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こしらえた魔法を喰らいやがれです

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 それはささいな魔法だった。せいぜい肉体の見た目を少し変える程度、プチ整形ぐらいの手軽さである。

 指先に黒色のふさふさとした体毛を生やし、手の指の爪は人間の持つ扁平な形状のそれとは大きく異なっている。

 爪は釣り針の先端のように鋭くとがっている。白色の硬質さがちょっとした刃物のような攻撃性を剥き出しにしている。


「左の手だけを怪獣化させたのじゃな」


 「怪獣」その単語がミッタの使う言葉として登場した現実、俺にはそれがどうにも奇妙なもののように思われて仕方がなかった。


「ちょっと前のおぬしと同じじゃな。わしを肉体に取りこんで、魔力を最大限まで暴走し尽くした、あの時と同じ状況じゃよ」


 思い出したくもない事柄。

 THE★黒歴史! ミッタはそれを、それなりに分かりやすく、何なら映像やテキスト付の情報で丁寧に再生しようとしてきていた。


「魔力の暴走によって肉体の形質、形状、質量重さその他諸々を常識……「普通」の範疇から大きく逸脱させる。ある意味においては、お主はあの時魔法使いになるより他ならなかったのじゃのう」


 俺のことはいいから…………。そないなことよりも、あいつがどんな風になっているかだけを端的に教えてもらいたいのだが?


「つまり絵師殿は一部だけ怪獣になったから命を確保できたのじゃよ」


 かなり端折られてしまったが、しかしこちら側から要求したのだから文句も言えない。

 まあ、あれだ、指先の爪を変形させてバスにへばり付き、皿コミの蜘蛛のスーパーヒーローのように壁にへばり付いている、ということなのだろうか?


「かなり不正解じゃなのう」


 なんだよ、違うのかよ。


「皿コミとなんじゃ? 「スパイダーマン」ならアメコミ! アメリカン・コミックじゃろ? スタン・リーじゃろ?」


「あ?」 


 意味不明さに思わず声が出てしまい、そのせいでバスの車体が右斜め前に居る車のテールランプを粉々に破壊してしまっていた。


 しかし、実に意味不明である。あめこみ? あめりかん? べっこう飴が詰まった缶詰なり詰め合わせのような何かなのだろうか?


「あー……うん」ミッタはとても面倒くさそうにしている。「そういう感じで、ええんじゃないかの」


 絶対ごまかされている。


 真実を追求しておきたかったが、しかしミッタはすでに別の展開へと展望を籠めていた。


 ハリが指先だけを獣に堕とした肉体で、大きく息を吸って吐いている。


「すうぅぅぅー……はあぁぁぁー……」


 バスを横から眺めたとして、一メートルほど前方、運転席や怯えて固まっている乗客たちの群れとがある方角。

 それを背に、ハリは左手を覆うワイシャツの上に右の手の平を添えている。


 「待った!」のジェスチャーのように、ハリは左の手の平をまっすぐ男性に向けて真っ直ぐかざしている。

 手の平は見えない。

 ただ白い長袖の奥、ハリの肉体に刻みつけられた呪いの火傷痕が光を帯びている。


 数式のように規則的で無駄の無い文様は、限りなく自然現象に近しいもののはずなのに、どこか人工物的な安心感のようなものを抱かせてくる。

 …………なんだか俺はその安心が好きになれそうになかった。


 深い緑色、翡翠のような色彩を持つ光が生まれ、増幅する。

 

 ハリは魔法使いとして、実に魔法使いらしく呪文を唱えている。


「さうらふ、さうらふ、さうらふ。

 もし願ひ叶はば、君のかたはらに眠らばや」


 歌をうたうように唱えている、呪文の果てにハリの左の手の平に魔力が集中していた。

 水が流れる音。雨上がりで少し水量が多くなった小川が奏でる音色にとてもよく似ている。

 魔力が集まる。「水」に類似したエネルギーの集合体。

 それはさながら優秀で有料かつ先駆者である魔法使いの少年が作りだす水魔法のような美しさを、実にうまい具合に模していた。


「はあっ!!!」


 気合の一声、ハリは「水」の弾、単純な魔力の弾頭を皮膚の鎌を持つ男性に叩き付けていた。


 魔力の塊、乱暴で粗雑な拘束の術を食らってしまった。


「ガボバッ?!」


 顔面をすっぽりと覆い尽くす「水」に、男性は呼吸機能その他活動や目的に必要な能力、主に呼吸機能やその辺りの基本スキルを大きく阻害されていた。


「ガボッ!   ガボボボボボッ!   ガボバッ!!」


 男性はとても苦しそうである。

 あのままずっと魔法に捕らわれ続けていれば、あるいはそのまま無力化……ないし殺害することが可能なのではなかろうか?


「魔法で人は殺せないのですよ」


 まるで俺の思考を先読みしたかのような、そんなハリの言葉。

 しかしそれはあくまでも思いこみに過ぎない。

 ハリは俺を含めた他人の全て、他の誰にも向けた訳では無い、自分だけの言葉を舌の上に紡いでいる。


「魔術にもほぼ同様。魔力はこの世界の人間を殺すために作りだされたものではないのです?」


 作りだされた、とは言うが、魔力なんて生まれてからずっと体のなかにあるものでしかない。

 言うならばたんぱく質やらアミノ酸やら、脂質糖質、ビタミンC的な要素に近いモノ。

 栄養素、エネルギーのようなものであるはず。


 少なくとも、俺の記憶が正しければの話だが。

読んでくださり、ありがとうございました。

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