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これじゃあヌけないなあ

こんにちは。

 ペリットが吐き出される。怪物がドードー鳥の(くちばし)のような形状の捕食器官にて、己の肉体の一部、体表に生えている鉄の羽根から(むし)り取った。

 それらを口の中、喉の奥(死にかけの人間入り)の粘膜にてコーティング。

 錆びまみれの砲弾が作成される。そして怪物は自らの手、ないし口の中で作り上げた武器を余すことなく、保存することもなくさっそく使用している。


 放たれる砲弾。

 ふゅるるるる。軌道を描く弾は、どうやら今度はトゥーイの方を狙っているらしかった。

 ギターをかき鳴らして、周辺に存在する人間の魔力の質を高める。

 所謂(いわゆる)デバフと呼称される、補助に特化した能力である。

 

 であるからして、本来は攻撃のための手段という訳では無い、あくまでも、だが。


「トゥーイさん!」


 それはそれとして、魔法使いの青年めがけて推進する砲弾の姿に、キンシは危機感のなかで彼の名前を叫んでいた。


 このままでは青年の頭蓋骨がのしイカのようにぺしゃんこにされてしまう!

 キンシの想定した最悪のイメージは、しかしてとりあえず完全なる実現を回避していた。


「…………」


 トゥーイは歌をうたう声を止める。そして素早い動作にて演奏の姿勢からギターに似た武器を斧のように構えている。


 一歩二歩、三歩めの半分ほど後退。

 トゥーイは飛んできた砲弾をギターの表面にて受け止めている。


 テニスラケットをあつかうテニス選手のように力強く、同時に野球競技に響くバッドの一振りのように鋭い。

 ギターに類似した魔法の武器は、しっかりとその身にトゥーイの魔力を纏っている。

 魔力でコーティングされ強化された表面が、怪物の身から放たれた砲弾を弾く、飛ばす。


 ガイィィィーン……。

 寺の鐘、教会の鐘、あるいは神社の賽銭箱の底に硬貨が落ちて転がる時、耳にきこえる寂しくも確かな存在感を放つ響き。


 音の後に、トゥーイはギターで怪物の砲弾から自分……ないし自分に関係する人間を守っている。


 キンシやメイの体は安全を獲得した。そしてそのかわりに、狙いを逸らされた砲弾はたまたま近くにあった街灯へと激突していた。


 弾の勢いはそのままに。いや、もしかするとトゥーイの打ち返しによって更なる推進力さえも帯びていたかもしれない。

 ともあれ、いずれにしても人喰い怪物と魔法使いの青年の共同作業によって、また灰笛(はいふえ)の町が破壊されていくのであった。


「大変です……っ!」


 倒れ行く街灯を、ただ見守ることしかできないキンシは、胸の内に危機感を宿らせている。


「このままでは、怪物と僕らの手によって町が粉々に破壊されてしまいます……!」


 ひしゃげる金属、割れるガラス。

 破片や屈折を主たる原因に、キンシは切迫して状況の解決を考えようとした。


 怪物を殺すことは、まあ、最大かつ最良の結果とは言える。

 そうはいっても、それをうまく実現することができるかどうかは依然として不明瞭なままなのが実情だった。


「まずはともかく、攻撃と破壊の手段を奪わないといけません」


 キンシが独り言のように呟いている。ただ自分自身の身と語らいを深めるというよりかは、まるで他の誰かと相談しあっているような、そんな言葉の重なりあいが含まれていた。


「そうだ、そうなのですよ」


 キンシは頭のなかで目論みを組み立てた。


「羽根が全部なくなってしまえばいいのです」


 決めた内容をすぐにでも実行できるように、キンシは左手から魔法の杖を一旦手放している。

 持ち主の意向から少し離れた、万年筆ような刃の部分を持つ杖は一瞬だけ姿を煙のように散らした。

 かと思えば、丁度よく、手頃な感覚にてキンシの背中に寄り添うように停止飛行をしている。


 これでいつでもどこでもどんな時でも、とりあえず攻撃のために武器を使うことは出来る。


 自分自身に可能なこと、選択肢を増やすため。

 そのために、キンシは急ぎビルの壁から体を起こし、離して再び空を飛ぶ必要性があった。


 水中を泳ぐように、柔らかい所作にて足や腕をくねらせる。


 シジミチョウの飛行のように不安定な飛行能力にて、キンシは怪物の体表に体を密着させている。

 ダークブラウンな革製の長靴(ブーツ)の靴底が、砂利道のように硬い表面を踏みしめている。


 乗馬ならぬ()()とでも言うべきか。キンシは怪物の背中に毛じらみのようにへばり付き、身を丸く屈めて手を伸ばす。


 なにも身に着けていない、裸の手の平は怪物の表面、体表を覆う大きな羽根の群れ群れを鷲掴みにしている。


 金属のように硬いそれらは、一部分においてはキンシの腕力に負けて数枚ほどひしゃげている。

 三本以上ならば簡単に解決できる。

 しかしどうだろう? 四本以上となればもう……魔法少女に許されいる可能性を遠くはるかに超えてしまっている。


「うぐ、うぐるるるる……!」


 キンシは引き抜こうとした羽毛のそれぞれにとても、とても苦戦しているようだった。

 なんといっても堅牢、固い、まるで(にかわ)で一本一本、丁寧に丁寧に接着させたかのようにカチコチであった。


「抜けない、これじゃあ抜けない……!」


 さてどうしたものか。

 色々と考えていると、当然の出来事として体表にへばり付く異物に怪物が反応している。

ありがとうございます。

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