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灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
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薄弱なアイデンティティーをみせてあげよう

こんにちは。毎日更新、今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「…………?!」呼び止められた、トゥーイは強烈な苛立ちの最中(さなか)にて首だけを小さく後ろに振り向かせている。


 視線を向ける、そこには一人の老人が立っていた。

 トゥーイにとってすでにいくらか見慣れた姿、それはツナヲの姿かたちであった。


「まだだ、まだ全てを出しきるには事が早すぎる」


 ツナヲはどうやらトゥーイのことを抑制したがっているようだった。

 蜜柑色(みかんいろ)の柔らかな体毛に包まれた耳。

 兎のような造形をしている聴覚器官は、今は枯れたエノコログサのように萎れてしまっている。


「いったん落ちついて、深呼吸でもしようや」


 何を言っているのだろうかこの耄碌(モーロク)ジジイは?

 トゥーイは信じ難いものを見つけてしまったかのような、そんな視線をツナヲに向けている。


「そない怖い顔してもしゃあないで、もっと冷静にならなアカンよ」


 歯を剥き出しにしてコイツの喉元を今すぐにでも喰いちぎってやろうか。

 トゥーイは右手に持つ武器の存在さえも忘れそうになっている。


 このままでは駄目であると、ツナヲが察しよく魔法使いの青年の感情の荒々しさにかるい絶望を抱いていた。


 トゥーイは再び走りだそうとする。

 しかしその眼前に大きな鳥の影がおおいかぶさる。


「…………ッ」


 (カラス)でも飛んできたのだろうか。

 もしそうだったとしたら、秒を跨ぐことなく鶏肉を捩じり切ったのに。


 伸ばしかけた手の平は、しかして人間のそれに類する肉の少ないあばら骨にぶつかっていた。


「いやあね、トゥ」


 骨の持ち主、メイがトゥーイに語りかけていた。


「いきなり女のひとの、おっぱいにさわるなんて、いったいどこのだれがそんなコミュニケーションの、方法を、教えたのかしら?」


 メイはトゥーイにやさしくほほえみかけている。

 まるで風邪をこじらせた愛しの我が子にあたたかいおかゆを食べさせるように、表情は聖なる慈母のそれとひとしい輝きを持っている。


 だが同時に、メイは自らの肉体に展開させた魔力の翼を大きく広げたままにしている。


 腰回りにおおきく展開された白色の翼。

 巨人の手の平のように大きく広げられている。


 トゥーイはそこに、白色の魔女が蜜柑色の老人と同じ意見を有していることを把握していた。


「…………」


 トゥーイはメイのことを睨む。

 

 視線の鋭さにメイは身がすくみそうになる。

 しかし相手の敵意、ナイフのように鋭い殺意に屈するわけにはいかなかった。


「キンシちゃんをたすけたいのよね?」


 メイは強いこころ、激しさを有した口調にてトゥーイに問いかけている。

 相手の答えを丁寧に待ちのぞむことはしない。


 受動的な態度では済まされない、メイは能動的にトゥーイに向けて意見を発していた。


「でも具体的に、助けるための、方法、それを知らない」


 まずは相手の状況をすこしでもおおく入手する。


「…………」


 全てがまるっきり正解というわけではい。

 しかしトゥーイは白色の魔女に己の心情を1ミリでも管理されつつあるのが、どうにもこうにも、不快で仕方がないようであった。


「だけど、どうかしら? ツナヲさんにはもしかすると、なにかとても良い策があるのかもしれないのよ?」


 わざわざ言われずとも、トゥーイはすでに老人の意向に薄々気が付いていた。


「お嬢さんの言う通り」


 魔法使いの青年の動きを止めている。

 今のうちである、ツナヲは右の人差し指をつい、と上に差し向けている。


 呪いの火傷痕が残る指先。

  

 亜大陸の南部、半島にある種の国に古くから伝わる宗教的な意味合いを想起させるデザイン。

 エスニックでありながら、老人の節くれだった指に程よく寄り添うように刻み込まれた火傷。


 火傷の空白を埋めるようにはめ込まれているプラチナの指輪。

 ツナヲはそこに魔力を集中させる。


 ここにはいない魔法少女のように、分かりやすく大げさな呼吸方法は必要とはしなかった。

 実に慣れた動作である、ツナヲは指先に素早く魔力の形を組み上げていた。


 オレンジ味のグミが現れた、そう思いこみそうになったのはメイのかんちがいでしかない。


 プルプルと柔らかい塊がツナヲの指先から風船のように膨らんでいく。

 

 バルーンアートのように膨らんだ、蜜柑色がパチン! とはじけている。

 破裂した要素、その後にツナヲは右手の中に一振りのナイフを握りしめていた。


 老人の手の中にあるナイフ。

 ボーイスカウトが使用していそうな、広く一般的な形状を持ったシースナイフであった。


 鋼と同じ銀色を持つ、老人はとても慎重にナイフを握りしめている。


「う」


 パタタ……ッ。

 赤い雫が地面の上に落ちる。


 それはツナヲの鼻腔から漏出する鼻血の軌跡であった。


「うぐぐ……」


 ツナヲが鼻血を出しながら姿勢を崩している。

 ナイフの背を自分の胸元に押し付け、背中を小さく丸めている。


「ツナヲさん?!」


 メイはツナヲのもとに駆け寄る。

 なにが起きたというのだろうか? 

 いや、メイには答えはすでにある程度予測することが出来ていた。


 指先でツナヲの左頬に触れる。


「たいへん……! 魔力の回路が、すごく暴走しているわ」


 老人の肉体はまるで熱病に罹患(りかん)したかのように、健康から遠く離れた体温を帯びてしまっていた。

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