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物忘れがひどい子猫ちゃん

こんにちは。今日の更新です、ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 魔法使いの少女の愛情、あるいは恋慕のようなもの。それらを約束、確約、確立させるのは自分自身であると、このトゥーイと言う名前の青年魔法使いは信じていた。


 だからこそ、キンシが一身に尊敬の念を込めているツナヲに嫉妬をおぼえているのであった。


「トゥーイさん……」


 今度はキンシが呆れをおぼえる番だった。

 依然として降ろしてくれない自分の体の不自由さを嘆くように、キンシは左の指先でトゥーイのあごをコツン、と小突いている。


「だめですよ、トゥーイさん。他人をそんなふうに睨むものではありませんよ」


「…………」


 しかしトゥーイはキンシの言うことを聞かない。

 嫉妬と羨望の念を籠めながら、青年は老人のことを見続けている。


「トゥーイさん」


 やがて諦めたかのように、キンシは強行を選ぶことにしていた。


「えいっ!」


 手刀を作り、柔らかな切っ先をトゥーイの首と顎の境い目に刺突させている。


「…うぐッ!………?」


 肉体の柔らかいところ、通常の生活においてあまり他人に触れられることない部分。

 そこに魔法使いの少女の、冷奴(ひややっこ)のようにひんやりとした指先が接触していた。


 トゥーイはたまらず両腕の拘束力を弱め、緩めている。

 相手の油断を一片も見逃すことなく、キンシは自らの体を青年の範囲外へと滑り出していた。


 そして華麗に着地!

 ……と、いきたいところだが、現実はそう上手くはいかなかった。


「うわ」


 それまで頼りきりだった支えを失った体の重心は、寄るべく視点を見つけられないままで、ただ重力に従ったまま落下をするばかりだった。


 べちゃり。

 わらび餅が地面に落ちるような音、キンシの体は魔法使い事務所の硬い床の上に転げ落ちていた。


「あーあー」


 オーギが一連の動作、事務所の後輩魔法使いたちの様子を眺めていた。


「何してんだよ、お前ら」


 呆れた様子で、書類がたっぷりと載っている事務机に頬杖をついている。


「いやあ、失敬失敬、です」


 キンシは恥ずかしそうにしている、と同時に、自由を確保できた単純な喜びを右目の瞳にちらつかせている。


「なにはともあれ、とにもかくにも、オーギさんにぜひお見せしなくてはならないものがございまして……」


 キンシは行動理由を語りながら、左の指先で上着の左ポケットをまさぐっている。


「……」


 しばらくの検索のあと。


「んる? んるるるる……?」


 何時まで経っても、どこを探しても目的の道具が見つからないことに違和感を覚え始めている。


「あれ、あれれ? 僕の万年筆がありません!」


 キンシがあわてた様子で視線を右に、左にさまよわせている。


「あ! そう言えば! 怪物の眼球に飲み込まれて、それで黒い体液がドバドバドバ! そのまま懸賞金もなく行方不明なんですよ! オーギさん」


「うん、全ッ然意味が分かんねえよ」


 オーギは呼吸のついでに「あとオーギ「先輩」、な」とお決まりの指摘。

 そしてその後に、ある程度の目途を後輩である魔法少女に伝えている。


「もしかして、この石の塊ん中に挟まっとるヤツのことか?」


 そう言いながら、オーギは机の上に置かれていた魔力鉱物のひと塊に触れようとした。

 しかし彼の手が接触する前に、魔力鉱物から何かしらの不思議な反応が現れている。


 ぱァん!

 ハリセンで頭を叩いたかのような音色がオーギの指先から発せられる。


「痛ッてェ!!!」オーギが叫ぶ。


「きゃあ?!」メイがおどろいて悲鳴を上げていた。


「ッ(つう)ー……くっそー油断しとったわ」


 いったい何が起きたのだろう、メイが不安そうにしていると、起きたばかりの現象の事情をツナヲが魔女に説明していた。


「質の高い魔力鉱物って言うのは、その存在、それだけである種の毒性を持っているものなんだよ」


「ゆーても、そうそうヤベェ事にならんと思うけどな」


 オーギは少しだけ額の辺りに汗をにじませつつ、ダメージを受けた右の手の平をヒラヒラと空中にひらめかせている。


「あれやって、熱湯に指を入れちまったかんじ? 火傷みたいになるんだよ」


「火傷だって、あまりばかにできないと思うのだけれど……」


 メイが不安がっている。

 それはそれとして、オーギは気を取りなおして魔力鉱物に触れるための簡単な準備を済まそうとしている。


「これを着けなあかんのよ」


 トイレ掃除に丁度良さそうな手袋。

 ゴム製に見えるそれは、しかしながらただの、「普通」のゴム手袋ではないことが強く予想される。


「魔力鉱物混交ゴム手袋だ」


 両手にピンクの手袋を装着した、オーギは今度こそ魔力鉱物の塊を両の手で掴み取っている。


「……」


 さすがに痛覚に直接訴えかけられたのである、オーギは珍しく緊張の面持ちを見せていた。

 一時触れて、無事であることをすぐに自覚する。


「よし、これでまともに触れるな」


「よかったわ」


 メイはほっと胸をなでおろす。


 と、ふと白色の魔女は疑問を抱いている。


「あら? でも……それなら、どうしてキンシちゃんやトゥ、ツナヲさんは平気でさわれたのかしら?」


 それについても、キンシは意気揚々とした様子で受け答えをしている。

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