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届かなくても殺意は残るのね

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「とうっ!!!」


 キンシが威勢よく叫ぶ。実に元気がよさそうだった。それは魔法少女なりに自分の中身、内層にそこそこの納得が結び付けられたからであるらしかった。 

 小さくジャンプをする。飛び上がった肉体は、しかして肉や骨、血液本来の重さを思い出すことは無かった。

 世界の呪力を忘れたままで、キンシの体は空中に浮かび、そして海豚(イルカ)のような軽快さでくるりと回転をしている。


 キンシの後ろ回りを見上げながら、メイも彼女なりに怪物を殺すための準備を整えようとする。

 とは言うものの、とりたてて特別なことなど無かった。

 メイは雨合羽の下側、桜色のガーリーなワンピースの上、小さなショルダーバッグから二本の編み針を取り出している。

 編み針の持ち手のそれぞれを組み合わせ、すこしだけ呼吸をする。


 普通の息吹。ささいな魔力の活動だけで、メイの持つ編み針は弓のような魔法の武器へと変身していた。

 新しいカサブタのような、黒色のように深い紅色の弓。


 洋弓とは異なる、どちらかというと和弓にちかしい形状をしている。

 自分の身長よりいくらか長い、弓にメイの血液からしぼり出された魔力の弦がビンビンに張られている。


 体の大切な一部、おっぱい、ないしおっぱいにおける乳首のように大切な部分。

 メイの属する種族、鳥の特徴を宿した彼らにとって魔力の翼は、下手をすればカオやカネよりも価値のあるモノ、己のアイデンティティーを揺るがす存在でもある。


 しかしながらメイは、生まれてこのかた自分の翼に不信感を抱いたことは無かった。

 美しいと信じている。……と言うのもあるが、しかしそれ以上に、メイは自分自身の翼で魔法使いたちを守れるという可能性に、底抜けの自己肯定の時間を獲得できるのであった。


「私はしばらくお空を飛ぶことができないわ」


 しかしそれでも身体の機能が一時的に欠損してしまっていることには変わりない。


「もうしわけないのだけれど、怪物さんにちょくせつ攻撃するのはキンシちゃん、あなたにおっきくまかせることになるわ」


「何をおっしゃいますやら!」


 キンシは槍をたずさえながら、いかにも気分が良さそうに体をつむじ風のようにくるくるとさせている。


「メイお嬢さんはメイお嬢さんのままで、あなたがいるだけでこの世界に彩りが与えられるのです!」


「それは……いくらなんでも大げさすぎないかしら?」


 メイは傷を負った翼、まだ破片が刺さったままの左の翼から目をそらす。

 使えないものにいつまでも意識を割くわけにはいかない。

 メイは比較的無事な右側の翼から羽根を抜き取り、すぐさま一本の可愛らしい矢をこしらえていた。


「いえいえいえ、そんなことは無いのですよメイお嬢さん」


 矢をつがえるメイに、キンシは謎に自信満々な様子で断言をしている。


「戦闘の場面に可愛らしい女性キャラがいるだけで、それこそ旅をする勇者たちのふぃーるどBGMが変化するほどに劇的なのですよ」


 何かしらのゲームの二番目にちなんだ例え話を使っているが、しかし残念ながらメイはゲームについはてんで詳しくないのであった。


「さあ、戦いますよ」


 キンシはウキウキと息を吐きだし、目を爛々と輝かせる。

 水中で泳ぐように身をくねらせると、魔法が少女の肉体へ虚空における推進力をもたらしていた。


 しゅるるん、しゅるるん、しゅるるん。

 空気の流れをはらみながら、キンシは槍を持って怪物に攻撃をしようとする。


 怪物の方も、この場面が魔法使いとの戦いのために用意されていることを、もしかすると自覚しているのかも知れなかった。


「               」


 トゥーイが歌をうたっている。

 彼もまた人間の肉体を直接的に、科学的根拠を以て傷を癒す効能を持ち合せている訳では無かった。

 それどころか、他の人々に関心を持ってもらえているかどうかさえ、魔法使いの青年は断然とした自信を持っていない。


 だがしかし、彼の歌声によって周辺の人々の魔力の質、いわゆる艶や鮮やかさが向上していることは確かであるらしかった。


 その証拠として、キンシの瞳、丸っこいレンズの眼鏡の奥、緑の虹彩は夏の青葉のように萌えているのであった。


 魔法使いのよろこびを受け取る。怪物は叫び声をあげながら、自らの肉体の一部分を(むし)り取っている。


「 ああ  ああ  ああ  ああ ああ ああ ああ ああ 」


 くちばしのように硬い捕食器官の中、怪物は口の中の獲物を喉の奥に押し込みながら、攻撃のために毟り取った羽根を咥内にて寄せ集めている。


 怪物が自らの肉体から抜き取った羽根の弾を口から放つ。

 ペリットのように吐き出されたそれは、海賊船に搭載された砲弾のように獲物を、つまりは魔法使いの少女の頭蓋骨を破壊しようとする。


 そうはさせない、無意味に「死ぬ」必要性など無いし、ここではただつまらないだけである。


 メイは弓をつがえて弦を引く。

 引き絞るなかで狙いを速やかに定め、迷いなく矢の先端を弾に向けて撃つ。


 弾の推進力と人喰い怪物が想定しているであろう着弾の位置、主に魔法少女のいる場所より少し手前にて、メイは向かってきた砲弾を弓矢で破壊している。


「わーお?!」


 驚異の命中率、エイミングにキンシが賞賛と驚愕と意味不明さがないまぜになった歓声を上げている。


「すごいです!! さすがです!! メイお嬢さん!!」


「落ちついて、そんなことよりも、目のまえだけに集中しなさい」


 メイは次の矢を用意している。

 さてキンシの方もやる気を出さなくてはと、手の中にある槍……兼魔法の杖でもある大きな万年筆のペン先で空気を撫でている。


「さあ、何をして差し上げましょう?」

ありがとうございます。

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