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トチ狂ったヒトたちからはささっと逃げてしまいましょう

こんにちは?

「えーっと? これを読み取るためには、これをこうして、アレだから……」

 

 ハリが悩んでいる。悩みながら、黒猫のような耳を持つ魔法使いが俺に助けを止めるような視線を向けてきている。


「ちょっと、よく分からないから、ルーフ君がやってくださいよ」


「そういう訳にもいかへんやろ」

 

 黒猫の魔法使いの救助要請を俺は断っている。


「取引の相手はあんさんなんだから、その辺はキッチリ自分でやってもらわへんと」


 と言うのはただの口実でしかない。その実俺はただ腰ポケットからスマートフォンを準備するのが面倒くさかった、ただそれだけのことに過ぎなかった。


「そのクイックレスポンスコードをカメラで写して登録すりゃあ、すぐに終わるって」


 ひどく大雑把(おおざっぱ)な説明に逃げていることを、まず自覚する必要がある。

 黒猫の魔法使いに正しい情報を伝えるよりも、それよりも俺は武器の銃口をミゾレに固定することを優先させていた。


「あの、ルーフ、さん?」


 スマホを片手に、ミゾレが俺の方に伺い申し上げるような問いを投げかけていた。


「もうオレは、そっちの個人情報とか、()()()()()さらすつもりはないからさ……」


 すでに収拾のつかないレベルまで事態が進んでいることを自覚している。

 そんな気配がミゾレの言葉には含まれていた。


「いや、ほら……あれだろ?」


 攻撃の意識を継続させる理由を、俺はとりあえずのところ適当に考えることにする。


「ここで油断して写真の一枚でも撮られたら、それこそこっちも肖像権の一枚や二枚主張しなくちゃならねえわけで」


 これ以上写真を撮られてたまるものか。


「だからこれ以上は撮らないってば~……」


 まことに申し訳ない。俺はこころのなかでミゾレに謝っていた。

 ただ単に、俺は自分の欲求を満たしたいがために、他人であるミゾレに攻撃の意識を抱き続けているのである。


「あ! なんかボタンがでてきましたよ?! ルーフ君、ルーフ君? これをどうするのですか? 食べればいいんですか?」


「画面上の二次元を三次元に出来る魔法があれば、三日で億万長者になれそうだけどな」


 冗談はさておき、俺は銃口をミゾレに向けたままで視線をチラリとハリの手元に差し向けている。


「あー……うん、それで登録は出来たはずだな」


 溜め息が二つの居場所から吐き出される。


「んふー……、上手く出来て良かったですよ」


 一つはハリの唇で、彼は慣れない電子機器のそうさにある程度大きめの体力を削り取られているようだった。


「よし、よーし?! 終わった、終わったね?」


 一方はミゾレの口で、彼の足はすでにこの場からの逃走を図ろうとしているのであった。


「じゃあオレはこのまま、泳いでドロン……」


 ミゾレが当たり前のようにバス停の外、下側には地面もなにも無い、空中の中にある停まり場の外側へと体を移そうとしていた。


「あ……! おい!」


 俺は依然として銃口を相手に向けたままにしている。

 そうしていながら、眼球は当たり前のように空を飛んでいるミゾレの姿を追いかけていた。


「うぎぎ……やっぱり田舎だなあ……」


 ミゾレはもみあげの辺りに生えているヒレを使いながら、空気中に含まれている魔力を使って体を浮遊させている。


塔京(トーキョー)と大違い! ちょっと泳ぐだけでも、なんつうの? 負荷とか重さが桁違いって感じだよ。まあ、計測する機械も機会もないんだけどね!」


 なにやらうまい感じの洒落を含ませつつ、ミゾレは灰笛(はいふえ)に不満を抱いているらしかった。


「やれやれで、マジまんじって感じ! 年下のクソガキには銃口を向けられるし、写真はただで買いたたかれるし……」


 その辺に関してはそちら側が勝手にこっちの個人情報を曝したのが悪い。

 悪いのだ! 俺は自分自身にそう言い聞かせながら、相変わらず銃口は相手に固定させたままでいる。


「……っていうか、それよりも、もっとひどい場面なんていくらでもあったような……?」


 首を切られたり切られそうになったり、血まみれになった体はそろそろ茶色く乾こうとしている。


 血の飛沫を衣服に点々と残したまま。

 そのままで、ミゾレは生まれ故郷であり、愛しのホームグラウンドである首都、塔京(トーキョー)に帰っていった。


「こういうとき、なんて言えばいいんでしょうか?」


 泳いで去りゆく彼の後ろ姿が、雨にけぶる灰笛(はいふえ)の光景に溶けて消えていく。

 その様子を眺めながら、ハリが何やらムズムズとした様子で鼻の穴を少し大きく膨らませている。


「厄介払いができたって、そう言やあエエんとちゃう?」


 俺は車椅子の上で、それまで引き延ばしていた緊張感を一旦解きほぐしている。

 右手にボルトアクション式の武器を握りしめつつ、俺は大きく背伸びをしている。


「ただ……訪れた厄介がとんでもない大物だったような? ……そんな気ィもするけどな」


「まあまあ、深く考えすぎなんですよ、ルーフ君」


 そんなことよりもと、ハリは再び指先での検索を行おうとしている。


「さっきから気になっとったんだが」


 この際だから聞くことにする。


「なあハリ……さっきからずっと鞄の中まさぐって、一体何をするつもり……──」

ありがとうございます!

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