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新しめの新しい新しさ

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 メイは頭のなか、こころのなかに雪の結晶を思い出していた。

 故郷の村、四つの季節が規則正しく巡る日々。冬の訪れ、夏の頃には雲にキスができそうなほどに近かった雲が遠く、遠く離れて灰色になり、雪の粒を降らす。


 天空の灰色からふうふうと吐き出される冷たい結晶たち。

 指の先に捕らえる、白色の繊細な輝きは人間のぬるい肉と骨、不器用な骨の指がつい憧れてしまうほどに繊細で冷たい。

 もっと楽しみたいと願う、そうするほどに血液が激しく流れ、生まれた熱が人智の外側に存在する繊細な芸術品を透明に溶かしてしまう。


 あまりにも儚すぎる美しさ。

 それはメイにとって、故郷の村で暮らしていた時の、日々を生きていく中での掛け替えのない喜びの一つだった。


「キレイね」


 そしてメイはそんな雪の結晶を思い出していた。

 美しさを連想する、メイの指先はキンシと言う名前の魔法使いの少女の睫毛に触れている。


 さわさわと毛先を撫でている。

 キンシの左目のまぶた、中身の眼球を守るための役割を担っている睫毛は、雪の結晶のように真っ白であった。


「ここだけ色素が抜け落ちちゃっているのね」


 メイはとりたてて特別なことを考えるまでもなく、ただ予測できるであろう事実を言葉に変換するのみであった。


「呪いって、ほんとうに体をテッテイテキに作りかえちゃうのね」


 単純に自分の知らないモノ、未知なる存在に対する関心だけを胸に抱いている。

 肉の膨らみをほとんど感じさせない、幼女然とした不完全だけに守られている胸元、そこに生えているふわふわの羽毛が微かに膨らんだ。


 それは好奇心の膨らみだった。


「なんだい、なんだい? なんや、面白そうなことしとるやん」


 男性の声が聞こえる。

 メイが振り向くように視線を動かせば、そこには兎にとてもよく類似した聴覚器官を持つ、初老程度の外見年齢の男性が佇んでいた。


「ツナヲさん、おはなしはもう終わったの?」


 メイが男性の名前を呼びながら、彼の身に起きていた用事の様々を思い返している。


「いや? なんかまだ色々と、連絡しなくちゃならない出来事が細々とあるみたいだけれど」

 

 ツナヲは誘導するようにゆっくり目に、蜜柑色(みかんいろ)の視線を事務所内に滑らせている。

 彼と彼女の見ている、そこではオーギと言う名の若い魔法使いが電話対応に追われている姿があった。


「何だって……?」


 事務所にはほとんど誰もいない。少なくとも現状、事務所内にはオーギよりも立場がしたと思われる人間しかいない。

 だからこそ、オーギは自由気ままな音量で電話の相手と会話できている。


「それは、……本当なのか?」


 なにやらトラブル的な雰囲気、気配を感じる。

 

 他人の感情の変化、音色を敏感に感じ取ったのは子猫のような聴覚器官。


「……んるる?」


 キンシが喉の奥を鳴らしつつ、意識を眠りから覚醒へと移行させようとしている。

 体を起こして目覚めようとする。


 しかし。


「うえ?」


 キンシはどうやら自分の寝床の具合について、短い睡眠のあいだにすっかり忘却してしまっていたらしい。

 寝床と呼ぶにはあまりにも簡単すぎる、事務椅子を二つ雑にくっつけただけのベッドが崩れ落ちている。


「んぎゃっ!」


 崩壊したベットの下、キンシの体が事務所の冷たい床の上へ大福もちのように落ちている。


「まあ!」


 魔法少女の落下を見守っていた、メイが手を伸ばそうとした。

 だがそれよりもはやく、風のように早く、あるいは新幹線などを追い越さん勢いにて、トゥーイがキンシの背中に手を回していた。


 優しく柔らかく、うやうやしく、トゥーイは魔法少女の体を支えている。


「あ……ありがとうございます、トゥーイさん」


 キンシは寝ぼけまなこのなかで、自分のことを助けてくれている青年に礼を伝えている。


「んるる」


 キンシは喉の奥を鳴らしながら、床の上に腰を落ちつかせたままでしばらく視線を右往左往させる。

 にじむ視界。


「どうしたのでしょう?」


 キンシは不思議がっていた。


「世界が薄ぼんやりで、トゥーイさんの顔なんかはクロード・モネの画集のように輪郭が曖昧ですよ?」


「キンシちゃん、眼鏡をつけなくちゃ」


 メイが冷静かつ的確なツッコミを入れている。


「ああ、そうでした」


 自分の体の問題だというのに、キンシはそこでようやく不具合の詳細を把握しているようだった。


「えー……っと? 眼鏡、眼鏡はどこですか? 眼鏡眼鏡、眼鏡が無いと何も見えない……世界も明日も何も見えない」


 なにやらふざけた歌の始まりのような台詞を吐いている。

 そんな魔法少女の頭上から、彼女の求める答えを差し出す別の魔法使いの手が降り注いでいる。


「ほれ、机の上に置いてあるっての」


 キンシは自分の左手を脳天に、そこに置かれている先輩魔法使いの手の感触を味わう。


「おお、ありがとうございます、オーギさん」


 いくらか意識を取り戻した。

 そんなキンシにオーギはそのまま拳で少女の頭蓋骨を圧迫している。


「オーギ「先輩」だっての。いつまでも寝ぼけているんじゃねえぞ」


「痛だだだだだっ?!」


 拳が頭をぐりぐりぐり。

 キンシは痛みに悲鳴を上げていた。

読んでくださり、ありがとうございました。

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