笑い方がかわいいから良いのかもしれない
こんにちは。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。
リッシェが見ている先にて、蜜蜂によく似た「何かしら」たちはすでに要素を集め終えているらしかった。
ブウゥゥーン、ブウゥゥーン。翅の音が鳴る、リッシェは彼らをスマートフォンの操作で誘導しようとしていた。
スイスイと右側の人差し指でスマートフォンの液晶画面をスライドする。
ピコン! とスマートフォンからはちみつ色に透き通る矢印が発現し、光り輝いている。
矢印はスマホから離れ、魔力を宿した植物の群れ群れからミツバチたちを別の場所に誘いこもうとしている。
「人間の感情を栄養源に、この世界の植物の種はそう言った魔力っぽいエネルギーと融合しやすいらしいんだよねー」
リッシェはスマホで矢印を操作しながら、ミツバチたちが運ぶ内容についてを語っている。
「いわゆる異世界転生、転移? ってカンジー」
たったそれだけの言葉では足りないと、キンシが子猫のような聴覚器官をペタリ、と平たくしている。
「いえ、事象はもっと複雑で、彼らの魂はそれだけの言葉では語り尽くせないほどの自由を持っているのです」
「じゃあ、キンシクンがもっと分かりやすく? 具体的に? セツメーしてみせてよー」
「んるええ?」
リッシェからの要求に、キンシが自らの言葉と行動を後悔しつつあった。
「ほらほらー、ちゃんと言葉を使ってみせてよワナビさん」
「えっと……えと、その……」
言わなければよかった。
……とは思わせるものか。
決意を芽生えさせているのは白色の魔女のこころであった。
「転移や転生は、すでに使い古されて、あまりにも親しみがありすぎている、言葉ね」
リッシェと、そしてキンシの視線がメイの方にうつる。
「まるでいつも使う電車の席みたい。
他の誰かが間違いなく使っていると、自覚していながら、同時に、自分以外の誰もが使っていない、自分だけの、特別な、場所だと。そう思いたくなるの」
「んるる……そう言われますと、なんだかどんどんむつかしいお話しになってきましたよ?」
キンシがさらに頭を悩ませているあたり、どうやらメイはあくまでも魔法少女を安全かつ完全に救済したいわけではないようだった。
「ともかく、私はここにあたらし目の言葉をかんがえてみたいの」
「と、言いますと?」
キンシは彼女の存在を忘れて、ひととき白色の魔女の提案に集中して耳をかたむけている。
「融合よ! これはもはや異世界融合よ!」
「ええ……」
メイの言葉のチョイスにキンシはあからさまな不満を呈していた。
「なんといいますか……ダサいですね」
「いいのよ、ダサいくらいがちょうどがいいの」
メイが強引にキンシを納得させようとしている。
まるで新品の高級なおもちゃを買ってもらえずに型落ち品でお茶を濁された幼子のように、キンシは不満を隠そうともしない。
「それはそれとして、ミツバチさんたちは、どこにミツをはこぼうとしているのかしら?」
すっかりいつもの調子を取り戻した、メイがリッシェに疑問を投げかけている。
「よっくぞ聞いてくれましたー」
やりとりに飽きはじめていた彼女は、スマホで自分の乗ってきた車の方を指し示している。
「教えたい、ところだけどー」
リッシェは視線を少し遠く、しかし離れていないと思えるところに固定している。
「さきに、お客さんが来ちゃったみたいだなー」
彼女が見ている先、そこに空間のひずみがうまれていた。
彼女はまるで最初から理解しているかのようだった。
事実を確認したかったが、しかし、今はそれどころではないようだった。
「なんと!」
キンシが左手を空間の中にかざす。
「まさか、こんなところで?」
新緑の色がまたたく光が明滅する。
きらめきのあとに、キンシの左手には銀色の槍が握りしめられていた。
「毎回、毎回、悪意の蜜を集めるとー、こんな感じに人喰い怪物が集まってきちゃうんだよねー」
リッシェは魔法使いたちの後方に下がり、自分の身の安全を守ろうとしていた。
「いつもは他の人達に守ってもらうんだけどねー」
「もしかして、最初にお会いしたとき、蟷螂に追いかけられていたのも……」
キンシが予想している。
事務所の報告に会った怪物の登場は、どうやら彼女が主たる原因であるらしい。
「そういうカンジー」
リッシェはすでに安全、比較的安心できるところに逃げていた。
「でもさー、他の人達が今日は別件があるからってー、アタシの仕事をドタキャンしやがったんだよー。マジサイアク、あり得ないってカンジー」
「それは災難でした」
口でこそ同情をするような丁寧さを演出しようとしている。
しかし、キンシはすでに自分の関心が彼女から離れていっているのを静かに自覚していた。
「では、今回は僕があなたを、恐ろしき人喰い怪物から守ってみせましょう」
「もうすでに、一回守ってもらってるけどねー」
リッシェは冗談を交えながら、同じような語調で魔法少女に声を届けている。
「でも、命を助けてくれるのは、素直に感謝しなくちゃねー」
「いいえ、それは少し間違いです」
彼女の言い分を魔法少女は少しだけ否定する。
「感謝の言葉は、あなたのこころが完全に守られる、その瞬間にこそ頂戴すべきなのです」




