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痛みを感じない程度にローリングしていない女の子

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「言葉には、それだけで人を殺せる能力が備わっている」


 ツナヲは軽やかに走りながら、呟くように言葉を繋げていく。


「この世界を構築する魔法や魔術も、それらは全て言葉を基本としているんだ」


「リフレイン経典の一節ですか」


 ツナヲの唱えた文章にキンシが反応を返している。


「りふれいん?」


 聞き慣れない単語にメイが不思議そうにしている。


「”くりかえす” って意味よね?」


「その通り。なに、とりたてて特別なものでも無いよ」


 ツナヲは単語についての、「分かりやすい」であろう例え話をしようとしている。


「キリスト教や仏教やイスラム教、あるいは神教でもいいか。とりあえず、この世界に存在する基本的な宗教の一つであると思ってくれればいい」


 ツナヲの例え話。


「なるほどね」


 メイが納得している。


「んるる?」


 しかし今度はキンシの方が不思議がる番だった。


「きりすと……? それは一体誰のことなんですか?」


「ああ……」


 そう言えばそうだったと、ツナヲは一つの事実に気付いている。


「いや、なんでもないよ。これはただの名前だ」


 あからさまにお茶を濁そうとしている。


「ですが……──」


 そんなツナヲにキンシが、質問文と言う追撃を行おうとした。

 のだが、しかし。


 キンシの頭部に衝撃が走る。

 皮膚が擦れ、額と髪の毛の生え際の皮膚が抉れる。


「うぐ……?!」


 悲鳴を上げながら、キンシはまず視界や聴覚が確保されていることを確認する。

 何が起きたのか。キンシが「それ」を理解したのは、地面に落ちた石を見つけた時点でしかなかった。


 人間の腕によって投げつけられたもの。

 キンシの皮膚と肉と血をえぐり取った。攻撃の意識をまだ含む「武器」には、魔法少女の血肉がまだ新鮮味をもって付着していた。


「キンシちゃん!!」


 メイが悲鳴と同時に腰のあたりへ魔力の翼を展開させている。

 白色の羽根が花吹雪のように舞う。

 メイはキンシを羽根で包み込む。人間の投げた石から守るように、紅色の視線をキッと鋭く人間の方に向けていた。


「……ッ」


 幼女の見た目を持つ、幼女にしか見えない彼女の、幼女らしからぬ視線の鋭さ。

 紅色の煌めきに人間が分かりやすく怯えていた。


 同時に振りかざされる腕。それを抑制する別の腕。


「待ちなさい」


 ツナヲがトゥーイの右腕を強く握りしめていた。


「気持ちは分かる」


 ツナヲは瞬間的な速さでキンシの安否を確認する。

 投げられた石を踏み潰さん勢いで地面を踏みしめる、強く強く。

 トゥーイの右腕には石と同じ重さ、あるいはそれよりも少し重い、そんな程度の攻撃のための感情が込められている。


 右手のなかにはギターの形にとてもよく似た、「レスポールスタンダード」を模した魔法の武器が(つか)まれている。

 トゥーイは武器を振りかざし、敵に攻撃するために武器へ魔力を注ぎ入れようとしている……。

 

 ……だがすぐに考えを変える。これだけでは足りない、魔法や魔術、魔力に頼っては人を殺すことは出来ない。


 トゥーイは考える。

 ただ純粋な殺意だけを求めた、準備は整った。

 

 あとはもう腕を少しだけ動かせば、人間一人の首を()ね飛ばす事は容易であった。


 だからこそ、ツナヲは慌てて魔法使いの青年の動きを止める必要性に駆られていた。


「落ちつくんだ、君は()()を使ってはいけない」


 「それ」と言うものが何なのか、直接的な表現は行われなかった。

 なのにどうしてだろう、メイはすぐに言葉の意味、それらが存在するための魂、こころの声をすぐに想像することができていた。


「殺すつもりなのね」


 メイがトゥーイに問いかける。


「はい」


 トゥーイはそれに、自分自身が使える言葉、許されている言葉だけを使って自らが持つ殺害のためのこころを認めていた。


 武器を投げようとした。

 しかしトゥーイの体を止める腕はもう一つ存在していた。


「わああ!!!」


 トゥーイの腰にめがけて、さながらアメフトの全国大会に出場した選手のごとき力強さでタックルしている。

 キンシはトゥーイの腰回りに腕を回す。

 体を激しく動かす、そうすると額の左側に出来た傷からさらに血液があふれ出てきていた。


 赤い血液が肌の上を滴り落ち、まぶたから右側だけ白いまつ毛を濡らす。

 眼球が赤く濡れて痛い。

 だがキンシは痛みをこらえてでも、青年の動きを止めようとしていた。


「…………」


 少女の重みでトゥーイが少しだけ冷静さを取り戻そうとしていた。

 拒絶の意思がほんの少しだけ解きほぐされていた。

 その瞬間を、ツナヲは逃さなかった。


「えい」


 ちょっとしたかけ声、その後にトゥーイと人間の足元に魔法陣が展開されている。

 ふんわりと重力を忘れさせられた、肉と血液の重量を支えるべき場所を失った体が寄る辺なく転倒している。


「…………ッ」


 トゥーイが転ぶ。

 それに合わせてキンシの体も濡れた地面の上へと放り出されていた。


 そしてもう一人、ご丁寧にこんなところまで追いかけてきた人間もまた、老人のスリップ魔法で転倒させられている。


「さあ、とどめの一撃」


 転んだ人間の上に、ツナヲは石ころのイメージを作り上げる。

 組み立てた想像力は、魔力によってすぐに確固たる実態を獲得していた。

読んでくださり、ありがとうございました。

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