敵の「怪物?」がいる方向とは逆の場所しか見られない。
なんとか首の向きを可動範囲内で可能な限り有効に移動させようとした。
動く目線の中にて、俺はエミルの姿を確認する。
「……!」
エミルは青空のように鮮やかな青色を持った瞳にて、怪物の位置をしっかりと把握していた。
「来るぞ!」
エミルがハリに向かって叫んでいた。
「かひゅ……っ」
ハリが呼吸をしていた。
そのままくるりと体を反対方向に回転させる。
そうすると、俺は頚椎の稼働領域について心配することなく、こころ置きなく「怪物らしきモノ」を観察することが出来た。
怪物は俺たちが通過してきた扉を肉体の前進によって薙ぎ払っていた。
…………。
と、いうワケで元の場所に戻るための扉はものの見事に破壊されてしまったのであった。
「ああ、せっかくの高品質なひずみを人工的に誘発することが可能な、最新型のワープホール展開魔術式でしたのに……」
扉が破壊される。「謎の存在」の肉の重さによって押し潰された、壊滅のメロディーにハリは悲しみの言葉をめそめそと紡いでいた。
「あれ一台、一品にどれだけの魔術師さんたちの労力、血と汗と涙と鼻水その他諸々の体液と情熱と情念と、あとは……魂的ななにかしらが込められていると!
そう思っているのです! ねえ?! ルーフ君!」
「……熱弁は有り難いし情熱は分からないでもないが、悪いが事情については解せないな」
まことに残念ながら、としか言いようがない。
しかし分からないことは現状どうしようもないのだ。調べたいとは思うが、しかし状況がそれを許してくれそうになかった。
なんといっても俺たちは「怪物らしきなにか」に追いかけられている。
追いつかれたら? ……やはり食べられて、そしてそのまま消化されて死んでしまうのだろう。
魔法使いや魔術師に殺されるのとは訳が違う。
やり直しも産みなおしもない、異世界転生や転移は……あるのだろうか? その辺は死んでみないと分からない。
なんとなくなのだが、この世界に生まれたニンゲンは「それら」に該当する事が出来ない。望んだとして、同じものにはなれない。
そんな予感がある。まだ上手く言葉には出来ない。
……であれば?
「どうするんですか?!」
俺がたよりない確信を胸に抱いている。
そうしているあいだに、魔法使いと魔術師がそれぞれに今後の行動についてを相談しあっていた。
「このまま逃げ続けて、安全な場所に非難しますか?」
「なんだよ、怪物なら殺さないのか?」
魔法使いとしてはかなり違和感のある言い分に、俺は指摘をせずにはいられないでいた。
「んぐるるる……」
どうやらそれなりに痛いところを突いてしまったらしい。
ハリが傷つけられた獣のような呻き声を喉の奥で鳴らしていた。
「殺せるものなら、そりゃあもう、ぜひとも殺し尽くしたいところですが」
「残念だがそれは許可できない」
魔法使いの職業希望を、否定しているのは魔術師の正統なる意見であった。
「あれはうちの患者だ、殺したらフツウにとっ捕まるぞ」
エミルはニヤニヤとした笑みを口もとに湛えている。
微笑み、とはとてもじゃないが呼べそうにない。それは実に下品で下劣で、ゆえに生命の血なまぐささにに満ち満ちているのであった。
「まあ? オレとしてはあんさんが古城にとっ捕まって、色々と……色々と、研究材料としてその身を提供してくれるなら、魔術師としてはぜひとも大歓迎だが」
エミルはあえて魔術師としての意見だけを先に相手へ伝えていた。
「いやいや」
俺は思わず口を開いていた。
反論せずにはいられない。
「それだと、古城から旅に出てイラストを描きまくって、人気と金を集めて魔力を提供する。その仕事はどうなるんだよ?」
エミルは引き続きニヤニヤと笑っている。
嗚呼、しかし、その笑みからすでにおおよその目的は判別できるのであった。
ありがとうございます。




