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願いごとをかなえて進ぜよう

こんにちは!

 丸々と艶やか。その姿は霊験あらたか、的中率九十六パーセントを叩き出す話題の占い師が携えていそうな水晶玉のように美しい水晶玉のようだった。

 キンシの槍、万年筆ようようにするどく尖る刃。その穂先が怪物の持つ玉のような器官、視覚器官、つまりは眼球を刺し貫いていた。


 ぐちゅり。

 湿ったものが掻き乱される、湿度の高い崩壊の音が聞こえる。

 それはキンシにとっては、灰笛(はいふえ)の都市が破壊されること、生まれ故郷がバラバラの粉々になることと同様に、悲しみに満ちあふれた出来事であった。


 続けざまに視覚器官を破壊されてしまった。怪物は当然の事として、悲痛で苦痛な悲鳴をあげていた。

 (くちばし)のような器官、喉の奥から放たれる喚き叫びは死にかけの人間の臭気を含んでいる。


 クンクンと、匂いを鼻腔に感じ取る。キンシは自分の体毛がポツポツと、鳥肌のように逆立つ甘い痺れを自覚している。


 人間の味を味わえる。一体どんな味がするのだろうか? 人間の命について、魔法使いの少女は夢想せずにはいられないでいる。


 束の間の夢見心地。夢を見る程度には簡単に、魔法少女は簡単に怪物の世界を一つ、確実に奪い取っていた。


「   ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ  」


 正確には自分一人の力ではない。メイの矢の見事な一撃や、トゥーイの奏でる旋律の効能による副産物、ついでの出来事でしかない。

 キンシは怪物の悲鳴を夢の中にいるような心持ちで聴きながら、穏やかな気分でそんなことを考えている。


 命を懸けた戦闘行為であるというのに、そんなことを考えてしまう。

 それはこの魔法少女が、人喰い怪物を殺すという行為にある種の性的快感じみたモノ、睡眠のような安らぎ、食事の充実感、それらに類似したモノを抱いているからだった。


 欲求を叶えながら、充実感に満たされていながら、キンシはさらなる喜びを底抜けに求め続けている。

 

「続き!!!」


 行動を言葉にしたがるのはキンシ個人の私的な癖。

 槍の穂先、銀色の刃を性行為終わりのペニスのような要領で抜き取っている。

 

 丁寧さのかけらもない脱出に、眼球内のとろとろとした黒い体液が剥がれて雫となってしたたり落ちていった。


 抜き取った槍の刃を、今度は腹が水平にぶつかるようにかたむけて、そのまま思いっきり叩き付けていた。

 まるで秋晴れの澄みきった青空の下で干した布団を叩くように、キンシは怪物の頭部を力いっぱい下にぶん殴る。


「   あぎゃあ   」


 だが本物の青空を知らない魔法少女の攻撃。

 しかして怪物には確かに、紛うことなく本物の衝撃が肉体に影響を及ぼしているのであった。


 殴打された怪物の頭部が地面に落下する。

 アスファルトにキスをする怪物。

 それに更なる追撃としてトゥーイがギターを大きく振りかざしていた。


「…………!!!」


 奥歯をしっかりと噛みしめる。

 トゥーイは魔術式を帯びたギターを怪物の頭部、それより少し下、ドードー鳥をイメージしたときに丁度首の辺りに当たる部分に武器を炸裂させる。


 アメジストのように透き通る魔術式が、触れ合った生き物の肉を瞬時にこの世界の常識……「普通」の枠組みから逸脱させている。


    ゴウゥイイィィィーーーン……!

 年の暮れ、冬の冷たい宵闇から響く鐘の音のように低く響く音色。

 「普通」の姿を忘れさせられた、怪物の首は()()()姿()であるただの魔力鉱物へと降格させられていた。


 (グリーン)蛍石(フローライト)のように薄い緑色を帯びている。

 ギターは鉱物に成り下がった怪物の肉体を、青年の腕力に導かれるままに、そのまま連続性を破壊していた


 ぶらぶら、と叩き割られた首が灰笛(はいふえ)の雨に濡れる。


 落ちた首、生首になりかけなモノ。

 左目は白色の魔女の矢によって射抜かれ、右目は子猫の魔法少女の挿入によってドクドクと体液を溢れさせている。


「首が急所ではないようですね」


 キンシが残念そうにしていた。せめてこれで終わってくれれば、まだ事は綺麗さを残したままで終わったはずなのに。

 (ニワトリ)などとは異なり、怪物の急所は首にある訳では無いようだった。

 今はただ、その事実が一つ解明されたことを喜ぶことにする。


 視界を、眼球はおろか首ごと喪失させた。

 この機会を逃すものかと、キンシは手の中にある武器に継続した認識の更新を実行している。

 手の中の武器を握りしめる、槍としてでは無く魔法の杖として、キンシは拡大させた万年筆にて魔法を使おうとする。


「敬い申し上げる、敬い申し上げる。

 嗚呼、雨よ! 嘆き涙雨(るいう)はとこしえに潤う。

 聞き給うれ、我が声を! 切なる願いを!」


 雨に対する感謝の言葉を届けながら、キンシは万年筆の先端に大量の水を呼び寄せようとしていた。


 都市に降る雨が寄り集まり、キンシの周りで渦巻いている。

 つむじ風に吹かれるように、雨粒はキンシの頭上、杖の先端に大きな塊を形成させていた。


 手段としては最初の魔法、怪物の気を引くための小さな水の弾と似たような形状をしている。

 ……そう、形としてはまあまあ似てなくもない。

 問題なのはその大きさである。

 キンシの体と比べても規格外的にサイズが膨れ上がっていく。

 弾の大きさは事業用のトラックのような大きさを有しているからだった。

ありがとうございます!

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