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灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
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怖い人に近づく理由も意味も大して見つけられない

こんにちは。毎日更新、今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 怪物が、恐ろしき人喰い怪物が真っ直ぐこちらに向かってこようとしていた。


「 あああああーーー  ああああーーー  ‐‐‐‐‐あああ  あ ああああああああああああああああああああ」


 口を目いっぱい開いていた。

 かと思えば、次の瞬間には捕食器官をギュッと固く閉じている。

 かつて鳥類の(くちばし)のように、ある種の気高さを感じさせていた捕食器官は、いまや無残に砕け散っている。


 メイの放った矢をその身に受けたまま、固定のための魔術式を強引に打ち破った。

 行動に伴った弊害であった。


 それだけでしかない、ただそれだけの事だった。だからこそ、人喰い怪物は事実を気にも留めていないようだった。


 怪物は空間、世界に発症した傷、傷口から産まれ出ようとしている。

 肉体を動かそうとしている。

 しかし上手くいかなかったようだった。


「  あああ   あああ  あああ  あああ あああ    いいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃい 」


 人喰い怪物はなにやら不満そうにしているらしかった。

 動作の変化を観察していた、メイが怪物の状態を言葉に変換する。


「ひっかかっているみたいね」


「その、ようだね」


 白色の魔女の表現方法にツナヲが同意を返している。

 ツナヲの体力、主に魔力を基本とした肉体の機能はまだ回復しきっていないらしい。


「うん、たしかに何かが邪魔をして、上手く空間、この世界に発現できていないらしい」


 呼吸を丁寧に重ね合せながら、ツナヲは人喰い怪物の状況を把握しようとしている。


「しかし、その推進力は目が覚めるような勢いだ」

 

 ツナヲは怪物の望むところを仮定、敵について想像力を働かせようとしている。


「どうやら、まだまだその食欲は(つい)えていないようだ……」


 ツナヲはそう考えたところで、自らの思考を少しだけ否定している。


「……いや、違うな、あの人達が腹ァ空かせていねェときなんざ、それこそ死んだときか眠っている時ぐらいなものか」


「考察にいそしんでいるところ、悪いのだけれど」


 メイがツナヲに提案をひとつしている。


「どうにかしないと、このままだとキンシちゃんを飲みこまれたまま、空間のひずみに逃げ込まれるカノウセイはないかしら?」


「奇遇だね、オレも大体同じようなことを考えていたよ」


 「さすが」と言いかけたツナヲの口をメイは右の人差し指でス……と制止させている。


「そうならないためにも、あたらしい、美味しいエサをよういするひつようがあるわ」


「ふむふむ、して、そのエサとは?」


「私よ」


 メイはツナヲの正面に立ち、自分の胸元に右手を添えている。


「怪物さんは私の矢のにおいをおぼえている。それを利用して、私に関心をつよくひきつけるようにするわ」


 メイはそう言いながらツナヲの目の前から身をひるがえしている。

 スタスタと近付く、白色の魔女はトゥーイの手からナイフをするりと奪い取っていた。


「…………?!」


 何をするつもりなのだろう?

 トゥーイが傍観しているあいだに、メイはさっさと行動を起こしているのだった。


 身に着けている白色を基調としたガーリーなデザインのワンピース。

 フリルが程よくあしらわれたすそを指でまくり上げる。


 膝小僧よりも少し上、太もものはじまりまでがあらわになる。


 猿を起源とするありきたりでつまらない人間のような剥き出しの皮膚とは異なっている。

 メイの足は雪のように純白で、ショートケーキの上に座るクリームのひと塊のような柔らかい羽毛に包まれている。


 白くてフワフワな足。

 メイはそこに銀色のナイフをあてがっている。


 刃物を皮膚に押し当て、密着させた表面にすべらせる。


 ジャク。

 連続体が切断される、新鮮な傷口から真っ赤な血液があふれ出ていた。


 メイの白い足を彼女自身が切開した傷から漏出する新鮮な血液が濡らす。


「…………」


 トゥーイが眉間に深くしわを寄せている。

 不快感、共感することのできない痛みが魔法使いの青年に、ナイフで切りきざまれるよりも湿度の高い痛みをもたらしていた。


「これでちょうどいい釣り針、そのさきのエサにはなるでしょう」


 メイは足を引きずりながら、しかして必要とされる速やかさのなかでシースナイフをトゥーイの手元に戻している。


「…………ッ!」


 ナイフの重さにトゥーイは目を大きく見開いている。


 もしかすると……?

 メイは青年の心情を感じとろうとする。


 この子はもしかすると、ナイフがとても怖いのかもしれない。

 怖いのに、それでも魔法少女を助けるために武器を握りしめる。


「トゥ……」


 メイは血を流しながらトゥーイのことを見上げている。


「こんな状況で、キンシちゃんがいまにも死にそうな状況でいうのもあれだけれど……。

 なんだか私、あなたのこと抱き締めたくなってきたわ!」


 メイは白色の翼をバササッ!! とひろげてトゥーイに母性を撒き散らしている。


「…………」


「うん、ごめんなさい、そんな場合じゃないわよね」


 すこし反省、メイは次の行動にうつろうとする。


「さて、フィッシングの開始ね」


 メイは魔力の翼を羽ばたかせ、再び怪物にめがけて上昇を行おうとする。


 羽根がきらめいた。

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