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スイッチを押さないで

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 突然だが前回までのあらすじ。

 …………いや、違うな、粗筋とも呼べないただの雑談。

 どうかブラウザとかの戻るボタンをクリックしないでください、スイッチを押さないでください。


 …………あ、ちなみに俺はサ……じゃなくて、カハヅ・ルーフではないからな。

 あんな奴と一緒にしてもらったら困る、実に困る、とてつもなく困る。

 いや、困るどころの話じゃない、いっそ憎悪を抱くほどの拒絶感だ。


 ともあれ、次の章である。

 魔法少年が敵と戦った日と同じくして、魔法少女もまた敵と戦い、そして疲弊していた。

 

 無理もない。異世界より来訪した人間、あるいは人間以外の何かしらの物体。この世界全体を包み込む巨大な呪いによって、ヒトを喰らう存在へと堕ちた存在。 

 それらと立て続けに二回も戦い、そして殺害を行ったのである。


 少女の細い腕にはいささか無理がありすぎるストーリー運びである。

 まったく、こっちの都合も少しは考えてほしいものだ。願いが叶えられる日は、何となくだが永遠に訪れないような気もするが。


 さて、一人称もなかなか疲れるものである。

 特に普段書いている形質からいきなり変えたときの、認証の呼び方にはどうしても苦労してしまう。

 場合の三人称的テキトーな文章、そっちの方が俺の好みやら肌のようなモノに合っている。


 と、そう思うことにする。安心を得るにはいささかファジーすぎる気もするが。

 まあいいか。俺は見ていた。


 …………。


「……」


 メイは不安げに青年のことを見守っていた。

 かれこれ三十分以上は経過しているだろうか。メイは時計でしっかりと長針の進軍具合をつぶさに確認していた。


 あるいはもしかすると、この白色のフワフワとした羽毛と綿毛を生やした魔女は、青年の異常な行動から目をそらしたいがために、わざわざ分刻みで事務所の時計を確認していたのかもしれない。


「…………」


 メイと同じように、トゥーイと言う名の青年の魔法使いは唇をジッと閉じて沈黙をしている。

 ただ彼の場合、理性的な白色の魔女と大きく異なっているのは、彼の視線が一人の少女にずっと固定されたままでいることだった。


 青年の左目、アメジストのように鮮やかな紫色を放つ虹彩。

 そこに反射されている存在。


「すぅ……すぅ……」


 事務所にある事務椅子を二脚連結させた、超絶怒涛に寝心地の悪い寝床にて眠る少女。

 スタジアムジャンパー風味の上着を毛布代わりにしている。黒色の布が、青年と同じく魔法使いである少女の呼吸に合わせて、子猫の腹のように柔らかく上下をしている。


 ちょうどよく、魔法少女の持つ聴覚器官も子猫のような姿かたちを持っていた。

 生娘の手によってこしらえられたおにぎりのような、愛らしい丸みを帯びた三角形。

 黒真珠のように艶やかな体毛は、同時に少女の頭部を守る黒髪の美しさにも共通している。


「んるるるる……んるるるる……」


 唇を閉じて鼻で呼吸をしながら、少女は寝言のように喉の奥を鳴らしている。

 なめらかな右頬、白真珠のように深い安らぎに魔法使いの青年は思わず口づけをしたくなる。

 しかしこんなところでセクシャルハラスメントを行うわけにはいかない。第一、睡眠中のいたずらは青年の、性癖と言う名の超個人的な傾向に合致しなかった。


 それはそれとして、青年の紫色の視線は少女の左頬に注がれている。


「トゥ」


 「トゥーイ」と言う名称を意味する短い呼び名をメイがつぶやいている。

 

「そんなにキンシちゃんの寝顔をジッと見て、なにか楽しいことでもあるのかしら?」


 そろそろいい加減にしないと、キンシと言う名前の少女を延々と眺め続ける奇妙奇天烈、珍奇な情景描写が、都会の電車よろしく延々と連なるばかりである。


「左のほっぺになにかついているのかしら?」


 トゥーイが躊躇っていた部分を、メイは特になにを憂うわけでも無くアッサリと触れてしまっている。


「そう言えば、キンシちゃんの左のほっぺには火傷のあと、傷あとがあるのね」


 メイが触れているそこ。

 キンシの頬には呪いの火傷痕がある。

 呪いと呼ばれる魔力の暴走、暴力的な増幅が炎症の様なものを来たし、肉体の細胞を破壊する。


 肉の体が元の形を取り戻そうとする、必要最低限の形へと戻るために肉を埋めあわせる。

 その際に生まれたゆがみ、それがいまタトゥーアートのように大人しく、黒色になって眠っている。


 涙の軌跡のように不安定で、しかし蔦植物の若い枝先のような瑞々しさ、ある種未来への希望を想像させる文様。


 頬を撫でる。

 メイの指はやがてキンシの左目の辺りに辿り着いていた。


 閉じられている瞼。

 薄い肉、柔らかい皮膚の内部。

 魔法少女の赤色の琥珀のひと塊、赤色の宝石の内層、そこには精霊が眠っている。

 目の奥には情報を記録するため、その行為に特化した能力を持った、蓮の花の姿を模した精霊が封じ込められ、自由気ままな睡眠時間を(たしな)んでいるのであった。


 メイは魔法少女のまぶたに触れる。


「あら」


 そこでひとつ、ささやかな違和感に気付いていた。


「まあまあ」


 メイは指先でキンシのまつ毛に触れている。

読んでくださり、ありがとうございました。

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