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未成年の無免許運転は危険です

こんにちは。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 向こうはいよいよ戦闘の場面へと回復せんとしていた。

 荒い呼吸の気配、皮膚色の鎌を持った七三分けの男性が再び敵に、すなわち魔法使いであるハリに襲いかからんとしている。


 ここにいてはいけない。ハリは光のようにはやい速度で状況の優先順位を変更させている。

 左手に構える刀、ハリにとっての魔法の武器である一振り、その切っ先を再び皮膚色の鎌へと固定させる。

 鎌が真っ直ぐこちらに向かう。

 バスの前方、ハリは人々に危害が向かわないよう自信を鎌のいる方角、つまりはバスの後方に向けて駆け出している。


 互いが互いの攻撃可能範囲へと距離を詰めていく。

 武器の大きさを考慮の要素の一つとして、先に攻撃意識を増幅させたのは皮膚色の鎌の方だった。

 男性が右向きに鎌を大きく薙ぐ。一閃がハリの首を刎ねようと試みを起こす。

 しかし上手くいかなかった。ハリは刀を使って攻撃の方向性を変更させていた。

 張りつめていた弓の弦がはねるように、鎌の一閃が勢いを狙いの範疇外へと反らされている。


 隙がうまれた。ハリはそれを見逃さない。

 刀を自らの首に合わせて水平に、切っ先を男性の目に向かわせている。今度は右目ではなく左目を狙っている。


 大事な視覚器官であり、人体の基準における急所の一つを狙われそうになった。

 男性は視界を奪われてはなるものかと、自らの体を後方に大きく下げさせている。


 再び大きな空白が男性と魔法使いのあいだに発生した。


「ほうほう、これは見ものじゃのう」


 剣舞を観ていた、ミッタはいつの間にか俺の左側にフワフワと浮遊している。


「感動している場合かよ」


 状況に見合わず嬉々としている幼女に、俺は呆れのような感情を抱いていた。


「これを興奮せずとして、一体何に肉の悦びをおぼえるんじゃ?」


 ミッタはむしろ俺の方こそ異常な存在であるかのような、そんなメロディーを使って語りかけている。


「して、おぬしはこの後どうするつもりなんじゃ?」


 戦闘の場面を子細に観察する能力。

 そして情報を端的ではありながら、俺の意識に伝達させるほどの融通さを備えてはいる。

 なのだが、しかし人命を(おもんぱか)るための要領は持ち合わせいないらしかった。


「なんと! まさかおぬし……この金属の塊を()るつもりなのか?」


 ミッタはまるで昼間の空に青い流れ星でも見つけてしまったかのような、ある種の不吉さをこめて俺のことを眺めている。


「バスが墜落したら……全部だめになるだろ?」


 他の人々のこと、バスの乗客、スマホを持ったデブやノートパソコンにくぎ付けの若い女について考えている。

 考えたこと、それだけを事を怪物である幼女に伝える。


「なるほど!」


 ミッタはすぐに納得をしていた。


「戦いの舞台が安定せずとして、剣劇の終わりを美しく迎えることなど不可能。ということじゃな?」


 違う。

 そう言いたかったが、しかし前方に車両、おそらくこの灰笛(はいふえ)に暮らす「普通」の人間が運転する車が目の前に差し迫っていた。


 迷っている場合ではない。ましてや人喰い怪物である幼女約一名を論破する余分など残されていなかった。

 俺は息を短く深く吸い込み、ハンドルを握りしめて舵を大きく左にかたむける。


 その瞬間、不思議なことが起こった。

 まるでフラッシュ暗算の最高難関問題のように、様々な情報が眼球の奥、脳みそに直接的に明滅していた。


 なかば本能に近い領域にて、俺は雨が降る前の曇り空に似た静けさで目の前の車を回避していた。


「なんで、何でなんだ?」


 ハンドルを握りしめつつ、俺は片方の足だけでアクセルだけを踏み締める。

 当然の事ながらバスが速度を上げる。

 生まれてこのかた車の運転などしたこともない、もう何が何だか分からなかった。

 ただひたすらに、目のまえの障害物をよけるだけの動作が指先を動かしている。

 そしてその行為は、まだ激突事故を起こしていないという瞬間、秒針の刻一刻の歩みの先に確信へと変わっていった。


 車の運転が完璧に出来ている、という訳では無いにしても、人が死なない程度の操縦スキルが身についている?


 俺の疑問を置いてけぼりにしたまま。

 そのままで、そんな事よりもとミッタは続けて剣舞の状況、戦いの情報をその身に蓄積し続けていた。

 

 情報の明滅の中に、魔法使いと男性の戦いの動作が加えられる。不思議と不快感は無かった。  

 少なくともスマホデブに触られた時よりかは、よっぽどリラクゼーション効果のあるもののように感じられる。


 場面転換…………。


 途端、銀色の光が火花を放っている。

 ハリが刀を使って皮膚の色を持つ巨大な鎌の一閃を弾いていた。


 もう何度目かも分からない攻防戦の果て、やはり次に行動を起こしているのは皮膚の鎌を持った七三分けの男性の方だった。


「わああーあああーー、、、あー!!!!」


 男性は叫び声をあげながら鎌を左に降る。

 額にはじっとりとした脂汗、バス内の空調が水分を覚まして男性から体温を奪っていく。


 雑に降った攻撃はバスのガラス、側面に大きな断絶を発生させていた。

 創傷のような断絶から、外界の空気が激しく乱入してきていた。

読んでくださり、ありがとうございました。

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