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灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
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お金よりも原始的で野蛮な欲求たち

こんにちは。毎日更新。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 ツナヲの魔力を巡らせる回路、それらに類する器官が熱暴走を起こしている。

 メイは怯えるような視線で、老人の手の中にあるナイフを見下ろしている。


「その武器は……?」


「なに、ちょっとした、特別な貰い物だよ」


 ツナヲの蜜柑色(みかんいろ)の瞳がメイの椿の花弁のような色を持つ瞳を見上げている。

 しばらく視線を交わしたのちに、ツナヲは再びナイフへと視線を落としている。


「大切な人から貰った、大切な武器だよ」


 はて。不審を感じとった、メイは不信感のなかで彼らに確認している。


「ただの、殺すための武器、道具じゃない。なにがそんなに、たいせつにするひつようがあるのかしら?」


「おやおや、まずそこから聞くパターンかいな」


 ツナヲは呆れたようにナイフの刃を自分の手の平の中に包み込んでいる。


「論を重ねとる場合じゃないよ。()よおキンシ君を助けんと、あの子の骨と目玉がドロドロに溶けても知らへんよ」


 ツナヲは魔法使いと魔女のいる方角にナイフの持ち手を差し出している。


「ほれ、オレの超絶怒涛に上品で上質でハイクオリティーな魔力を注入しといたから」


 なんのことを言っているのだろう。

 メイはツナヲの言葉を理解するよりも先に、先にナイフの表面にて明滅する魔力の気配に気付かされていた。


 写真に写りこむ玉響(たまゆら)現象のような、蜜柑色に薄く透き通る光の弾が明滅している。


 オレンジの果汁がほとばしるかのような、瑞々しさはどうやらツナヲの魔力の形質であるらしかった。


「ツナヲさん、もしかして、鼻出血からちょくせつ魔力を注ぎ入れたのね」


「そうそう、ご名答。察しが良くて助かるよ」


 ツナヲはメイに解答を返している。


「魔法の武器には生き物、それも人間の血液が一番有効なんやって」


「不気味ね」


「それも、なるべく生の、生きている人間の血であればさらに万々歳だ」


「すごく気持ち悪いわ!」


 ツナヲの語る仮定の話にメイは鳥肌を立てて、白色の羽毛をブワワ! と膨らませている。


 老人の仮説が本当だとしたら、魔法の武器というものはなんと暴力的な存在なのだろう。


「…………」


 新鮮な魔力の気配、匂い。

 瑞々しい柑橘系によく似た香り。


 それらを嗅ぎながら、トゥーイはほぼ迷うことなくナイフの持ち手を掴み取っていた。


「トゥーイ君、君の持つギターやバイクはあくまでもキンシ君……あの子を補助するためだけの目的として使うものなんだろう?」


「…………」


 ツナヲからの問いかけに対して、トゥーイは無言のまま体の動きを必要最低限まで止めている。


 肯定なのか否定なのか。

 どちらにせよ、ツナヲにしてみれば青年の都合など大した問題では内容だった。


「第一、ギターやバイクは人を殺すための形を持っていない。なのにどうして君はわざわざあの形の武器を選んでいるのか。理由を聞いてもいいのかな?」


「…………」


「だめっぽいね。まあ、いいか」


 老人の魔法使いが青年の魔法使いに推奨をする。


「これは殺す手段だ、大事に使いたまえ」


 ツナヲがトゥーイに笑いかけている。


「…………」


 先達の手助けを借りることにした。

 トゥーイはナイフを握りしめる。


「そんなにちいさな刃物で、いったいどうすれば怪物さんを殺すことができるのかしら?」


 メイが不安がっている。


「なに、全部を殺す必要性なんて無いよ」


 ツナヲが方法を提案している。


「ちょっと狙いを定めて、切り傷を作りだせばいい」


「んん……」メイはしばし考える。「キンシちゃんが溶かされようとしている、その場所を切り裂いて、引きずり出せばいいのね」


「ご名答!」ツナヲがメイを褒め称える。「素晴らしい推察力だ、さすが「魔女」を名乗るだけの器量はあるね!」

 

 ツナヲは褒め言葉の途中で思考をひとつ、巡らせている。


「しかし、そのためにはまず()()中途半端な状態を解決してあげなくちゃいけないだよな」


 ツナヲがなんのことを言っているのか、メイは視線を怪物の方に動かすことですみやかに認知していた。


「傷に埋まったままだったわね」


 メイは怪物の状況を観察する。

 白色の魔女が見つめている先。


「   あぐあぐあぐ  あぐあぐあぐ あぐあぐあぐ      ああああああ  もももおももも 」


 人喰い怪物は魔法少女を一人分飲みこんだ後に、咀嚼(そしゃく)の真似事のようなものをしていた。


 (くちばし)はやはりバラバラに砕かれたままになっている。

 白い輝きが見え隠れしているのは、メイの放った矢がまだ刺さったままであった。


 ギョロリ。

 怪物の目がこちら、メイたちがいる方角に向けられている。


「おっと、色々やっとったら向こうさんに気付かれちまったかな?」


 ツナヲの言葉をメイはすべて聞き終えることができなかった。


 なぜならば、怪物が自分たちめがけて突進をしてきていたからだった。


「   ああああああああははははははは   ああああああああはははははは    あは    」


 砕かれた嘴をめいっぱい開いている。

 口の端が裂けるのではなかろうかと、メイは思わず敵を心配しそうになる。


 しかし心配は無用であるらしかった。

 怪物にはほとんど骨しかない。


 それに多少口が裂けるのがなんだと言うのだ、人喰い怪物はたったいま新鮮で上質な魔法少女約一名? を、捕食したばかりなのである。

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