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灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
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二度目の人生もあまり甘くなかったようだ

こんにちは。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 キンシは槍を握りしめている。

 穂先を前に構え、切っ先を空間の歪がうまれようとしている方角に固定している。


 キンシの持つ武器。銀色の槍に類似した魔法の武器。

 万年筆、持ち運びに特化した携帯用のペンに類似したモノ。


 銀色の金属製のペン先に類似した刃の部分。


 ペン体に小指の指先ほどの大きさに拡大されたハート穴。

 本来ならばインクを通過させるための細い溝は、今は敵の血を欲して冷たく乾いている。


 ペンポイントはするどく尖る。

 人喰い怪物の血を切り裂き、突き刺し、寸寸(ずたずた)にするための刃。


 ペン先を真似た槍の穂先が、キンシの腕の動きに合わせて揺らめいている。


 まだ確実なる固定が為されていないのは、武器の持ち主であるキンシが敵の姿を見出せられないでいるからであった。


「これはカンゼンなる、時間外ロードーってカンジー……かしら?」


 メイがリッシェの口調を真似ている。


「そう言うことになるのでしょうね」


 白色の魔女の言い分にキンシが肯定だけを返している。


「本来の依頼内容とは異なる、完全なる別件ですからね」


 キンシは槍の石突をコツン、と地面に着けている。


「困ったものです、戦いの場面がこんなにも……たくさん……」


 言葉に詰まっている。

 メイは魔法使いの少女が戦いに怯えていると、そう言った形の感情を期待していた。


 しかし期待は外れることになった。


「ドキドキしますね!」


 魔法少女は喜んでいるようだった。


「さあ、人喰い怪物を殺しましょう!」


 喜悦(きえつ)にひたる魔法少女。


 少女の喜びを羽毛に感じ取る。


「楽しそうね」


 メイは呆れるように少女の戦いに参加することを選んでいた。


 右の手の平をかざす。

 紅色の光が明滅したのち、メイの手の中に弓が握られていた。


 洋弓とは異なる、メイの身長と比べて一回り長い造りの和弓。

 人喰い怪物……あるいはそれらに類する存在の骨格から削り出された武器。


 弓をたずさえながら、メイは腰のあたりに自らの魔力を集中させる。


 メイの属する鳥の獣人族特有の魔力の翼が発現する。

 雪のように白い翼、メイは指先で羽根の一枚を抜き取っている。


 雪の結晶のように繊細そうに見える、羽根は魔力の持ち主の意向にしたがいその姿を変身させる。


 またたく間にメイは一本の矢を作成し終えていた。


 彼女たちが戦いの準備を整えようとしている。

 そのあいだに予定外の人喰い怪物はこの世界へとこぼれ落ちようとしていた。


 リッシェと魔法少女たちが乗ってきたクラシックカーの背後、百センチほど離れたところに空間の(ひず)みがうまれようとしている。


 雨が降っている。

 灰笛(はいふえ)に降り注ぐ雨、雫たちが空間から要素を抜き取っている。


 ある種暴力的なまでの吸収が空間のゆがみを増幅させ、やがてそれが「傷」のような現象へと変容する。


 透明な液体のようなもの、「水」と表現したほうが都合が良さそうなものたちが溢れ出る。

 それらは世界の血液に類する柔らかさであった。


 母親の血を浴びて産まれ出る赤ん坊のように、「水」にまみれた存在が世界に発現していた。


「 おお  おお  おお  おお  …………  おー   ---おお  おおお  おーー お 」


 三歳も迎えていない人間、まだ生命本来の姿を失い切っていない幼子の喉から発せられる声音のような、なにかしらの音が空間を震動させている。


 ズルリ、角のような器官が傷の隙間からはみ出ている。


 口である、人間たちがそう理解できたのは、器官が完全に引きずり出されるよりも前に産声をあげているからであった。


「  おーーー  おーーーー ぎゃああああ  ぎゃあああ  おぎゃあああああ!!!」


 泣き声は涙を持っていない、涙腺を必要としていないようだった。


 恐ろしき人喰い怪物がこの世界に産まれ落ちようとしている。

 

 母親、母体である世界の空間は腹に力を入れる術を持たない。

 であれば、人喰い怪物は自分だけの力でこの世界に産まれようとするだけであった。


 ポクポクポク、ポクポクポク、ポクポクポク。

 古ぼけた木魚を叩くような音が連なる。


 怪物の足がその身を世界の狭間からはみ出させるために蠢いている。

 

 ゲジのように多い歩脚のような器官。

 細やかに動作する肢たち。


 一本一本はか細く、冬の枯れ枝のように心許ない。

 しかしそれらが密集する動作は、怪物の肉体を滑るように動作させていた。


 滑るように空間を移動する、怪物の全体がズルリ、ズルリと世界の狭間から生まれ落ちていた。


 怪物の姿、それは。


「鳥の頭蓋骨、のようね」


 メイが脳内にある情報の群れ群れから、おおよそ適切と言えるであろう言葉を選び、表現をしようとしている。


 イヌワシなどのタカ目がもつ頭部の骨格に類する形状。

 ただ本物の骨と異なっているのは、骨を形成する乳白色の結合組織に直接羽毛やらが生えていることだった。


 サバンナの植生、草原のようにまばらで背の低い植物のような生え方。

 灰をばらまいたかのような不規則さであった。


「メイお嬢さん的に、あの羽根の生え方はどう思います?」


 キンシがメイに問いかけている。


「ナンセンスね、ロンガイだわ」


 メイは人喰い怪物の羽根を分かりやすくけなしていた。

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