リアリティがないですけれども
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「それはもちろん! 僕が先代の「ナナキ・キンシ」から受け継いだとても素晴らしい魔力回路のおかげなのですよ」
キンシが謎に自信に満ちあふれた様子で胸を張っている。
成人した男性の手の平でならすっぽり覆い尽くせるカップサイズ。
赤ん坊が食むにはあまりにも心許ない、色素の足りない乳首は安物のスポーツブラで凸を押しつぶして隠している。
「あら、魔力って遺伝するものなの?」
メイはすこし意外そうに驚いて、椿の花弁のような紅色の瞳をほんのり大きく見開いている。
「でも、あなたたち魔法使いは自分でしか、自分の手でしか魔法を作れないじゃない」
メイは考察を深める。
「魔術はいちど方法さえカクリツさせてしまえば、あとは記録さえ残せばだれでも使うことができる。
……でも、魔法はちがうと思うのだけれど」
メイは自分のなかに累積している知識を検索している。
「魔法はもっと抽象的なもの。アバウトで曖昧。
小説、音楽、マンガ、イラストレーション。個人の手によって作られる創作こそ、魔法の根源であるはずよ」
「んるる……その言い方は、残念ながらあまり正しいとは言えそうに無いのです」
キンシは思いを巡らせながら、指先は先輩魔法使いの事務机の上にある魔力鉱物に触れている。
さわった、素手で触れているキンシの指は、しかしながら先輩魔法使いのような凶事に見舞われることは無かった。
少しだけ電気が流れたような、もわっとした気配だけが通り過ぎる。
しかしそれだけであった。
電流も衝撃も走ることなく、キンシの肉体は魔力鉱物に含まれている要素に上手く対応をしているようだった。
「魔法と言うもの、概念、方法にて最も大切とされるのは、他人の目なんですよ」
キンシが魔法について語る。
「この世界にいる誰か、他の誰かが、「魔法が使える」ということを信じる、見る、聞いたり聴いたり、食べたり触ったり、嗅いだりすることで、魔法は初めてその存在をこの世界に確信することができるのです」
「なんだか、哲学的なお話に、なってきたわね」
魔法使いの少女と白色の魔女がうなずき合っている。
「小難しい話はまた後で、な」
議論や話題は尽きない。
オーギはこのままではいけないと、強引に話題を中断させようとしている。
「このまま好きに井戸端会議させとったら、流行のファッションから今日の献立まで語り尽くすはめになるっつうの」
「いやですね、オーギ先輩」
キンシがすかさず反論をしている。
「いくらなんでも、僕らでも明日の献立の話はしませんよ。こんばんの献立の話ならするつもりでしたが。
あ! ところで、オーギさんは今日は何を召し上がるんですか?」
「要するにキー坊には先代が培った分の魔力回路があるんだよ」
オーギはキンシのことを無視することにしていた。
「こいつの親父さんは、あー……なんつうの? インターネット上でそこそこに有名だった、いわゆるweb作家ってやつでな」
「ほうほう?」
ツナヲが興味を示したように、兎のような聴覚器官をピクリ、と動かす。
蜜柑色の柔らかな体毛に包まれた長い耳の毛先が、空気の流れに会わせて揺れている。
「興味深いね、キンシ君の持つ魔力回路を見たところ、かなりの実力者であったことがうかがえる」
「ああ、そうだな」
オーギが懐かしそうに少し遠くを、ここでは無い何処か、ここにはいない誰かについて思いを馳せている。
「オレにとっての大切な先輩だったよ……まだペーペークソ新人魔法使いだったオレのことを、叱られてばっかだったオレのことを優しく指導してくれたもんだ」
「へえ、そんなつながりがあったのね」
メイが新しい情報に興味を抱いている。
ともあれ、オーギはキンシの手の中にある新鮮な魔力鉱物を受け取ろうとしている。
「なんにせよ、この魔力主義社会になってもなお、いわゆる所の「親ガチャ」的な? 繋がりは切っても切れねェもんなんだよ」
「が、ガチャ……?」
昨今の若者文化にうといメイが戸惑っている。
「そうだよねえ」
それに対して、ツナヲの方は柔軟なる理解力を示していた。
「一連で一発、石をほとんど消費せずにほぼ無課金で星5、SSRを引き当てたらそりゃあもうあとのライフはチートレベルのイージーモードだよ」
「ツナヲさん?! おねがい、私にもわかる言語でお話してちょうだい!」
閑話休題。
それはそれとして、問題は魔力鉱物に取りこまれたキンシの万年筆について、である。
「その辺については、もうほとんど解決済みだけどな」
オーギは慣れた動作で事務机の引き出しから道具を取り出している。
道具やら書類やら、そのた雑雑、細々とした何かしらに満載されている引き出しの中。
しかしながら不思議と整理、整合性の取れている中身。
そこから取り出されたのは一振りのアイスピック、のように見えるなにかしらの道具であった。
木製の持ち手は綺麗に磨かれ、新品さながらの清潔さを保っている。
鋭いブレードは鈍い銀利をを放っている。
「…………くん」
トゥーイの鼻腔が、アイスピックのブレードに混ぜ込まれている特別な要素に気付いていた。




