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それはもしかすると思い込みかもしれない

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 しかしながら…………マジなのだろうか? にわかには信じ難い。

 疑わしきは罰せずとはよく言うが、しかし俺には目の前の魔術師、エミルを罰する術など持ち合わせていない。

 と言うか、何をするにも今の俺では目の前の魔術師に適う可能性など限りなくゼロだ。

 …………いや? たとえ五体満足で全量健康優良児であったとしても、この魔術師には勝てない気もする。

 なんてったって、相手はかつての「大災害」を生き残った人間なのである。

 記憶も経験もない、ペーペーなクソガキの俺に、エミルに勝てる要素など皆無に等しかった。


 ともあれ、しかしながら問題を無視することも出来ない。

 と言うか、ここでなかったことにするには、あまりにも問題が多すぎて大きすぎだった。


「あいつは……。えっと、誰だったか……ッ?」


 名前を呼ぼうとして、俺は相手のことをほとんど何も知らないことに今さらながら打ちのめされている。

 とりあえず現状を持ち合せている情報だけで言葉を構築しなくては。


「首取られたヤツ、ギロチンをキめられたヤツがいただろうがよ?!」


 なんとか正しさに近しいと思われる言葉を選んでいた。

 そのつもりだった。


「ああーアレか、その辺については大丈夫だ」


 なのだが、しかし、俺の動揺などまるで関係なしにエミルはいたって淡々とした様子で状況についてを話している。


「あのぐらいなら大したことない、すぐに治せるよ」


「治すって……」


 どうするつもりなのだろう? 相手は擦り傷切り傷とはあまりにも違い過ぎているんだが?

 だって……首を切られたんだぜ? それをどうやって……。


「まさか?! 死体を繋ぎ合わせて新たなる生命体を創造するのか?! まさかの人体錬成ってやつなのかッ」


「違う」


「やべえよ……! 禁忌に触れたら色々と、色々な神の怒りを喰らい尽くすっての……!!」


「違げぇから、落ちつけよ」


 エミルが俺をたしなめるようにしている。


「あー……そうか、そういやルーフは「日照権」のある場所で育ったんだっけな。うっかり忘れそうになってたよ」


 専門用語の様なものを使いながら、エミルは俺の出自についてを指摘している。


「化学を中心とした生き方じゃあ、治癒魔術とか魔法とか、まだ見たことないんだろうな」


 勝手に想像されるのは好きじゃない。お前のなにが、どうして俺のことを理解することができるというのだ。

 それが許されるのは妹だけ、妹だけが俺のことを理解してくれる。


「とにかく、こういうのは論より証拠、だ」


 エミルは古くから伝わり、現代まで残されている言い回し、言葉遣いを唇に呟いている。


「早速使ってみせようか。もしもし?」


 エミルがバスに向かって軽く叫ぶようにしている。

 部下にあたる魔術師の一人を呼び、何ごとかを指示している。

 魔術師の一人はエミルの要求を受け入れている。

 その内容を迷いなく実行し、担架に乗せられた「それ」をおれ達のもとに運び終えていた。


 フワワン、と浮遊している。浮かび上がるための魔術式を組み込んだ担架、患者を運ぶための簡易的なベッド。

 その上に「それ」はあった。


「…………」


 首を切られた死体……にしか見えないモノを見ている。

 見続けていると、俺は忘れかけていた常識を肉体の内層に再上映しそうになる。


「うええ……」


 気分が悪くなって、めまいがしてくる。


「大丈夫か?」


 エミルは少しだけ視線を別のところに向けていた後に、もののついでと言った様子で俺の心配をしていた。


「こんなのを見て、大丈夫なワケないだろ……」


「あはは、それは言えてんな」


 エミルはまるで昼飯時に好きな女のタイプでも語らうかのような、そんな気軽さで俺の体調不良を眺めているだけだった。


 ……何がそんなに面白いというのだろう?

 目の前には首を切られた、惨殺された死体があるというのに。

 ああ、ほら、ご丁寧に切り落とされた首、頭蓋骨までセッティングされているというのに。


「怯えるこたぁねェよ」


 エミルが俺をなぐさめようとしている。


「別にこれは、死んでいる訳じゃ無いんだよ」


 …………。


「…………」


「……」


「…………」


「……あの、何か言ってくれないと困るんだけど」


 エミルが居心地を悪そうにしている。

 それこそ目の前の「死体」の相手をしている事実以上に、エミルは静けさを酷く嫌悪しているようだった。

 仕方がないので俺も喋ることにする。


「冗談を言うには、まだ時間は早いぞ? せめて八時になってテレビの前に待機するまで待てねェのか?」


「いやいや、冗談なんてこれっぽちも言っちゃいねェよ? オレはいつだってどんな時だって、何事にも全力を尽くす男だぜ?」


 エミルはいたって真面目そうな様子で自己紹介をしている。


「オレのことなんてどうでもいいんだよ。まずは、早いところ()()()が途切れる前に、器を元の形に戻さないとな」


 エミルは右の手を前に、「死体」のようにしか見えない肉の塊の上にかざしている。


 そして息を吹く。


「すぅう、はぁあ」


 魔力を使うには少しの工夫がいる。

 エミルの右手が大きく変形をしていた。

読んでくださり、ありがとうございました。

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