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灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
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武器はわたしが丁寧に適切に使ってみせます

こんにちは。今日の更新です。

 メイがキンシの背中をよし、よしと撫でながら少女のことをいたわっている。

 無事でよかった。命があってよかった。怪物に殺されなくてよかった。

 伝えるべき言葉が次々と頭のなかに産まれ、現れて重さを獲得していくような気がしていた。


 しかしそのどれもを実際に声に出すことしなかった。

 なんとなくなのだが、メイは魔法使いの少女が問われたいこと、聞かれたいことを直感的にさとったような気がしていた。


「キンシちゃん」


 メイがキンシに問いかけている。


「なにを見つけたのかしら?」


 命からがら生還をした少女に手向ける言葉としては、あまりにも意味が分からなさすぎている。

 しかし、魔法少女は白色の魔女の問わんとしている内容を即座に把握していた。


「心臓を見つけました」


 キンシがメイにそう話している。


「やっと見つけました、ついに見つけました。これで……これで……──」


 息も絶え絶え、荒れた呼吸音のさなか、キンシはメイの右手を強く握りしめている。


「──……これで、彼らを殺すことができます!」


 キンシはとても楽しそうにしていた。

 嬉しくてたまらない。お気に入りの喫茶店で大好きなケーキの一切れを頬張ったかのように、その口もとにはキラキラと輝く嬉々とした感情のきらめきが存在していた。


「そう、そうなの」


 今はそれどころではない。

 いろいろな意味を感がるなかでメイはまず、そう思わずにはいられないでいた。


 たったいま死にそうになっていたところだというのに、間違いなく殺されそうになっていたというのに、食べられそうになっていたというのに。

 なのに、魔法少女はまだ人喰い怪物を殺すことを諦めていないようだった。


 むしろ自分が殺されるなかで、相手を殺す意思を失いもしなかった。

 魔法少女はあくまでも自分が、怪物を、相手を、他の存在を殺すことしか考えていないのである。


「それは、よかったわね」


 魔法使いと言うものはそう言うものなのだろうか?

 メイはそう自分自身を納得させようとして、しかし自身の意識がその文章を認可できないのを同時に感じ取っていた。


「さっそく実行しなくてはなりません!」


 キンシはすっくと立ち上がり、左の拳をかたく握りしめている。


「トゥーイさん……」


 キンシは自分と同じ魔法使いである青年の方を見ようとした。

 視線を変えた先では、トゥーイが地面から起き上がり、くわえていたシースナイフを口から採ろうとしている最中であった。


 右手にほんもののナイフを握る。

 彼の姿を見た。


「え?!」


 キンシが右目の動向を丸く開いて驚いていた。


「お父さん?!」


「ちがうわよ!」


 キンシの勘違いをメイがすぐに訂正している。


「おちついて、キンシちゃん。あれはトゥよ」


 キンシはトゥーイのことを他の誰かと勘違いしそうになっている。

 正しい意見を言っているメイの左隣にて、キンシは小爆発程度に暴れている心臓を落ちつかせようとしている。


「で……ですが、トゥーイさん……その右手にあるナイフは?」


 周章狼狽(しゅうしょうろうばい)なキンシにメイが事情を手短に説明している。


「ツナヲさんがトゥに貸している武器よ」


「そうなのですか……」


 事情を端的に知るなかで、キンシの視線はトゥーイの右手握りしめられているナイフに集中していた。


「ですが……しかし……あまりにも……」


 キンシは自らの内層にこんこんと湧き出る疑問点をうまく処理しきれないでいる。

 三秒ほど考えて、六秒が経過したあたりで諦めをつけている。


「いえ、いまは丁度のよさだけを小さく喜ぶとしましょう」


「ちょうどのよさ?」


 なんのことを言っているのだろう。

 メイは小首をコクリとかしげそうになるところで、しかしてそれ以上にキンシがトゥーイの方に真っ直ぐ進み、手を差し出しているのに注目をしている。


「トゥーイさん」


 キンシは左手をトゥーイの方に、トゥーイはその空の手の平をジッと見つめている。


「まことに残念ながら、僕の武器はまだ彼らの内部、内膜に囚われたままです」


「…………」


 トゥーイがキンシのことを睨むようにしている。

 視線の鋭さ、激しさはしかして敵意から由来しているものではないようだった。


「先生」


 トゥーイがキンシのことを呼んでいる。

 今にも消え入りそうな声、雨が建物や植物に落ちる音で掻き消されてしまいそうな声音。


 それでも一生懸命に発した言葉は、彼が少女のことを心の底から心配していることの表れでしかなかった。


「大丈夫ですよ、トゥーイさん」


 キンシはトゥーイのことを安心させようとしている。


「シイニさんを殺した時とは違いますから、僕はいまとても冷静なのですよ?」


 疑問形になっているのがいかにも頼りない。

 だがトゥーイは自分自身に納得を結びつけていた。


 トゥーイが膝を曲げ、膝を地面に着けて屈む。

 ナイフの刃を持つ。

 切っ先を自分の胸元に向けたままで、持ち手がキンシの手が存在している方角に向いている。


 キンシがナイフの持ち手を握りしめる。

 銀色の刃、鋼で造られた武器の重さを実感している。


「すうぅぅぅー……はあぁぁぁー……」


 息を吸って、吐いている。

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