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灰の粒 私たちの太陽 

こんにちは、テレビをみて思い付いた小説です。

 仕事場の屋上、青空が広がる。

青空のしたにも科学があって、ついでに魔法や魔術がある世界、社会などなど。

 そんな場所に悩める二匹の魔物族の若者たち。

「ねぇ知ってる? イソノ・サザエって24歳らしいよ」

「サザエさんはイソノじゃなくてフグタだろ」

 うさ耳の青年は仕事の合間、会社の休憩室でゴブリンの同僚と雑談を交わしていた。

「次の納期まで間に合うか、これ……」

 ゴブリンの彼は紫煙を吐き出し、疲労感に溢れる手の平をぢっとみた。

 某タクボクな詩人とは異なり、ゴブリンのアニメーターは常にベストを尽くしに尽くし、燃え尽きるほどに仕事をしまくっている。

「泣けてくるよな」

 ゴブリンはうさ耳に愚痴る。

「俺たち三流アニメーターがいくら頑張って作画、作画、作画しても、入ってくる金は雀の涙」

 ゴブリンは鉛筆汚れを防ぐ手袋の下、薄く淡い黄緑の肌に漂う辛苦を嘆く。

「それこそイソノ家の長女は俺たちよりも若い内に旦那とセックスしてタラ坊をこさえているんだからよ」

「コーニ君、二次元に嫉妬するなんて君らしくないよ?」

「お前のクソくだらねえ話題に付き合ってやったんだよ、察しろよクソラビット」

 いまいち話のリズムが合わない。

 しかしゴブリンはうさ耳の会話能力具合について、既にいくらか諦めているようだった。

 人間としては大嫌い。

 だがアニメーターとして、クリエイターとして、共に仕事と言う名の戰場を駆け抜ける同士としては、どうしようもなく信用できてしまえる。

「なんだか、宇宙船を待ちわびる地球人のような気分だよね」

 またどんな風に話が跳ぶのか、うさ耳の彼の話題は発情期の野うさぎの後ろ足のように忙しい。

「サザエさんは弟を追いかけて宇宙船に乗り込んで、時間の法則から外れた暗闇に回り続ける。

 地球に残ったぼくと言えば、独り寂しく星と世界と時間のルールを守って、守り続けて、あっという間にしわくちゃのお爺さんになって、無縁仏に放り込まれてさようなら」

 一呼吸、うさ耳は缶コーヒーを一口啜る。

 また唇を動かす。

「ぼくが墓になって土になって、緑のフカフカとした苔になっても、彼女は永遠に24歳のままで居続けるんですよ」

 そこでうさ耳の話は一区切りであるらしかった。

 ゴブリンは、少しとがっている耳の裏側を掻きながら、わずか考える。

「あー……っと、うん。全体的にSFチックな世界観だな」

 いま取りかかっている仕事が汎用普遍的なろうファンタジーアニメである弊害か。あるいはただ単に仕事と言う社会人の呪いに肉体、主に脳神経が耐えられなくなってきたのか。

 ゴブリンはそこはかとなくうさ耳の彼の現実逃避に同情したくなる。同情するだけで、助けようとする程には彼らの間に博愛は存在していない。

 とはいえ、ゴブリン的には話にオチ不足しているような気もする。

 ゴブリンとしての性分を既に知っている、うさ耳は次には意気揚々と話題の続きを紡いでいる。

「そういうわけだから、ぼくはお仕事の合間にこんなことを考えた!」

「仕事の時は仕事の事以外を考えるなよ」

 ブラック企業体質なゴブリン、集団行動を得意とする彼とは異なり、うさ耳は自由奔放極まりない。

「ぼくらは、ぼくたちはその時その時を大切にしなくてはならないのですよ!」

 うさ耳は矢継ぎ早に論を重ねる。

「ぼくたちはぼくたちなりにぼくたちとしての新しいぼくたちの未知をぼくたちのために探すことがぼくたちの……」

「おい! 全体性が急にクソウゼエぞ?」

「そう……ぼくたち、つまりは」

 つまりは、

Our be(アワビ)

 ''私たち''もしくは''ぼくたち''ということ。

「控えめに言って、ゴミだな」

 ゴブリンの彼は天を仰がずにはいられない。

「アワビって名前のキャラ、いそうだよね」

「いねえよ、アワビなんてキャラ。アニメにも原作にもいねえよ。いたとしても……邪な大人の格好の餌食だっつうの」

「ああ、でも某パロディマンガなら……」

「やめんか!」

 常日頃からうさ耳の彼には失望ばかりしているが、今この瞬間、いっそのこと彼の両耳を食いちぎってやりたくなる。それくらいの憎悪さえ抱きつつあった。

 空を見続ける。

 ゴブリンはTOKYOと言う呼び方をする土地、そこの海原を照らす太陽を凝視する。

 眼球が焼かれる気配に涙を滲ませる。

 目蓋を閉じる。赤い血液の色彩に、ゴブリンはうさ耳に対するマイナスな感情を溶かし込もうと試みる。

「うーん、我ながらなかなかいいフレーズだよ」

 友人【うさ耳にとっては】、友達だと思っているつもり。

 うさ耳はゴブリンと同じように、青空を眺める。

「うーん、今日もいい天気だね」

「そーだな、ヘータ」

 日光によるセロトニンか、あるいは原始の時代から続く何かしらの基本的な機能か。

 彼らは太陽に少しだけ癒される。

「そろそろ仕事に戻るか」

 ゴブリンの提案に耳を傾ける。

「太陽については、割りとマジな話だよ」

 うさ耳は、友人の顔をじっと見る。

「ぼくの心にはいつだって、どんな暗闇も乗り越える太陽みたいな光がある。

 例えいつか死ぬとしても、光輝いていた事実は消えない」

 うさ耳は笑う。

Our be sun(アワビさん)だよ」

 私たちの太陽。

「くだらねえな」

 ゴブリンの彼は煙草の火を消す。

 休憩時間はもう終わり。

「っつうか、アワビさんって誰だよ、勝手に新キャラ作んなっての」

 少しだけ、ほんの少しだけ、消ゴムですぐに消せる線ほどに淡く、面白いな、と思ったのは彼だけの秘密であった。

読んでくださり、ありがとうございました。

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