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あなたが愛してくれないのならぼくは生きている意味はないな

こんにちは。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 どういうことなのだろうか? メイは若き魔法使いたちが互いに納得し合っているのを、戸惑いのなかでクルクルと見比べることしか出来ないでいる。


「ご存じないのですか? メイお嬢さん」


 キンシがメイのことを、珍しく異様なものを見るかのようにしている。


「「すは一大事」先生と言ったら、私小説の第一人者、数々の名作を著した一流の小説家なのですよ!!」


 キンシが力説をしている。口の中が乾燥していなければ、つばの一つや二つ、メイに向けて飛ばしまくっていたに違いない。


「あら」


 しかしながら、メイはどうにも目のまえにいる、トゥーイの腕の仲に抱えられたままの魔法少女の興奮具合を理解、把握することができないでいた。


「ツナヲさんは小説家なのね、ステキ、すごいわねえ」


「いやいや、それほどでも」


 メイがあっさりと状況を受け入れている。

 白色の魔女の対応を、キンシはいよいよ受け入れざるものとして扱おうとしていた。


「すごいってものじゃないのでございますよ! 

 ミシマ・ユキオ大賞を史上最初、かつ最年少で受賞し文壇へ華々しくデビュー。そののち、あの「アクタガワ賞」をこれまた史上最年少で受賞。その後もヒット作を何十発も連発、メディアミックスはドラマから映画、一から十まですべて総なめしている。

 超絶怒涛の一流小説家なのですよ!!」


 ここまでキンシはほとんど息継ぎをすることなく語り続けていた。

 限界まで酸素を消費したのち、「んぐる」と呻き声を発しながら脱力してしまっている。


「んぐるるる……め、めめ、眩暈(めまい)が……」


「ああ、ほらほら」ツナヲが困ったように笑いかけている「魔力切れでそんなに興奮したら、今度こそ頭の欠陥が破裂しちゃうぜ?」


「んるるー!」


 キンシはいよいよ舞いあがり、喜びの形はもはやトゥーイの腕の中に収まりきらない程になってるようだった。


「どうしましょう、どうしましょう!? すは一大事先生に心配されてしまいました!」


 もうどうしようもない、この興奮を冷ますには時間の経過という質量が一番効果的なのだろう。

 メイは早々に諦めをつけて、気を取りなおしつつ、視線をツナヲの方に向けている。


「ところで、どうしてそんな、あなたみたいな人が、あんなところで怪物さんにおそわれていたのかしら?」


 煙草の箱のような飛行魔術式ごと、恐ろしき人喰い怪物に捕食されそうになっていた。


 老人たちを食べようとしていた、人喰い怪物はいまや憐れ、オーギの事務机の上で静かに転がる魔力鉱物へと成り果てていた。


「いや、ね、ちょっと考えごとをしとったんだよ」


 ツナヲが少し恥ずかしそうにしている。

 過去のこと、過ぎ去った時間の事を思い出そうとしている。


「あ!」


 またしてもキンシが大声を発している。


「あー? 今度は何だよ……」


 語り始める前からオーギはすでにキンシに対して呆れたような視線を送っている。


「今度はちゃんとした、いたって業務的な内容なのでございますよ、オーギ先輩」


 キンシはそう言うや否や、体をトゥーイの腕の中でもぞもぞと蠢かせている。


「オーギさんにぜひともご相談しなくてはならないことがあるのですよ」


 オーギが関心と共に、後輩魔法使いの行動を待ち構えている。

 先輩魔法使いの視線のもと、キンシは持参した「品物」を彼に提示しようとする。


 彼に見せる。そのためには青年のあたたかな腕の中から這い出る必要性があった。


「よいしょ」

 

 動こうとした。だが上手くいかなかった。


「んるえ?」


 体が自由に動かないのをキンシが不審がっていた。

 自らの肉体を拘束している存在がある、そしてそれは他でもないトゥーイの両腕だった。


「トゥーイさん?」


 キンシがなめらかな発音でトゥーイに、まずは提案をしている。


「離してください、僕はもう大丈夫ですよ」


 依然として魔力は枯渇しているが、しかして体力が完全に損失した訳では無く、ましてや精神力は爆発的に増幅したばかりなのである。


 要するに立って、事務所の中を歩く程度なら、なんら問題はない。


 そういう訳なのであって、キンシはトゥーイの腕から降りようとしている。


 のだが、しかし。


「トゥーイさん、トゥーイさん? 離してくださいよ」


 キンシが呼び掛けているのに対して、トゥーイは無言のなかでただ無反応のような態度ばかり見せていた。


 違和感を覚えるキンシ。


「トゥーイさん……?」

  

 キンシはトゥーイの目を見ている。

 アメジストのように鮮やかな紫色を持つ、左の瞳が向かう先はどうやらツナヲの様子を映し出しているらしかった。


「…………」


 視線の固定。視線の鋭さは研ぎ澄まされたナイフのような攻撃性を帯びている。

 少しのあいだ観察したのち、キンシは魔法使いの青年が老人のことを睨みつけていることに気付いていた。


「トゥーイさん……他人をそんな目で見るものではありませんよ」


 自分の状況よりも優先して、キンシは青年の攻撃力を諌めようとしている。


 しかしトゥーイの方は老人から視線を移せないでいる。

 目を離せないでいる。のは、青年が老人の魔法使いに強く嫉妬をしているからであった。

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