どう作っても拒絶感は消えないのだ
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「と言いますか、この前も仕事の相談で電話したばかりじゃありませんか」
忘れたとは言わせない。そんな圧を感じるハリの様子を、俺はつい珍しいものを見るかのような感覚で見つめてしまう。
この魔法使いはこんなにも他人に対して感情をあらわに出来たのか。
俺はハリとエミルの関係性について想像してみる。
想像力の仕様を試みたが……どうにも、こうにも上手くいかない。
イメージを作り上げるアイディアが浮かばない。のは、彼らがそれぞれにあまりにも自由すぎる個人を持っているからだった。
片方は古城に属するエリート魔術師で、もう片方は普段何をしているのかも不明瞭な怪しい、それこそ「集団」よりも怪しいかもしれない、そんな魔法使いなのである。
二人の接点について気になるが、しかし今はそれ以上に確認しなくてはならない事項が山のように立ちはだかっている。
ひとつひとつ解決していくしかなさそうだった。
「死んでないって、どういうことなんだよ? たしかに首を刎ねられてただろ?」
俺の問いにハリがなんてこともなさそうに答えている。
「怪物は人を食べないと殺せません。そして魔法はあくまでも人喰い怪物を殺すためだけに存在しているんですよ」
ハリは解答をよういする中で、ふと、自分自身の内に新たなる選択肢を見出しているようだった。
「……ということは? もしかすると彼は、●●●●氏はボクと同じ魔法使いとしての資質を持っていたのかも? そうなのかもしれません……!」
聞き慣れない、聞いたとしてもすぐに忘れてしまいそうな名前を口にしている。
それはどうやら俺たちを襲った集団の信徒の名前でらしい。
俺がそう理解した所で、そんな名前などどうでもいいし、疑問点は何一つとして解決されていない。
それが問題点だった。
「新たな発見の途中わるいんだが、もっと具体的な説明をしてくれないか?」
「ああ、そうでした、すみません忘れるところでした。ついうっかり」
テヘペロ♥
そうとしか形容しようがない、しょうがない動作に衝動的な殺意をおぼえてしょうがない。
ナイフでも包丁でも、何だったらバットでもいい、誰でもいいから俺に目の前の魔法使いを殺すための手段を与え給へ。
…………神とか天使とか、あるいは全能なる王様的な何かに祈った所で俺にその手段が与えられる訳でも無い。
それどころか、俺には右足も知識もなにも無いのだ。
今から、いや、今すぐにでも知るしかないのだ。
「魔法じゃ人は殺せないのか?」
「と言うより、魔力と言う存在そのものが他者を殺害する器官ではないのですよ」
「どういうことだよ? あんなに……あんなにもすごいことができて、どうして人を殺すことができないんだよ」
自分の中の価値観が揺らぐのを感じる。
もしかすると、俺は自分自身で思っている以上に魔法に対して幻想を抱いていたらしい。
「現状において、この世界に存在する人類は魔力を獲得することで更なる発展を得た」
ハリは突然歴史の話をし始める。
「魔力と言うのは、他者の認識が存在していなければ、結局のところその辺に転がっている石ころよりも無価値、無頓着、無意味なものでしかないんですよ」
いかなる奇々怪々な出来事も、涙を流す人間がいなければただの現象。
風に名前を付けることができる人間の意識が無ければ、魔法も時間と共に消える事象であると。
そう、魔法使いは知覚している。
「タヌキが化けるんじゃないか? 人間がそう思うからタヌキは化けれます。
狐は油揚げが好きで怒らすと怖い。そう思うから狐は油揚げを食べて人を祟れる」
ハリは目を閉じて三秒、いつか、他の誰かに言われた言葉を思い出している。
「この世界の全てはこころに基準する
全てのモノはこころを主として作られる」
「なんだよ、新手の宗教勧誘か?」
「おお、お察しが良いですね、さすがルーフ君です」
ハリは昔を懐かしんでいる。
「ボクが幼少期お世話になっていたリフレイン教の今日の凶事を矜持を以て乗り越える教訓、ですよ」
リフレイン教? たしか天使を進行する宗派だったような。
俺の住んでいた故郷でも、少しだけ信徒的な人間が居たような気がする。
俺が記憶の中をまさぐっていると、ハリは人の殺しかたについて語っている。
「そんなに人を殺したいのなら、手頃なナイフを使うか、その辺に落ちている石ころで頭蓋骨を割った方が手っ取り早いのですよ」
ハリは文句を言う。
「何てったって魔力で人を殺すためには、まず他の人に認められる素晴らしい魔術式、そして誰かの心を動かせる魔法を丁寧に、丁寧に! 丁寧に!!! こしらえなければならないのです」
つまり誰かに好きだと思ってもらえるものを、まず作らないといけないのか。
他人、あるいは自分でも何でもいい、何か殺すために、わざわざ誰かに好きになってもらえるものを作る。
「また魔力と魔力は相反しますからね。個人が他人のことを完全に理解できないように、魔力もまた他者の魔力を理解することができない。
もしも人のこころが分かる魔法が使えたとしても、知った所で魔力そのものは他者を拒絶するようになっているんです。
心臓が生きている間はずっと鼓動を続けるように、魔力は他者を否定し続ける。
そう言う仕組みの器官なんです」
「…………めんどくせえ」
喧嘩別れ寸前の女よりもめんどくさいではないか。
「だから殺すなら、魔術や魔法なんかよりもナイフで殺した方が早いんですよ」
読んでくださり、ありがとうございました。




