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灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
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叫べ青年命の限り

こんにちは。毎日更新、今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 メイはツナヲに回復魔術式をほどこそうとした。

 老人のことを心配する中で、白色の翼を持つ魔女である彼女は別の男性のこと、つまりはトゥーイのことを心配し続けている。


 白色の魔女がうれいているとおり、トゥーイの方でも色々と、それはもう実に色々とのっぴきならない事態に陥っているのであった。


「                       !                      」


 人喰い怪物が叫び声をあげている。

 調律の狂ったバイオリンが二つか三つ、同じ調子の音色をひたすらに流し続けているかのような音色。

 延々と聞いていたら、そのうち精神的ななにかしらの機能を損なうのだろう、きっとそうに違いない。

 脳みそが本来保つべき均衡の一片が波打ちぎわの砂の城のように崩れ落ちていくかのような、そんな予感をさせる声だった。


 音を聞きながら、しかしてトゥーイの聴覚器官はすでに不快な音の中に意味を見出しつつあった。

 怪物が苦しんでいる。恐ろしき人喰い怪物が苦しんでいる。

 

 ナイフを突き立てた傷口から次々と体液が溢れ出てきている。

 滑液は早くも酸化をはじめているようだった。

 女の股から滲み出る愛液のように透き通っていたぬめりは、子宮や膣壁の不純物を含んだ下り物のように黄色く濁り始めている。


 ぬるぬるとした体液を手の中に、暴れ狂う人喰い怪物の背骨にトゥーイは喰らいついている。


 右に左に、遠心力が暴力的な勢いの中でトゥーイの肉体を虚空へと勧誘し続けていた。


 離れるわけにはいかない、一刻も早くこの怪物の心臓をあばき、見つけだし、そして破壊しなくてはならない。

 そうしなければ、愛しの魔法少女が怪物の栄養素となってしまう。


 消化の恐怖は魔法少女本人以上にトゥーイのこころを、さながらナイフでズタズタに切り裂くかのように苛んでいる。


 ナイフの切っ先がさらに奥へと進む。

 処女の陰毛の茂みをかき分け、大陰唇の膨らみを割る、小陰唇の薄い柔らかさに受け入れられる陰茎のように、ナイフが怪物の決定的な要素へと挿入された。


「…………!」


 気配に気づいたのはトゥーイの過敏なる嗅覚であった。

 におい、情報が一気にトゥーイの頭の中を新幹線(ブリット・トレイン)のような速度で走り抜けていく。


 情報、光景、その他諸々の情報(データ)をトゥーイは見えない小さな手で拾い集めていく。

 秒に換算して三つの刻、トゥーイは確信を得ていた。


 魔法使いの青年が限りなく正解に近しい仮定を導き出していた。

 それと同時、怪物は別の存在にも強い影響をもたらしているのであった。


「あー」


 自分の身に危険が及んでいる、そのことに敏感に気付いているのはリッシェの喉もとだった。


 怪物の背骨、ちょうど尾てい骨に類似してる末端がリッシェの所有するクラシックカーを薙ぎ払っていた。


 ガガガガガガガガガガガガ、ガガガガガガガガガガガ ガガガ!

 金属が軋む。タイヤの魔力鉱物を材料とした合成ゴムが破れ、千切れる。


 車の後部座席に積んでいた様々なアイテム、主にガラス瓶に詰め込まれていた要素たちがこぼれていった。


 ガラスが粉々に砕け、淡黄色(たんこうしょく)から琥珀のような褐色がドロリ、ドロリとこぼれていった。


 甘い、栄養や魔力、その他諸々の実に素敵な要素をたっぷりと含んだ。


「あら、まあ」


 ツナヲに治癒魔法をほどこしていたメイが、彼から右手を話して破壊の様子を傍観していた。


「たいへん、ハチミツがそこらじゅうにこぼれちゃったわ」


 ハチミツの上に雨が降り注ぐ。

 粘液が少しずつ雨水に薄められていくハチミツたち柔らかさについて考えると、ツナヲはなんだか悲しくなっていた。


「やっべー! まじやっべー!」


 慌てふためいているのはリッシェの両腕であった。


「納品しなくちゃいけない商品が! 大事なハチミツが、クソ怪物のせいでグッチャグチャなんですけどー!」


 悲鳴を上げているらしい。

 しかしメイはどうにも上手く感情の形を把握できそうにない。

 のは、魔女自身が彼女のことを信頼していないことの証明にすぎなかった。


「マージむかついたってカンジー!」


 自分の側に被害がもたらされたところで、リッシェはようやく具体的な怒りを敵である人喰い怪物に抱くことができているらしかった。


「みんなー!」


 リッシェは背中の羽根、セイヨウミツバチがもつ飛行器官と類似した魔力の集合体を震動させている。

 ブウゥゥーン、ブウゥゥーン。

 彼女の羽根の音に呼応して、クラシックカーからおびただしい数のミツバチ、にとてもよく似た魔力的生命があふれだしてきていた。


 ミツバチにとてもよく類似した「それら」は、突風にあおられる粉塵のような猛烈さにて怪物に襲いかかっている。


 ブンブンブン!

 羽根の一枚一枚が小さな刃となる。


 刃物をたずさえた群れが怪物の肉体を切り裂いていった。


 質の良い紙とすれて皮膚に切り傷ができるように、怪物の表面にいくつもの細やかな外傷を与えている。


「やっちまえー!」


 ミツバチたちの見境のない攻撃はトゥーイにも及んでいた。

 腕にいくつもの細い赤い筋が刻み込まれていく。


「……………」


 邪魔だ。と、トゥーイはそう考えた。

 ブウゥゥーン、耳障りなミツバチの類似品たちの群れ群れに向けて、行動の無味さを嘆くように溜め息を一つ吐き出している。


 息を全て吐き出した後に、トゥーイはもう一度体のなかに空気を取りこんでいた。


 吸いこんで、口を目いっぱい限界まで開く。

 開ける、唇の右と左の端が裂けるのではないかと、そう恐怖を与えるほどに開ける。


「…………アー」


 喉の奥、空気をともなって音が発せられる。

 青年の声、肉と骨をもつ声がうまれていた。


 叫ぶ。


「      !!!         」


 一人の人間が発する声。

 全力、全身全霊、全ての生命力を圧縮したのちに開放を迎えた結果。


 ダイナマイトが爆発するかのような、そんな叫び声だった。


 音の形が暴力と言うパワーを帯び、ミツバチたち、もとい邪魔者どもを一気に蹴散らしていった。

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