表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
1174/1412

川の流れのような血液を頂戴

こんにちは。毎日更新、ご覧になってくださりありがとうございます。

 キンシはナイフを握りしめる。

 切っ先を自分に向ける。

 刃の先端がキンシの視界のなか、鋭さを己の肉体に真っ直ぐ固定する。


 ナイフを右と左の両手で握りしめる。

 そしてナイフを自分の目、左目に突き立てていた。


 硬いものが別の硬いモノにぶつかる音が鳴る。

 ナイフの刃先がキンシの義眼を破壊していた。


 赤色の琥珀の破片が飛び散る。かと思えばそれはキンシの血液も含まれているのであった。


「キンシちゃん!」


 メイはキンシの名前を叫んでいる。

 驚愕している。だがメイはキンシの行動に疑問を抱くことはしなかった。


 魔法使いの少女の行動は、白色の魔女にとってすでに見知った内容でしかなかった。


 ナイフに破壊された、琥珀の中身から精霊が解放されている。

 キンシの左目に閉じ込められていた精霊は、縮小された肉体を空間の中に大きく展開させている。


 白翡翠(しろひすい)のような輝き、緑と白が膨れ上がる。

 それはキンシの左目から咲いている、蓮の花のような形を持った精霊の姿であった。


 キンシの左目から、少女の顔よりも大きな蓮の花が咲いている。

 真っ白な花弁に先端はほのかに緑色を帯びている。


 咲いたばかりの花のもつ芳香が空間に舞い、雨の雫に溶けていく。


 甘い匂いがした。

 それらが周辺の人間たちの鼻腔を刺激した。


 かと思った、次の瞬間にはキンシの肉体は花と一緒に溶けていった。


 巨大な糸の塊が解けていくかのように、キンシの体がその実態を瞬く間に曖昧なものにしてしまっている。


 少女の形が崩れ、かと思えば数倍の大きさに膨れ上がっている。


 解かれた糸が再び紡ぎ直される。

 崩れた形が別の意味意味を得た。

 それは一匹の獣の姿を持っていた。


 黒色の毛並みを持つ獣。

 大きな黒猫のような姿。

 黒豹(クロヒョウ)程に精悍(せいかん)で野性味あふれた顔をしている訳では無い。

 イエネコのように丸っこく大きな目を持つ。


 大きめの黒猫、十二歳の少し背の高い少女ほどの大きさを持つ。

 つい先ほどまで魔法少女だった獣、怪しい獣、怪獣が口を開いて呼吸をしている。


 少女だった獣が口を開いている。

 

「ふわーーーふわーーーあ」


 息を吐き出すと同時に声をだしている。

 現状の肉体における呼吸法法に慣れていないのだろう。


 息を吸いこむ。

 背中が大きく膨らんだ、と思ったそれは黒猫の怪獣の背中に生えている二つの翼によるものだった。


 未発達な形の翼、とても空を飛べる機能は期待できそうにない。

 

 不十分な羽をジタバタと羽ばたかせながら、怪獣は地面を四本の足で踏み締めている。


「んぐるるる……!」


 黒猫の怪獣が喉の奥で唸っている。


「んぐるるる……! ぐるるしゃあああ……!」


 威嚇行為をしている、細くて長い尻尾を包む体毛がたわしのように膨張している。

 攻撃の意識を強める。


 黒猫の怪獣を中心として、周辺の空気がその気配を変容させていく。


 しゅるるん、しゅるるん、しゅるるん。

 空気が怪獣を取り巻く。

 雨雲に照らされる、いくつもの細やかな輝きが渦を巻いている。


 キラキラときらめくそれらは、トゥーイの魔法によって砕かれたミツバチの類似品たちの翅のかけらであった。


 羽根のかけらが舞い、黒猫の怪獣の体内、真っ赤な血液に含まれている魔力が活動力を高めている。


「しゃああああん!!!」


 怪獣が威嚇と気勢を込めた鳴き声を発している。


 ビルの屋上を駆けだす、背中の小さな翼を本能的にはばたかせている。

 そのまま空中へと身を投げだし、手頃なところにあった足場……もといリッシェのクラシックカーを激しく蹴っている。


 すでに横転していた車が怪獣の体の重さを受け止め、金属は曲がり、タイヤは無残にも破れて中身の空気が漏れ出ている。


「わー?!」


 愛車を程度の具合が良い足場に使われてしまった。

 リッシェが驚愕と悲鳴の折り重なった叫び声を上げているが、しかし残念ながら怪獣の耳に彼女の声は届いていないようだった。


 黒猫の怪獣は飛び上がり、そして大きく口を開いて牙を剥いている。

 四本の足すべてに緊張感を張り巡らせ、攻撃力に満たしていく。


 鋭い爪が怪物の胴体を掴み、牙は頭蓋骨と背骨のあいだ、おそらくは首の部分にあたるであろう部位を噛んでいる。


 構成する栄養素、要素、素材や存在意義のほとんどが魔力で満たされている。

 科学的根拠から遠く離れた、人外なる怪獣が人喰い怪物の肉に喰らいついていた。


 歯は沈み、肉をかき分けて血管を破る。

 内膜を破る、血液がたっぷりとあふれ出てきていた。


「もしかして……」


 ビルの屋上にて、メイは腕の仲に青年ひとり分の重さを抱きながら考察を深めている。


「血液そのものが、心臓の役割を持っているのね」


「はい」


 メイの回答に丸を贈っているのはトゥーイの喉もとであった。

 装置に頼らずに発せられる言葉の限界を使いながら、魔法使いの青年は右手に自分の武器を握りしめている。


「もしそうだとしたら」


 メイは続けて疑問を呟いている。


「どうやって壊すつもりなの? 液体なら、刃物や斧でこなごなにすることも出来ないわ」


 魔女の疑問点は、しかしながら魔法使いたちにとってはすでにいくらか解決をしている内容であるらしかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ