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タピオカカメラを噛み潰せ

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 直感のようなものが働いていた。鳥肌がメイの肌に発症し、白色の羽毛がブワア……と静かに膨らんでいる。

 感覚的なもので相手を早急に判断すべきではない。そう教えてくれたのは確か祖父の言葉である。


「あれれ~? 魔法使いがこんなところでヒマそうにしていていいのかな~?」


 ……とは言うものの、物事には得てして限度と言うものがあるような気がする。

 いや、あると信じたい。そう願いごとをしているのは、やはりメイの白色の羽毛の先に震える直感でしかなかった。


「さっさと怪物殺しにいけよ、遊んでんじゃねえよクソが」


 白色の魔女が睨んでいるというのに、人間はスマートフォンのカメラを魔法使いたちに向け続けている。

 光沢のある赤色のスマートフォン。最新機種然としている、その証としてやたらとレンズの多いカメラ機能をその機体に携えているのであった。


「みなさ~ん、みてくださ~い、ここに仕事をサボっているクソ魔法使い、精神異常者、障害者、クソ汚い穢れがいますよ~」


 「-」の長音符ではなく「~」の方がふさわしい。

 正しい言葉遣いを忘却したくなるほどにはムカついていた。

 メイはすでに、他人の人間である彼に対する憎悪、嫌悪、恨みつらみその他もろもろもろのネガティブな感情を乱開発のビル群のように乱立させている。


「な、んあなななな……!??」


 巨大な犬に遭遇してしまった生後三カ月の野良猫のような、すこしの悲しみと辛さを含んだ唸り声を上げているのはキンシの喉もとであった。


「んな……んななな、な、何をおっしゃるのです?!」


 なんとかそれだけの言葉を作りだしながら、キンシはすでにすっかりおびえ切った様子で人間へ一歩前に進み出している。


 言葉よりも行動を先に起こしている。

 そんな魔法少女の姿に、人間はほんの少しだけ怯えのような感情を瞳に滲ませている。


 しかし当の魔法少女の方は相手の様子などまるで気付いてい無いようだった。

 眼中にない。アウトオブ眼中のままで、キンシはただ自分に出来る正しさを貫こうと勇気を振り絞っている。


「僕たちは決して、お仕事をサボタージュしようだなんて、そんなことは全く考慮していないのですよ!」


 サボタージュの意味がどのようなものであるのか、人間には上手く理解することができていなかったらしい。

 と言うよりかは、人間はそもそも目の前の若い魔法使いの意見を聞こうともしなかった。


「仕事中の割りには、ずいぶんと暇そうにしてんじゃん」


「そんなことは……」


 キンシは否定しようとした。


「……あ、えっと、えと……今は僕の超絶怒涛の個人的欲求を叶えてもらっているのでした!」


「キンシちゃん?! ぜんぶを正直にいうことが正義とは限らないのよ!!」


 魔法少女の馬鹿正直具合にメイはいっそ殺されたくなるほどの悲しみを覚えていた。


「みなさん聞きましたか~?!」


 このあたりになってようやく、メイは他人である人間がスマートフォンで何かしらの撮影行為を行っているらしいと把握している。


 しまった、しくじった。もっとはやくに気付くべきだったのだ。

 メイはキンシとツナヲを、スマホカメラの範囲内から守るために、おのれの肉体を恥辱の壁と想像して人間に立ち向かわんとしている。


「ううう」


 だが魔女の頑張りは、非常に残念ながら無駄に終わってしまいそうだった。


「ギャハハハハ~♪」


 全く眼中にないようだった。

 当たり前であった、敵と比べてメイの体はあまりにも小さすぎる。

 相手は成長期を無事に終えられた肉と骨と皮膚の塊、対してメイにあるのは幼女の姿に捕らえられた無力な魔女としての魂だけだった。


「やっべ~、これぜったいバズるわ~」


 不祥事を望む心、炎上と言う名の現代における断罪の裁き、そこに産まれる熱だけをベロベロと舌でなめとる。

 甘さを食い散らかした後は、雑に残った肉片だけが腐る。

 黒い(ハエ)が白い(ウジ)を産み付ける、幼虫たちの蠢き。


 想像力がメイに憎悪を呼び覚ませ、そして相手に対する攻撃の意思を確立させていく。

 魔法使いたちを守りたい。

 どうして守りたいのか? メイは手短に自問自答する。


「作れる人が好きだから……」


 ぼそぼそと、ポルターガイストのようなささやき声だった。

 人間が見なければ、意識しなければ、それはただの現象に過ぎなかった。


「楽しいかもしれない、面白いかもしれない、

 美しいかもしれない、悲しいかもしれない、

 嬉しいかもしれない、怒れるかもしれない、」


 そういうものを作れるかもしれない、彼女はそう思える人間が好きなのだ。

 可能性に希望を見出す。


「くっそつまんね~」


 そして何も生み出さない人間が、このくだらない世界で、世界よりも大嫌いなのだった。

 

 感情の動き、他人に対する攻撃の意思。

 たったひとりではない、メイがそのことに気付くことができたのは、彼女の右隣にたたずんでいた青年から注がれる視線の気配によるものだった。


 神経が過敏になっていたことも関係しているのだろう。

 メイはトゥーイの方を見る。


「かあかあ、かあかあ、かあかあ」


 そしてちいさな声でカラスの鳴き声のような、喜びと戦いへの鼓舞のさえずりを唇に紡いでいた。 

読んでくださり、ありがとうございました。

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