灰全ては文字の上で丸め包まれます
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「魔術師の名門、トビラ一族と同じ名前を持っていること、まったくの無関係とは言わせないぜ?」
オーギがツナヲに向けて質問をしている。
「聞くところによれば、ウチんとこの後輩魔法使いの手助けをしてくれたと言うが、その理由も込みで色々と、詳しく聞かせてもらいたいところなんだが」
「おやおや、いやだねえ、若い人がそんな疑い深くなるもんじゃないと思うぜ?」
オーギの両目をツナヲは気軽な様子で見つめ返していた。
濃い烏龍茶のような色合いを持つ、オーギの肉体にはあくまでも「普通」の人間の造形しか持ち合わせていない。
「でも、まあ、とりたてて隠すようなことでも無いよ」
若い魔法使いの姿を、ツナヲは少しばかり眩しそうに眺めているのであった。
「ちょっとだけ、実家が結構長い歴史を持っているって。ただそれだけの事だよ、何も特別なことじゃない」
「んるる、そうなんですか」キンシが内容に満足をしようとした。
「いやいやいや……」しかしオーギがそれを認めようとしなかった。
「おいおい、キー坊よ……まさか名門トビラ一族のことを知らねェとはいわせねェぞ?」
オーギが語る。
「トビラ一族っつうのは昔で言う貴族や華族みたいなもので、まあ要するに金持ちで頭が良くて、特権階級持ちの上級国民ってやつだ」
「貴族も華族も、とうの昔に皿の国に解体されたけどね」
「皿の国」と言うのはこの世界にある国家の一つ。五十の州から成る合衆国のこと。世界全体で見てもN型と呼ばれる、肉体になんの胴部的特徴を宿していない型の人間が多く暮らしている。
因みにハンバーガーが美味しい。
話がそれた、気が付けばツナヲは自分の事情を語り終えている。
「色々あって、家を飛び出して心機一転、フリーの魔法使いとしてのんびりやらせてもらっとるんよ」
ツナヲの語る内容にメイが疑問を抱いている。
「フリー。魔法使いにフリーランスなんてガイネンがあるのかしら?」
「ごくごくわずかですが、そう言うのでご飯を食べていける方々も少数いらっしゃるそうですよ?」
白色の魔女の疑問点に答えているのはキンシの声。
……なのだが、しかしながら、どうにも魔法使いの少女の様子がおかしかった。
「……ですが、そのためにはかなりの実力、信頼に値する高品質な魔法を作成できる才能、技量、コネクションが無くてはなりません……」
そこまで想定した所で、キンシはもごもごと言いよどんでいる。
「もしかすると……ツナヲさんはものすごい魔法使いなのでは?」
キンシがツナヲに質問をしようとする。
「あの、あの……」
まるで初恋の人に恋文でも手渡すかのように、キンシは頬を赤らめてもじもじとしている。
「どうしたん? キンシ君」
魔法少女の様子に気付いた、ツナヲが少女のことを不思議そうに見ている。
視線をキンシに合わせようとする。
静かでわずかな動作の中で、老人の頭部に生えている兎のような聴覚器官の蜜柑色をした毛先が細やかに震えていた。
「その、これは僕の勝手な予想なのですが……」
キンシは右と左のまぶたをゆっくりと開閉する。
右目の瞳、春の新緑のように鮮やかな緑色の虹彩がキラキラときらめいた。
「もしかして、ツナヲさんはなにかしらの小説……に類する作品に携わっている方なのでしょうか?」
ツナヲが驚いたように目を見開いた。
「おや」
蜜柑色の瞳、健康そうな両方の目がキンシのことを視認している。
「どうしてそんな風に思ったのかな? キンシ君」
ツナヲに質問をされた。
キンシはどぎまぎと、それでいて自らの抱いた感覚を取りこぼさないように、慎重に言葉を選ぼうとしている。
「指と、匂い……ですかね?」
キンシは右の目でツナヲの右手、中指の膨らみにしばし注目を向けている。
「ペンだこの膨らみ具合、日ごろから文字を書くことに慣れ親しんでいる方の指。
そして、指先からはかすかにインクの匂いがしました。だから……──」
「いや、もういいよ」
魔法少女の語り尽くせない感覚を、ツナヲは他人の視点として中断させていた。
「おおよそ正解だ、さすが「ナナキ・キンシ」を名乗るだけの気概はある」
ツナヲが感心しているのを、オーギがジッと見つめていた。
視線を肌に感じ取りながら、ツナヲは自分についての話を魔法少女に差し向けている。
「確かにオレは、一応ながら文筆業的な色々をやらせてもらっとるよ
えーっとたしか、「すは一大事」って名前……──」
ツナヲは少し考えた後に、自らのペンネームを魔法少女に伝えている。
しかし老人がすべてを言い終えるよりも先に、キンシの体がビックリ仰天! 飛び上がっているのだった。
「うえええええーーー!!!」
キンシの荒馬のごときいななきが事務所内にこだました。
「どうしたのキンシちゃん?!」
メイが白色の羽毛をシュッと縮ませて驚いている。
「いきなりでけぇ声出してんじゃねえよ」
オーギが叱責をするような視線を後輩である魔法使いに向けている。
とは言うものの、オーギの方でも後輩魔法使いの感情の正体に幾らか目途がついているらしかった。
「なるほど、な」
「なにが「なるほど」なの? オーギさん」
状況の不可解さにメイは思わず「先輩」に対する敬称を忘却してしまっている。
しかしオーギの方は、白色の魔女のささいなミスを指摘するほどの余裕を持ち合せていないようだった。




