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ああ火が消えてしまう、悲しいです

こんにちは、今日の更新です。

 リッシェ・メリッファなる女が簡単に種明かしをしている。


「まあ、アレなんだよねー、アタシが勝手にキンシクンの口の中に蜂蜜をねじ込んだだけなんだよねー」


「まさかの押し売りよりも最低な奴が来たよ、これ」


 オーギは呆れを通り越して、ある種の感動めいた感情の動きをリッシェに向けている。


「ウチの所属魔法使いに手ェだした落とし前、キッチリつけてもらえるんだろうな?」


「シッケイなー、アタシはただ魔力切れで電源オフになっちゃったキンシクンを助けたくてー、親切心で最高級の蜂蜜を一口あげただけなのにー」


 リッシェはそう言っているが、しかしながら相手の同意もなく商品を消費させたことには変わりない。


「まあ、そのへんも込みなのは当然なんだけどー」


 リッシェが手のひらを上に、シュピピン! と言う音色を手のうちから奏でている。

 電子的な音色を奏でているのは、リッシェの持つスマートフォンの形であった。


 はちみつ色のカラーリングがほどこされたスマホから立体的な映像が展開されていた。

 ホログラムのような色合いと揺らめきを持つ、それらはどうやらスマートフォンに内蔵された商品のメニューであるらしかった。


「さあ、この中からお好きな商品をー……」


「結構だ」


 オーギがかたくなに断っているのに、リッシェがしつこくまとわりついている。

 広めの襟首からのぞく胸元、二つの肉、乳房の谷間がオーギの視界に入る。


 本能的に視線がそちらに向かうことを、しかしてオーギはとくに悪びれる様子もないようだった。


「まあいいかー、一個売れたし、それにうちの方でもまだ備蓄はあるからねー」


 リッシェはスマートフォンを黒いジャケットのポケットにしまいこんでいる。


「んじゃ、アタシはまだ仕事があるんで、これにてさいならー」


 リッシェは白色の丈の長いフレアスカートをひらめかせ、その場を立ち去ろうとした。

 歩こうとした。

 だが、その寸前でちらりと視線をキンシの方に向けている。


「なんつうかー、キミとはもう一度、……いや、何度もお世話になるような気がするよー」


「ええ、そうですね」


 相手の意向を把握するよりも先に、キンシは彼女が自分と同じ感覚を抱いていることに意外さを表していた。


「じゃあまた、再開を必ず」


「さようなら」


 リッシェがキンシたちの前から去っていった。


「はあ……」オーギがそこそこに深めの溜め息を吐き出している。


「何なん? あの無駄に生命力にあふれた女は」


 オーギはあらためて後輩魔法使いたちのいる方角を見ている。


「キー坊よ、まだ体の調子は戻らねェのか?」


「んるる……申し訳ございません、まだ力が上手く使えないのです」


「謝るこたぁねえよ」


 むしろ謝罪がある方が面倒であると、オーギはあえて全てを説明、追及することをしない。


「しかし、それにしては意外だったな」


 オーギは机に身を寄せながら、周辺に視線をめぐらせている。

 「シマエ魔法使い事務所」はほとんど無人である。


「みなさんいらっしゃいませんね」


 キンシが周辺の静けさに耳をそばだてている。

 

「今日も今日とて、依頼内容がたんまりとあるんだよ」


 オーギはため息交じりに呟いている。


「時間的にはそろそろ、夕方の担当に回りつつあるな」


 オーギの話す内容にそれぞれ反応する耳たち。

 オーディエンスの姿を意識しながら、オーギは今日一日の具合について語っていた。


「今日も今日とて、この灰笛(はいふえ)には悍ましき魑魅魍魎どもがバッコンバッコンに跋扈(ばっこ)して腐ってからに」


「でも、悪いことではないはずよ」


 オーギの愚痴にメイが反論をしようとしている。


「まいにち、まいにち、人喰い怪物さんがここで、灰笛(はいふえ)で暴れてくれる。そのおかげで、あなたたち魔法使いはまいにち、ごはんを食べることができるのだから」


 メイの意見に誰よりもはやく反応をしているのはキンシの毛先であった。


「め、メメ、メイお嬢さん……!」


 よりにもよって、この先輩魔法使いにその話題、正論は禁句なのではなかろうか?


 トゥーイも魔法少女と同じようなことを考えている。

 父親を人喰い怪物に喰われてしまった、それを目の前で見ていた。


「なるほどな」


 オーギはメイに対して、どこかしら異様なほどに穏やかな視線だけを向けていた。


「まあ、そう言う風にもとれるよな」


 若い魔法使いが納得を結び付けようとしている。

 と、そこへ老人の節くれだった指が彼に伸ばされていく。


「今更な質問なんやけど」


 指の持ち主はツナヲであった。


「こちらの若人(わこうど)は? キミたちの上司にあたるのかな?」


 ツナヲが質問をしているのに、返事をしているのはオーギの舌の奥底だった。


「質問に質問で返すところ悪いんだが……。あんた誰だ?」


 当然の質問であった。

 むしろ今の今まで事態を無視できていた、オーギの意識の力の方こそ異常事態に近しいものと言える。


「おっとこりゃあいけない、自己紹介がまだやったね」


 ツナヲが自分の名前をオーギに伝えている。


「トビラ……。トビラって言うと、もしかしてアレか……?」


 オーギが個人の名称について考えようとしている。

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