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長いCМを意味もなく眺めていたいのです

こんにちは。今日の更新です、ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 クンクン、クンクン、クンクン。

 トゥーイの鼻腔がオーギの手の中にある道具、アイスピックのブレードに関心を示している。


「どうしたの? トゥ」


 トゥーイの様子にメイが違和感と共に質問をしている。


「あのアイスピック? みたいな、なにかが気になるのね」


「そりゃあ、そうだろ」


 白色の魔女に返答をしているのは、アイスピックを右手に握りしめているオーギの声であった。


「これはただの、「普通」のアイスピックとは違う、()()()のアイスピック……。

 ……つうか、「アイス」ピックって言い方をするべきなのか、そのへんから怪しい感じだよな」


 オーギが言葉をかんがえ、思いついた色々から的確なものを速やかに選び終えている。


「これは「ジェムピック」。よーするに、宝石を削り出すための削岩道具だ」


 オーギが器用に小さな削岩道具を、ペン回しの要領でクルクルと回転させている。


「こいつを一突き!」


 コシュルンッ! 硬いモノが割れ、衝撃が存在の結合を断絶させる音色。

 編み針のように解く鋭い要素だけで、ルビーの鉱物に類似した塊が割れてしまっていた。


「まあ、すごいわね」


 メイが驚きを口にしている。

 

「スイカほどの大きさの石が、そんなちいさな針でまっぷたつ!」


 感動さえ覚えているようで、メイはパフパフと白色の羽毛に包まれた両手を叩いて静かにならしている。

 白色の魔女の拍手の音色の中、オーギの机の上にいくつかの音色が重なり合っていた。


 こつん。落ちる音。

 ころころころ。転がる音。


 ルビーの塊のような魔力鉱物の中身から、一本の黒い万年筆が転げ落ちていた。

 オーギの事務机の上を転がり、そして床へと落下する。


 と同時に、割れた魔力鉱物のかけらが万年筆の表面に付着していた。


「おっと、危ない」


 キンシがすかさず身を滑り込ませている。

 排球(バレーボール)のスライディングレシーブのような要領にて、キンシは机の上から落下する万年筆を素早く掴み取っていた。


 指の先、左手。

 呪いの火傷痕が色濃く残る肉体の一部と、魔法少女が保有する魔法の武器が触れ合っている。


 瞬間、包丁でリンゴの皮を剥いたときの、瑞々しく甘い香りが魔法使いの少女の指先を包み込む。

 

「…………クンクン」


 匂いに敏感に気付いているのはトゥーイの鼻腔だった。

 もしかすると道具に直に触れている魔法少女本人以上に、魔法使いの青年は少女の匂いに敏感であるのかもしれなかった。


 黒色の万年筆。

 「ナナキ・キンシ」という名前を持つ魔法使いにとっての魔法の武器のひとつ。

 それらが本来の存在意義を取り戻した、工程の果てに中身に籠められていた「秘密」が表へと馳せ参じようとしていた。


 万年筆の蓋の部分、本来ならばインクを溜めておくべき場所。

 その部分が自動的に開いていた。


 蓋が外れ、インクを貯蔵する部分とペン先の短い部分だけが残る。

 貯蔵されているのは黒色のインク……ではなく、別の「何か」であった。


 中身がペンの外に出ようとして、小さく細い貯蔵庫のなかで蠢いている。


「うげ、なんだこれ」


 中身がまだ完全にあらわになっていない。

 不明瞭な存在に対して、オーギが反射的に不快感を呟いている。


「……いや、だが、もしかして……?」


 しかし感情は一時にすぎない。

 オーギはすぐに濃い茶色の瞳の中にて、目のまえの事象に対する関心を膨らませていた。


「おお、さすがオーギさんです、すでにいくらかお気づきのようですね……!」


 キンシが事務所の先輩魔法使いの察しの良さに強く関心と尊敬を向けている。

 

 しかしながら当のオーギの方は、今は他人からの称賛を求めている訳では無いようだった。


「監視用の、花虫(はなむし)を改造した魔力生物か?」


 オーギが花虫(はなむし)と呼ばれる、この世界に存在する魔力を基本とした生物の名称を口にしている。


「いったいどこでこんなもん……──」


 オーギがすべてを言い終えるよりも先に、万年筆の中身から黒色の花虫が飛び出てきてしまっていた。


 シュルンッ!

 空気を切り裂く存在が事務所の空間を素早く、激しく移動していた。


「きゃあ!」


 頬を掠める存在にメイが悲鳴を上げている。

 雪のような白色の髪の毛が風圧でふんわりと浮かび上がっている。


「メイお嬢さん!」


 第一に白色の魔女の身の安全を確保しようと、キンシが這いつくばるように彼女の体を腕で包み込んでいる。


「うわッ、こりゃあヤベェぞ……!」


 事務所の内部にて潜んでしまった魔力生物に、オーギが早くも状況の厄介さを把握していた。


「早めに処理しねェと」


「どうなるのかしら?」キンシの腕の中でメイがオーギに問いかけている。


「よー分からへんけど──」オーギは考えられるパターンを予想してみる。「監視用のやつやから、ウチの事務所の他にはバレらいかんあれやこれやが怪しい奴らに筒抜けに」


「たいへんだわ!」


 個人情報をもっとも大切なものに分類する魔女としては、その事態は苦痛にも等しい劣勢である。


「そう言うこった」


 オーギは事務椅子から立ち上がり、それはもう、実に億劫そうに右の腕を空間の中にかざしていた。

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