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灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
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特別な感情はとくに必要ありません

こんにちは。毎日更新。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「ほら」


 リッシェがメイに黄色の花……のように見える「何かしら」を放り投げていた。

 メイはそれを手の中に受け取ろうとする。


「……!」


 しかしその寸前、メイは全身をまんべんなく包む白色の羽毛にえもいわれぬ不快感をおぼえていた。

 受け取ろうとする手を強引に反らす。

 そうすると黄色の花が雨に打たれ、濡れて地面に落ちていった。


「さすがに、そこの子猫の魔法少女よりかは愚かじゃなかったかー」


 リッシェが残念そうにしている。

 彼女のはちみつ色の視線の先にて、黄色い花が微かな光を放ちながら雨に溶かされていった。


「他の誰かの魔力、他人の感情の寄せ集め……」


 魔力の反応を見て、メイは頭の中の情報を検索している。


「それはこの世界以外の人間、あるいはそれに類する、存在、の感情の雫」


「そうそう、そんなカンジー」


 メイの様子をリッシェはすでに満足げな気配にて眺めている。


「さすが、話に聞いていた以上に、検索能力は健在ってカンジー?」


 彼女が魔女のことを値踏みするように眺めている。


「どうかなー? まだなにか、思い出せそうなことはあるー?」


「私は、私は?」


「例えば、初体験を捧げたオトコの話とかー? もののついでに思い出しちゃいなよー」


 気付いたころにはすでに遅かった。

 メイは自分の両目でリッシェの瞳を見返している。


 彼女のはちみつ色の瞳。

 そこには他の誰かに自分の思い通りの展開を望む、責任とは遠く離れた他人の熱い視線が籠められていた。


「ほらほらー思い出してー。なにかしら、男の影があるんじゃないのー?」


「そんな、私は……」


 メイが情報の集合に頭をぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐると渦巻かせている。


 すると、そこへ背後から少女の柔らかい手が伸びてきていた。


「落ちついてください、メイお嬢さん」


 雨に濡れてひんやりと冷たい。

 手の持ち主はキンシであるらしかった。


「これはただの脅しですよ、あなたは不必要に怯える必要はございません」


 キンシの言葉は雨よりも爽やかな冷たさに満たされていた。

 いつかの夏の昼日中、自動販売機で購入したサイダーのような冷たさ。

 舌の上で新鮮なリンゴの果汁のようにはじける、炭酸の粒のことを考える。


「でも、私に向けられた、脅迫だわ」


 甘い雫たちのことを考えると、メイは段々と情報を頭の中で整理できるようになっていった。


「気にすることは無いですよ、ただの言葉です」


「あなたが、よりにもよってあなたがそれを言う?」


 メイはすでにいくらか落ち着きを取り戻していた。

 他人の言葉に影響をされているという点においては、彼女と魔法少女とのあいだにあまり違いは無いように思われる。

 

 ゆえに、メイはすこしでも自分にとって都合のいい方を選ぼうとしていた。


「ありがとう、キンシちゃん」


 白色の魔女は子猫のような魔法少女に感謝の念を抱いた。


 しかし物はついでである、メイはキンシに質問をする。


「小説家を目指すあなたが、言葉の力を軽んじるべきではないと思うのだけれど?」


「そ、そそそ……そんな!」


 次の瞬間にはすでに、キンシはいつもの頼りない調子を戻しているのであった。


「ぼ、ぼぼ……僕なんかが、そんなっ、小説家なんて大それた……!」


「えー? なになにー? キンシクンってば、いわゆるワナビってやつなのー?」


 魔法少女と魔女のやり取りを聞いていた、リッシェの方でもすでに展開を切り替えているらしかった。


「マジかー、こんどアタシを主人公にした大長編スペクタクルでも書いてよー」


 キンシが「んるる……」と困惑しきっている。

 彼女の矛先が魔法少女に向けられている。


 そのあいだに、メイは頭のなかに拾いあつめていた情報を言葉の上に用意していた。


「それで、このお花たちは別の世界の人間の、他の人たちの、魔力がふりつもって、咲いたお花のようなもの。ってことになるのね」


「そうそう、そういうカンジー」


 リッシェは魔女から情報を聴き出せなかったことを少し残念そうに、しかして次の文章では自分の属する領域についての話題へと移り変わっていた。


「主に悪意に類するモノ。他人がおちぶれるのを傍観する甘い快感、他人の夫婦の不仲を取り持つ時の疎外感と気持ちよさ、あるいは無断転載のエロ本を眺めて身をなぐさめるときの罪悪感と肉の良い気持ち」


 リッシェは語り尽くせない例を語る。


「ともかく、アタシたちでは到底作りだせない感情の重さを材料に、この灰色? ハイブエ? ハイテキ? えっと、灰色かび病?」


灰笛(はいふえ)、ですよ」敵と認識していながら、キンシは反射的に彼女に助け舟を寄越している。


「そーそー、灰笛(はいふえ)ね、灰笛(はいふえ)

 なんなんだろうねー、この名前。灰と笛? 笛ってなに? 灰まみれの笛でも吹くの? ピューって、ピューって。意味わかんないー」


 リッシェは大して興味もなさそうに一つのことを否定している。


「ともかく、ここ以外のどこかから生まれたエネルギーが、このいまいち冴えない地方都市に暮らす冴えない人たちのもとに降り積もってきているってワケー」


 リッシェが少し上を見ている。

 はちみつ色の瞳めがけて、魔力を含んだ雨の雫が落ちてきていた。

 

 しかし彼女の瞳は雨に濡れていない。

 なぜならばその体は蜜蜂によく似た「何かしら」達の翅の動きによって守られているからだった。


 小さな翅たちが灰笛(はいふえ)の土地に降り注ぐ魔力の雨に溶かされていく。


 音を聞きながら、リッシェは視線を黄色い花たちに戻していた。


「それで、魔力がたまったところにこんなカンジの、植物に似た魔的(まてき)な存在が産まれちゃうってワケ」

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