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どうせなら死ねばよかったのになあ

こんにちは。

「いやいやいや」流されそうな状況、キンシが慌てて否定をいしている。


「だ、だだだ……駄目でしょう?! あのままだと死んでしまいますよ?!」


 キンシが心配をしているのは、いましがた彼女に意思を投げつけたばかりの人間のことであった。

 ツナヲの作成した魔力の投石、……と言うよりかはほぼ落石に近しい攻撃。それによって、人間は前頭葉の辺りを包む頭蓋骨を陥没させられていたのであった。


 事実、少し遠くに目線を移せば、頭部からドクドクと血を流しながらうつぶせで倒れている人間の姿をすぐに見つけることができる。


「助けないと!」


 キンシはまだ痛みでふらふらとする体を起こしながら、同時に周辺の人々に行動を起こすことを推奨しようとしている。

 期待していた。


「えー」


 しかし魔法少女の期待は叶えられそうになかった。


「やだよ、めんどくさい」


 ツナヲがとても分かりやすくめんどくさがっていた。


「なんであんな奴のために大事な治癒魔法を、言葉を使わないといけないんだよ」


「別にいいでしょうよ?! 減るものでも無いんですし」


 正確なことを言えばキンシの主張は間違っている。

 魔力と言うものは体力や細胞と同様、使えば使うほど傷つき消耗するものなのである。


 事実を忘れ去るほどには、キンシは動揺をしている。

 

 ……さて、そんな魔法少女の動揺に追い打ちをかけるように、さらなる凶事が人間に起こるのであった。

 気配はあった。感覚的には遠目に見えるダンプカーが段々とこちら側に近づいてきている、その光景に似ている。


「治してさしあげないと、死体がこの世界に一つ増えてしまいますよ」


「大丈夫だって、人一人死んだぐらいで世界はなにも変わらないし、オレも何も変わらない」


 キンシとツナヲがやり取りをしている最中で、メイが近付いてくる一体を見ている。


「ねえ、ふたりとも」


 距離が六メートルまで差し迫った所で、メイはその怪物の姿を見ている。


「 あああ あああ  あああ  あああ  あああ あああ あああ あああ 」


 機械の塊、様々な金属の部品を一つのところにまとめたような胴体。

 下腹部から伸びている二本の細い足が、さながら本物の鳥のように、見るモノに細やかな脚線美を想起冴えると同時に不安を呼び覚ます。


 しかしながら人間側の心配など露知らず、知ったこっちゃないと、人喰い怪物は堅牢なる捕食器官を大きく盛大に開錠している。

 ドードーのように太く長いくちばしのような捕食器官、二枚の硬さが地面を抉る。


 削岩機さながらアスファルトを削り、狙い済ました肉の塊を見事に拾い上げている。


 それもそのはずだった。

 人喰い怪物にしてみれば、丁度おなかがすいた頃合いに素敵なラーメン屋を見つけてしまったかのような、そのぐらいの幸運でしかないのだ。

 ともあれ、地面に転がっていた人間の死体は、人喰い怪物の晩餐(ばんさん)のために連れ去られんとしていたのであった。


「あ」


 キンシが素っ頓狂な叫び声をあげる。


「おわああああああっっっ??!」


 治りかけの傷を抱えながら、傷を作った張本人のあとを慌てて追いかけている。

 魔法少女の後を追うように、他の魔法使いたちも走り出していた。


「待って、待って! 待ってくださいーーーっ!!!」


 キンシは一生懸命に追いかけていた。


「あーらら」


 そんな魔法少女の必死さとは双極を為すが如く、ツナヲは相変わらず平坦とした様子で状況を把握していた。


「たまたま落ちていた肉に、たまたま通りすがりの怪物が、「こりゃあちょうどエエ晩飯や!! 今夜はパーリナイや!!」。

 って感じで、こんな事になっているのか。なるほど、なるほど」


「納得している場合ではありませんよ?! ゆゆしき事態ですよ?!」


 ツナヲの冷静っぷりをキンシが強く否定している。


「大変だー! あのままでは、彼が本当に死んでしまいます!!!」


 どうやら魔法や魔術で人間を殺すことは出来ないが、しかし人喰い怪物の胃は人間を殺すことができてしまえるらしい。


「噛み砕かれただけじゃ、まだ完全には死ねないところが口惜しいよね」


「そうねえ」


 いつの間にか、最初に人間から逃げていた時とおなじように、メイはツナヲの肩に体重をあずけている。

 ただ先ほどまでと異なっているのは、メイの腰回りには魔力で作成された白色の翼が折りたたまれていることだった。


「だいじょうぶかしら?」


 人間の安否などまるで関心もなく、メイはただ自分にとって親しい人だけに感心を向けている。


「羽が重くて、走りにくくないかしら?」


「大丈夫大丈夫、何も問題はあらんへんよ」


 ツナヲが軽快な様子でメイの心配を解きほぐしている。


「なんてったってオレは魔法使い! それも一流の魔法使いだからね! 女の子約一名の重さなんて、その辺に落ちている石ころを拾って投げることよりも、ずっとずっと簡単なことなのさ」


 それはもしかすると人間に対する皮肉の意味合いも込められていたらしい。

 なんとまあ、もうすでに老人と魔女は人間の安否など、それこそ部屋の隅にたまる綿ボコリよりも無価値で無意味で、無味無臭なものであると。そうとしか認識しないつもりであるらしかった。


 

ありがとうございます。

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