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無駄に多いなにかを一気に追い払いたかったんだよ

こんにちは。毎日更新、今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「げほっ! げほげほげほっ!! げほっごほっ!」


 止まらない咳に戸惑い、窓を開けるキンシはオーギに向けて非難の視線を送っている。

 

 耳の先端。

 黒色の体毛に包まれた子猫のような聴覚器官に飛び交う小虫らしき極最少の怪物を、耳のシピピピ……とした痙攣で追い払っている。


「防虫剤をまくなら、せめて事前になにか予告か警告のひとつやふたつ教えてくださいよ……」


 キンシは涙ぐみながらトゥーイの方に指示を出している。


「トゥーイさん、そっちの窓も開けてしまいましょう、念のため……」


 トゥーイが命令通りに窓を開けている。

 それを確認しながら、キンシはオーギに対して文句をぼやいている。


「やり方が乱暴なんですよ……。花虫(はなむし)一匹にどんな本気を出しているんですか……」


「何を甘いこと言っとるん」


 オーギが呆れた様子で、事務机の上からキンシに反論をしている。


「事務所にカチコミいれられたんやで? 隅から隅まで徹底的に、天井の裏まであぶり出さなイカンやろうが」


 そう主張している、オーギの右手には逃げたばかりの小さな人喰い怪物がの姿が握りしめられていた。

 花虫(はなむし)と呼称される小型の怪物は、他の対象を監視するための魔術式をその肉体に、「何者」かの手によって人工的に組み込まれているのであった。


「それで? この虫野郎はどこのだれの差し金なんだ?」


 オーギが事務所の後輩たちに問いかけている。

 

「……っつっても、こんな邪道なことをするんは、あいつらに決まりきっているんだけどな」


 オーギがちらりとメイの方に視線を向けている。


 他人からの視線、思いやりを込めた感情の形をメイは白色の羽毛の先端に感じ取っている。


「ねえ、オーギさん」


 相手の考慮を受け取りながら、しかしてメイはあえて話題をちがう方向に進ませたいという欲求に駆られていた。


「防虫剤をまいたのはいいのだけれど……」


「ああ」オーギは右手に虫を、左の手で事務机の引き出しのひとつを開けている。


 メイは事務所の先輩魔法使いに確認をする。


「こんな室内で、それもお仕事の場所で、あんな煙をたっぷりまきちらして良いものなのかしら?」


 その辺の事情について、解答を要しているのは魔法の持ち主であるオーギとは別の声音であった。


「そこは大丈夫なのですよ、メイお嬢さん」


 事務所の窓を全開にしている、キンシが使用されたばかりの魔法についての説明を行っていた。


「こちらの魔法は対象を魔力生物にだけ攻撃力や毒性を限定しているのですよ」


「と、言うことはつまり」メイがキンシの言葉の続きを催促している。


「そうなのです! つまり実質ダメージを受けているのは花虫(はなむし)と……──」


「……私たち、人間だけってことね」


「そういうこった」


 オーギは引き出しから深緑色のゴム製の板を取り出している。

 ホワイトの枠線が細かく引かれているそれは、学校などで使用される工作マットによく似ていた。


「いくらオレみたいなサイコーにクレイジーな魔法使いでも、事務所の備品を殺虫剤まみれにすることなんて恐れ多くてできやしねェ」


「そう、なのかしら?」


 むしろオーギは、魔法使いにしてみればかなり常識的な思考を有しているのではなかろうか?

 メイはそう疑問に思ったが、しかしいまはあえてそれを疑問の題材にすることをしなかった。


「でも、そのせいでいま、大変なことになっているのだけれど」


 メイは毛先に付着している花虫(はなむし)を首の動きで振りはらおうとしている。


「監視用の虫さんいがいにも、事務所にかくれていたほかの虫さんまであぶりだしちゃっているもの」


「そりゃそうだ」


 オーギは自身の魔法の完成度に自画自賛を贈っている。


「ホントなら年末の大掃除用の殺虫剤だからな、並大抵の虫ならあっというまにイチコロよ」


 今回は特別であると、オーギは念を押すようにしている。


「さて、今回の不届きモンについて、じっくりしっかり調べさせてもらうぜェ?」


 オーギは机の上に置いた工作版の上に黒色の花虫を乗せている、


 命の危機のみならず、個人的な情報のあれやこれやの危険がせまっている。

 だというのに、花虫の動きはどこまでも緩慢なものでしかなかった。


「なんかにアレに似とるな……」


 オーギは小型の怪物の姿に記憶を検索している。


「ほら、カマキリの腹ン中に寄生する……。

 あ! そうだ、アレだ、ハリガネムシだ」


 オーギが選んだ表現方法にキンシがぱああっ! と瞳を輝かせていた。


「おお! なんというご明察! まさしくですね……」


 かくかくしかじか。

 キンシはハリガネムシを模した怪物が寄生していた対象についてを語っている。


「……となると、ウチの使う検索用ネットワークに引っかかったのが、その馬鹿でかいカマキリの怪物だったってことか」


 オーギはそう言いながら、手の中で暴れているハリガネムシのような姿の怪物に向けてアイスピックのブレードを狙い定めている。


「そんだけ派手に暴れとったなら、もしかすると古城の魔術師を狙った犯行だったかもな」


「ああ、そう言えば」


 オーギの予想の上にツナヲが情報を積み重ねている。


「オレが乗っていた移動一人用魔術式も、行き先は古城だったな」


 キンシは頭の中に煙草の空き箱のような形をした飛行魔術式の事を思い出していた。


「じゃあアレか……人喰い怪物を媒介として、古城に監視用の虫を送り込む予定だったか……」


 オーギの組み立てる予定にキンシが疑問を抱く。


「それって、方法としてはかなり不安定すぎませんか?」


 だとしたら。

 次にオーギが予想を語る。

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