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普段は真面目なんですよボクたち

「風のウワサじゃあ三十ページを丸々射精音で表現した、現代芸術的挑戦に取り組んだライトノベルもあるそうだぜ?」


 エミルが俺にイチオシの小説についてを布教してきていた。


「そこまであると、「ドグラ・マグラ」のチャカポコみたいに、一種の修業能力的忍耐力が必要になりそうだな」


 しかしなかなかに面白そうではある。こんど本屋に行ったときに探すか、あるいは電子書籍で検索してみようか。……電子マネーの残高、まだあったかな。


「まあ、十ページを丸ごと牛の鳴き声で埋め尽くした小説もあるらしいからな。チンポのいななきなんぞ、こいの心理描写的にありきたりなものでしかないだろうよ」


 ああ、でも。


「マンガで表現するとなると、文字を書いているのか絵を描いているのか、訳が分からなくなりそうだな……」


 エミルがにやにやと、面白おかしそうな笑みを口もとに浮かべている。


「そこはまあ、優秀で優良なアシスタントに任せるか、それとも作者自らが一筆入魂で描いて書いて、マスをかく丁寧さでカきまくるしかねえだろうよ」


 なかなかに楽しそうではある。果たしてそのような機会が訪れるかどうかは、また別の問題だが。


「同人誌とかでチャレンジしてみたらどうだ?」


 エミルは四角形を右の指先に弄くりつつ、話題が意外にも愉快で有意義な方向に進んでいることに素直な喜びを抱いている様子であった。


「商業ほどには縛りもないし、自分の好きなように描ける」


「いやあ……でも俺、十八禁マンガとか一回も描いたことないしな」


「でもオナニーくらいならもう経験済みだろ?」


「ああ、よく妹をオカズにやってるよ」


 むしろ彼女以外ではほぼ性的快感を得られない。他の女でも興奮しなくもないが、……なんというか、肉の快感を越えた悦びの具合が違う気がする。


「オレもよくお姉さんを性的対象としてマスターベーションをしたものだよ」


「そこは嫁さんじゃないのかよ」


「もうね、十七歳の時なんかはゴミ箱が妊娠しそうなレベルの産出量を誇っていたね」


 そりゃあすごい! ミナモが聞いたら泣いてしまいそうだが……。

 ……いや、彼女なら特に何の問題もないか? エミルと結婚できるような人物なら、ある程度のことは許容してくれそうである。


「それで、その射精音がどうしたって言うんだよ」


「ああ、そうだった、そうだった」


 話題の脱線にエミルはハッと気づかされている。


「いやさ、あれって創作のなかだと派手に書かれたり描かれたり、立派な表現方法の一つになってるけどさ、現実だとあんまし音って鳴らないよなーって」


「そんなどうでもいい事のために、散々語り明かしたんですかっ??!」


 ちなみにこれは俺の声ではない。

 叫び声のする方に視線を向ければ、ハリがいきり立って俺とエミルに非難の視線を向けている様子が確認できた。


「こんな往来で、真昼間に猥談とか……どこの助兵衛なのです……っ!」


 信じ難いものを見つけてしまったかのような、そんな非難めいた目つきになっている。


「このぐらいで恥ずかしがって、よく漫画家を名乗れるな……」


 俺にしてみれば、ハリの方がどこか異様な存在のように思われて仕方がなかった。


「自分だけの、自分にしか与えられない、自分だけが知っている快楽なんて、創作界では輝ける黄金な永遠のテーマみたいなものだろうがよ」


「それはそうかもしれませんが……。んぐるる……そういうのは、ボクの専門外なんですよ……っ」


「つまんねえの。あ、ちなみにハテナ先生はなにをオカズに自慰するんだ?」


「えーとですね、ちなみにボクも……

 ……って、教えるワケないでしょうがっ!!」


 さて、話題が煮詰まった所で。


「それじゃあ、こんど知り合いの同人グループを紹介してさしあげよう」


「アザトース!」


 アシスタント稼業と兼用して同人誌を作ることになった。


「いや、そうではなく!!!」


 ハリがビシリと話題を取り戻そうとしていた。


「古城にいくんでしょうよ?! って言うかなに勝手に同人誌デビューしようとしてるんです??!」


「いやあ、エロ描写、いまのうちに検索して勉強しなくちゃなあ」


「そうですねえ、フェイバリットな作家さんの作品を参考するだけではなく、やはり本物をじっくりコトコトと観察して煮詰めるのも大事……──。

 ──……じゃなくて、その話では無くっ!!」


「しれっと的確なアドバイスをしたがるところ、ハテナ先生もこの話に興味あるだろ」


 エミルの指摘をハリは無視する。


「んぐるるる……っ!!」


 もれなく正解に近しい追及をなされたところで、エミルがサクッと次の展開へと歩を進めようとしていた。


「さて、繋がったみたいだな」


「繋がった?」

 

 どこに繋がったのだろう?


「やっとですか……」


 ハリがホッと安堵の溜め息を吐き出している。


「毎度毎度思うんですが、もっとスムーズに、スピーディーに実行できないものですか?」


「いやあ、今日は何か電波の繋がりが悪くてな」


 電波通信の具合についての話題に似ている。

 しかしそのような科学的な話ではないことは、もうすでに、俺にもある程度予想することが出来た。

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